教育改革のとりくみ 目次

福岡県宗像市における小中一貫教育の取組

福岡県宗像市教育委員会

1.はじめに

 宗像市では,平成18年度から日の里中学校区(施設分離型:日の里東小,日の里西小,日の里中)と大島中学校区(施設一体型:大島小,大島中)を,小中一貫教育の調査研究校として指定・委嘱し,研究を進めてきました。3年間の研究を終え,平成21年度からは小中一貫教育推進校として着実な歩みを始めています。ここでは,この3年間の研究を振り返り,成果や子どもたちの姿,その背景にある学校の努力と工夫点を中心に紹介します。

 

2.調査研究3年間の成果(モデル校指定3年間のまとめ)

成果1 勉強が好きと言う子どもたちが増えました
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 【資料1】は,「教科の勉強は好きですか」の問いに対する回答です。19年度の割合を見ると,小中一貫教育導入直前の平成17年度よりも,教科の学習が好きな子どもの割合が増えています。特に,中期(小5〜中1)の児童・生徒で増えていることがわかります。

成果2 不登校の児童・生徒が減少しました
 【資料2】は,日の里・大島中学校区における平成18〜20年度(9月期)の不登校の児童・生徒数の推移です。18年度の9人に対し,20年度は1人へと減少していることがわかります。特に7年生(中学1年生)の不登校数は0人になっています。今後も,学校が楽しいと言える子どもを増やしていきます。 クリックで拡大

成果3 保護者や教師の児童・生徒への評価が高くなりました

 【資料3】は,平成18〜20年度(2学期)までの日の里中学校区の保護者,教師による児童・生徒の育ちに関する評価の推移です。ほぼ全項目で,年々上昇していることがわかります。教職員による教育活動や組織運営に関する評価でも同様の傾向が見られ,小中一貫教育による成果に手応えを感じていることがわかります。今後も,4点満点に近づくように取り組んでいきます。

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3.成果を生み出した3つの工夫と研究発表会

A. 義務教育9年間を見通した
     一貫性のある教育計画の工夫

1一貫した教育目標と教育区分の弾力化

 各学校の教育目標を統一し,児童生徒の発達段階を考慮して,前期,中期,後期という3区分を設定しました【資料4】。

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2小・中学校のつながりを考慮した指導計画の作成

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 9年間を見通した各教科,道徳,特別活動,総合的な学習の時間の指導計画(写真)を作成し,実施しました。これにより,小学校教員は中学校の学習内容を理解し,中学校教員は小学校の学習内容を理解した上で,授業をすることができるようになりました。
B. 指導体制,指導方法の工夫

1兼務教員による授業と小学校における一部教科担任制

 兼務教員制度(※注1)の実施により,カリキュラムに基づいた小・中学校間の授業交流を行うとともに,特に小学校高学年においては,教師の専門分野を生かした一部教科担任制を導入しました。児童・生徒の興味や関心,探究心が高まり,学習意欲の向上を確認することができました。

※注1: 兼務辞令を受けた小学校の教員が中学校で授業を行ったり,また,中学校教員がその専門性を生かし小学校で授業を行う(写真)制度。

2校務組織,外部評価組織の工夫

「小中合同校務会議」の開催
  校長や教頭,教務主任,研究主任が出席し,小中一貫教育の方針や方策を決定していきます。
小中合同「職員会議」「教科等部会」の開催(写真)
  教科などの学習指導の方法や学習の計画について調整,開発し,情報交換を全教員で実施しました。
「学校運営評議委員会」の開催
クリックで拡大  各学校が別々に配置していた学校評議員に代わって,小・中学校合同で運営評議委員を任命し,中学校として「学校運営評議委員会」を新たに組織しました。学校関係者評価機関として位置づけ,小中一貫教育を客観的に評価し,教育活動の改善に反映することができました。また,この評価は積極的に公表しています。


