教育改革のとりくみ 目次

学ぶ楽しさを知り,生き生きと活動する児童の育成
〜単元を見通し,学習目標を明確にした指導法の工夫〜


愛知県稲沢市立千代田小学校

1.研究のねらい

 「できる喜び・分かる楽しさ」を感じ,達成感をもって学ぶことのできる児童,また,意欲をもって学び,基礎的・基本的な力を身につけた児童を育成したい。そのためには「できた」「分かった」「もっと学びたい」と児童が夢中になって取り組む「できる・分かる授業」をめざすことが大切であると考えて実践を行った。


2.研究の手だて

手だて1
単元の指導法の工夫(単元の指導計画)

 単元を見通して,児童に「つけたい力(授業のねらい)」を明確にする。すなわち何ができるようになったら,その単元の学習が「できた」といえるかを事前に見通し,ゴールまでの支援の仕方を工夫する。

手だて2
各時間の指導法の工夫

 単元における各時間の位置づけを明確にし,教材(単元・題材・教科書の内容)の特性に合った指導法を工夫する。

手だて3
自己評価表の工夫

 学習目標を明確にし,児童に見通しをもって意欲的に学習に取り組ませ,「できた」「分かった」という達成感をもたせることができるように,自己評価表を工夫する。


3.研究の実際

(1)
手だて1
(単元の指導法の工夫)

 <実践事例>6年 国語 単元名「イースター島にはなぜ森林がないのか」

 単元の指導計画に各時間における「つけたい力(授業のねらい)」を以下のように位置づけ,指導に当たった。

[単元の指導計画]
段階 時間 主な学習内容(時数) つけたい力(評価方法)
気づく 1時間
教材文「イースター島にはなぜ森林がないのか」を読み,初発の感想を発表する。
学習内容の確認をする。
  (1)〈学習の見通し〉
イースター島や環境について疑問や課題をもつとともに,今後の学習について見通しをもとうとする。【関】
  (発言・ノート・自己評価表)
学び方を知る 5時間
教材文の文章構成を理解する。
  (3)〈文章構成をつかむ〉
文章構成を理解し,内容をキーワードで正しく読みとる。
【読】(学習シート・自己評価表)
キーワードを整理して,筆者の考えをまとめながら,要約文を書く。
  (2)〈文章の再構成〉
3段階の構成にそって,文章をまとめ,キーワードを用いて要約文を書く。
【書・読】(学習シート・自己評価表)
広げる 2時間
興味をもった,地球環境に関する本や文章を読む。
  (1)〈関連図書を読む〉
関連図書を進んで読み,地球環境の問題を自分なりにとらえようとする。【関】
  (学習シート・自己評価表)
筆者の主張に対し,自分の考えをもち,文章に書く。
  〈自己表現〉
学習を振り返る。(1)
  〈学習の振り返り〉
筆者の主張に対する自分なりの考えをもち,学んだ文章構成を生かして書く。
【書・読】(学習シート・自己評価表)
学んだことを確認する。【関】
  (自己評価表)

 「気づく」段階は,教材への興味関心を高めるとともに単元の見通しをもたせる段階である。そのために,教材文への疑問・課題をもたせるとともに,単元の指導計画表に基づいて作成した自己評価表によって今後の学習内容を確認し,学習の見通しをもたせた。児童は,「最終的に文章構成を考えながら自分で文章を書く」という学習計画を知って,構成の仕方を考えながら学習することを意識することができた。

 「学び方を知る」段階は,筆者の考えを読み取るとともに文章構成をつかむ段階である。教材文は「はじめ(話題提示)」「なか(主張の根拠)」「おわり(筆者の主張)」の3段構成となっている。この構成に気づかせるために,教材文を3つの段落に分けさせ,学習シートに各段落の内容を短くまとめて書かせた。その際,各段落のキーワードとなる言葉に着目させた。そして,書かれた内容や文章構成をより確かに把握させるため,要約文を書かせた。その際,キーワードをカードにして黒板に貼っておき「はじめ・なか・おわり」の文章構成に従って要約文を書かせた。児童は,黒板に貼ってあるカードの言葉をヒントに「はじめ・なか・おわり」の文章構成で簡潔に要約することができた。

