教育改革のとりくみ 目次

豊かな体験活動を通して,「生きる力」の育成をめざす

北海道 江別市立北光小学校

はじめに

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 本校は,江別市の北部に位置し,江別市の全面積の四分の一強をしめる市内随一の農業地域にあります。かっては稲作が中心でしたが,近年は,道産ブランドとして脚光を浴びるようになった小麦「はるゆたか」の栽培も急増しています。

 このような農村地域で育ちながら,機械化の影響もあって子どもたちは,農作業を手伝うことも少なく,田植えや稲刈りの体験をすることもほとんどないという状況が見られました。そのような中,農業地域で育つ子どもたちに,農業文化のよさを体感させたいという保護者や地域の方々の思いを受け,本校の「稲作体験学習」が開始されました。

 本校の稲作体験は,籾蒔きから脱穀までの一連の作業を体験するプログラムとなっており,田植えの後には,稲の成長の観察,世話も盛り込まれています。そのため,観察等を通して「水田にはどんな生き物がいるのだろうか」「水田に来ると涼しいけど,本当に気温は低いのだろうか」など,自然や環境への関心を高めることのできるプログラムにもなっています。

 このようなことから,稲作体験を総合的な学習の時間に位置付け,体験を通して課題を見付け,探究活動に主体的に取り組む態度や課題を解決できる能力を育成する教育活動を展開しています。

1 総合的な学習の時間と稲作体験

  本校の総合的な学習の時間は,主として「環境教育」と「ふるさと教育」によって構成されています。この2つのジャンルを結ぶものが稲作体験です。稲作体験を通して,環境への関心を高め,身近な課題を持たせ,探究活動に取り組ませていくことや自分たちの住んでいる地域の自然や産業,歴史などにに目を向けさせ,ふるさとをより深く理解させることを目指しています。

「総合的な学習の時間」年間指導計画(第5学年)

1 「総合的な学習の時間」の基本構想



2 学習テーマ及び年間活動の流れ

 (1) 環境教育テーマ「米づくりと自然環境のかかわりを調べよう」
 (2) ふるさと教育テーマ「自分が育った江北地区の稲作と空知の稲作を比べよう」
 (3) 年間の活動の流れ

3 豊かな心の育成と「稲作体験」

 「豊かな心」の育成は,学校教育における重要な課題の一つです。

 本校では,子どもたちにはぐくみたい心やそのための具体的方策を明確にした「豊かな心醸成プラン」を策定し,その実践に努めています。中でも,土に触れ,植物に触れ感動を覚えたり,稲の成長を見守り,収穫の喜びを体感できる「稲作体験」は,命を大切にする心やふるさとを愛する心の育成に大きな役割を果たしています。田んぼの中には,ゲンゴロウやヒルなど,子どもたちが予想もしていなかった生き物が住んでいます。時には,ドジョウを発見できることもあります。遠くから見ると土色の無機質な田んぼに多くの生き物が住んでいることを発見し,様々な命を育んでいる田んぼの役割に気付いたとき,子どもたちは,命の尊さを実感します。また,稲作体験に関わった多くの人たちとの触れ合いを通して,自分たちを支えてくれる人たちの存在を実感し,自分たちの住む地域に愛着を感じるとともに,感謝の心がはぐくまれていきます。そのような体験活動がもつ機能を十分生かしながら,豊かな心の育成に取り組んでいます。


4 「稲作体験学習」の実際

  「稲作体験」は,保護者や地域の方々とのかかわり,豊かな触れ合いを通してふるさとのよさを実感し,思いやりの心や生命を大切にする心など豊かな心をはぐくみ,さらには,豊かな自己を実現していく子どもの育成が期待できる活動です。

【籾蒔き】images/090602.jpg
  稲作体験の指導は,稲作農家方の指導のもと,籾蒔きから始まります。ポットに2粒ずつ籾を蒔く作業を全校児童が体験します。約600gの籾を蒔きますが,この量を記録しておくことが大切です。600gの籾から収穫できるお米の量は,想像をはるかに超えるもので,その秘密を解き明かすことが総合的な学習の時間の課題となります。

  例年,600gの籾から収穫できるお米は100sを超えます。子どもにとっては驚きであり,稲の不思議に触れる瞬間でもあります。

【田植え】images/090603.jpg
  籾はビニールハウスで育てられ,15pほどに成長したら約2アールの田に植えます。素足で田んぼに入った子どもたちは,これまでに体験したことのない感覚を覚え,同時に,田んぼにいる生き物との出会いに歓声があがります。

  単に,体験に終わらせることなく,総合的な学習の時間の学習につなげていくためには,体験を振り返らせ,気付いたこと,不思議に思ったことを出し合い,学習課題を見付けさせいくことが大切です。子どもたちが,学習課題を見付け,調査・探究活動の計画を立てたときから,環境教育が本格的にスタートします。


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【稲刈り】
  収穫の秋までは,子どもたちは,それぞれの課題解決のために,仲間と協力して調査や観察活動を行います。その結果は「環境新聞」にまとめられます。

  9月の下旬には,豊に実った稲を全校児童が刈り取ります。農家の方の指導のもと,稲刈り用の鎌を使って刈り取りますが,ザクッという感触に歓声が上がります。高学年は,低学年を指導し,みんなが協力して刈り取り作業をすすすめ,落ち穂を拾う姿に,思いやりの心や感謝の心が育ってきていることを実感できました。

  刈り取った稲は,天日干しされ,10月の中旬には脱穀作業が行われ,「稲作体験」は終了します。


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おわりに

 本校の「稲作体験学習」は,20年以上継続されてきた教育活動ですが,最近では,校区の稲作農家が市内や近隣市町村の学校を対象に「田植え体験」「稲刈り体験」を行っており,市内の小学校や遠くは札幌市の小学校が活用しています。

  「籾蒔き」から「脱穀」までを体験できる本校は,恵まれた環境にあり,まさに,地域の特色を生かした教育活動が「稲作体験学習」だといえます。これからも,単なる「体験」で終わらせることなく,子どもたちに身に付けさせたい力を着実に身に付けさせていくための「体験」を追究していきたいと考えています。


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