C. 計画的,継続的な交流活動の工夫

 小中合同の歓迎遠足や日の里東小・日の里西小5年生の合同での集団宿泊学習(セカンドスクール),6年生の合同修学旅行,中学生による小学生への組み体操の支援や読み聞かせ,9年生を送る会,合同文化祭など,さまざまな交流活動を充実させました。


D. 研究発表会の開催

 日の里・大島中学校区の小中一貫教育研究校の研究発表会が平成20年10月31日に開催され,県内外から合わせて約800人の参観者がありました。

日の里中学校区では,兼務教員による授業をはじめ,各教科,領域(道徳,学級活動)すべての授業を,小中一貫カリキュラムに基づき公開しました。
大島中学校区では,共通の学校目標「豊かな心と確かな学力を身につけた子どもの育成」に向かって,少人数の特性を生かした個人カルテを作成し,その子に応じたきめ細やかな指導を推進しました。当日は,全学年まで共通した学習のしくみで「考える力」を育てる授業を公開しました。また,学校での授業の約束やノートのとりかた,家庭学習の進め方などを紹介した「学びと生活のすすめ」を作成,配布して学習の習慣づくりに役立てた事例も公開しました。

 

4.「小中一貫教育全国サミット」の開催

 平成21年8月21日に,宗像ユリックスを会場に「小中一貫教育全国サミットin宗像2009」(主催:小中一貫教育全国連絡協議会,主管:宗像市教育委員会)を開催しました。

 『子どもの未来を拓く小中一貫教育を目指して〜地域に根ざした実践の意義と教育効果〜』をテーマとした本サミットでは,全国から1600人を超える教育関係者が集い,シンポジウム,分科会実践発表,パネルディスカッション等を通して全国各地で取り組まれている小中一貫教育の成果と課題並びに今後の方向性を議論していきました。
 
 パネルディスカッション(写真)においては,国立教育政策研究所工藤文三氏,千葉大学教授天笠茂氏,京都ノートルダム教授加藤明氏,福岡教育大学教授寺尾愼一氏の4名のパネリストにより,新学習指導要領の趣旨を生かした小中一貫教育の意義とその教育効果についてご提言をいただきました。

 

5.小中一貫教育研究図書の発刊

 上記サミットの開催に合わせ,小中一貫教育研究図書『確かな学力と豊かな心を育てる小中一貫教育』(監修:福岡教育大学教授 寺尾愼一氏)を発刊しました。本書は,これまで宗像市が推進してきた小中一貫教育の考え方と調査研究校における取組の実際をまとめたもので,特に第2章は「小中一貫教育推進のためのQ&A」と題して「小中一貫教育の立ち上げ方」「教育課程の編成・実施・評価」「研修の効果的な推進」「兼務教員の活用や小学校の一部教科担任制の導入」「保護者への理解」等がQ&A形式で記述されています。小中一貫教育に推進に向けた研修資料としての活用を期待しています。
(問い合わせ先:宗像市教育委員会教育政策課TEL 0940-36-5099)

 

6.拡大・充実に向けた今後の改善点

1 学習の指導方法や評価について,共通理解を図る時間設定や校内研修,会議などの共同開催などによって改善し,一層の子どもの学習意欲や学力の向上を図ります。
2 小中一貫教育を市内に拡大していきます。21年度は,調査研究校として,中央中,東郷小,南郷小の3校で小中一貫教育を本格的に進めていきます。そのために,教育委員会は学校とともに次の点について努力します。
 
小中一貫教育の効果を子どもの多様な学力の変化から公表できるよう努めます。
子どもたちが安心して授業を受け,より力を伸ばせるような一貫した授業のあり方を学校とともに追求していきます。
そのほかの中学校区の学校数や規模,児童生徒数,伝統,学校間の距離などの地理的条件,地域や保護者の要望を把握した上で,学校との連携を図ります。
小中一貫教育を推進していく場合に必要な学力向上支援教員(宗像市費雇用)配置などの条件整備を実施します。

 


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