 「広げる」段階は,学んだ文章構成を基に,読み取った筆者の主張に対する自分の考えを表現する段階である。まず,自分なりの考えを構築するために,地球環境の関連図書を読ませた。その上で,現在の地球環境の問題を具体的に取り上げながら筆者の主張に対する自分の考えを書かせた。関連図書から読み取ったことを根拠として,「学び方を知る」段階で学んだ3段階の文章構成を生かしながら自分の考えを書くことができた。

 単元の終わりには,自己評価表を基に単元全体の学習を振り返る時間を設けた。そのことによって,単元全体を通してできるようになったことを児童に改めて確認させることができた。

 「つけたい力」を明確にした指導計画を立て,教師自身が単元を通して「つけたい力」を念頭に置きながら指導したことや,児童に常に「身につける力」を意識しながら学習を進めさせたことで,児童は効率的に学習目標に迫ることができた。

(2)
手だて2
(各時間の指導法の工夫)

 <実践事例>4年 理科 単元名「とじこめた空気や水をおしてみよう」

 「閉じこめられた空気の性質」をより確かに理解させるため,指導方法に以下のような工夫を加えて指導を行った。

空気の存在や性質を意識・理解させるためにグループではなく個々に実験を行わせる。
目に見えない空気の力をイメージ豊かにとらえさせるために,実験結果を言葉だけでなく絵も使って表現させる。

 単元の導入では,ごみ袋に空気を入れて口を閉じ,手で押したりその上に腰掛けたりして感触をとらえさせた。

 「閉じこめられた空気の性質」を学習する授業では,まず,ビニールのかさ袋に空気を閉じ込めて,後ろから棒で押すと,ロケットのように教室の天井まで飛んでいく教師実験をした。勢いよく飛んでいくかさ袋に,児童は驚きの声をあげた。

 そこで,なぜ,かさ袋が勢いよく飛んでいったのか理由を考えさせた。袋に閉じ込めた空気の性質によるものだと気づいた児童は数名だったので,その時の手ごたえや,かさの変化から,かたい筒に空気を閉じ込めて空気の性質を調べることを意識させた。

 空気の存在を確かめ,意識させるために個々で実験できるように市販の実験セットを用意した。スポンジの栓がセットの中にあったが,今回はジャガイモをくり抜いて作った栓を使用させた。ジャガイモの栓は機密性が高く,筒との摩擦が小さいので押し棒から手を放すと栓が元に戻りやすく,実験結果がはっきり分かり良かった。一人一人が個々に実験を行ったことは,児童に空気のかさの変化をとらえさせたり空気の性質について実感をもって理解させたりするのに大変有効だった。

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 栓を筒の中に押し込んでいき,棒を押すと手ごたえがどうなるか調べる実験では,一度に棒を押し込んでしまったので,加える力の大きさが弱いときと強いときの違いが表しにくかったようである。棒を押すところでは,「少し押したところ」「半分まで押したところ」と分断して実験させると手ごたえの違いがさらに分かりやすくなったと考えられる。

 空気は,身の回りにありながら,色も形もにおいもなく,重さやかさを感じることもない存在である。そこで,実験結果をまとめる時には,言葉だけでなく絵を使って表すようにさせた。目に見えない空気の存在を図で表すことによりイメージ豊かにとらえることができた。


(3)
手だて3
(自己評価表の工夫)

 <実践事例>5年 算数科 単元名「面積」

 自己評価表は,「評価基準が難しいので児童には理解しにくい」「『楽しかった』などの単純な感想だけで,めあてに対しての振り返りができなかった」という反省を受けて以下の点に留意して作成した。

【自己評価表作成上の留意点】
(ア) 評価基準を明確に示すことで,児童が「◎・○・△」の自己評価をしやすくする。
(例)
めあて:台形の面積をくふうして求めよう
・・・・ 台形の面積の求め方を二つの方法で求めることができた。
・・・・ 台形の面積を求めることができた。
・・・・ 台形の面積を求めることができなかった。
(イ) 感想を記入する欄を設け,1時間の授業の中で「何が分かって,何が分からなかったか」を書くようにさせ,児童の実態をつかみ次時の指導に生かせるようにする。

 授業の導入段階では,自己評価表に示した今日のめあてを毎時間確認した。児童は,今日の授業では何を目標にして取り組めばよいかがはっきりするので,見通しをもって授業に臨むことができた。

 「筋道を立てて考える」段階では,毎時間の観察や自己評価表の結果を基に机間指導の計画を立て,指導にあたった。特に,台形やひし形の面積を求める授業は,学習内容が児童にとって難解であると予想されたので,TT指導で授業を進めた。自己評価表で児童一人一人の理解度を事前に把握し,学習状況に応じてT2によるミニ授業や個別指導を行うなど,児童の理解度に応じたきめ細やかな声かけや支援ができた。その結果,算数が苦手な児童も「面積の求め方を見つけられた」とうれしそうにしている姿が見られた。

 「整理・発展」段階では,今日のめあてに対する自己評価をさせた。評価基準をできるだけ分かりやすくしたので,児童もスムーズに評価をすることができた。

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 また自己評価表の感想欄に「何が分かって,何が分からなかったか」を記録させたので,その後の授業や個別指導に有効に生かすことができた。例えば,三角形の面積を3通りのやり方で求める授業では,多数の児童がどれかの方法で求めることができる「○」と自己評価した。そこで,次の授業では,もう一度3通りの求め方について丁寧に復習し定着をはかった。さらに「△」と自己評価をした児童には,放課後などに個別指導を行った。こうして自己評価表を基に,個に応じた指導を継続することで,児童の理解度を深めることができた。また,「先生は自分のことをちゃんと見てくれている」という安心感を与えることにつながり,教師と児童との信頼関係を深め,よりきめ細やかな指導を実現するのにも大変役立った。



4.研究の成果と今後の課題

(1) 成果
単元全体を見通して,児童に「つけたい力」を意識しながら指導計画を作成して授業に臨んだことにより,各単元でめざす学習目標が明確になるとともに,単元という大きな流れの中での各授業の位置づけも明確になった。また,教材・教具,学習シートなどの改良・工夫など,各教材の特性に合った指導方法の工夫を考えるよい機会ともなった。その結果,学習目標に効果的に迫らせることができた。
単元における各時間の位置づけを明確にし,教材の特性に合った指導法を工夫したことにより,児童にその時間のねらいとなる学習内容をよりよく理解させるとともに,次の活動への意欲づけをすることができた。
自己評価表を作成し,単元を通しての目標や1時間ごとの目標を児童に示したことで,児童自身も学習計画を知ることができ,見通しをもって学習に臨むことができた。また,1時間ごとに学習活動を振り返らせ,明確に示された評価基準によって自己評価をさせることで,学習内容を確認させたり達成感をもたせたりできた。また,教師側も,自己評価表をチェックすることにより,個々の児童の学習状況を把握し,児童のつまずきについてアドバイスをしたり,つまずきを解決できるように指導したりすることができた。また,一人一人へのきめ細やかな指導は,児童との信頼関係を深めることにもつながった。

(2) 課題
理科のような課題解決型学習の教科では,実験結果や課題解決が次の課題につながるので,自己評価表で学習計画や明確な評価基準をあらかじめ示してしまうことは,児童の興味関心や思考の妨げになることも考えられる。自己評価表の在り方をさらに工夫する必要がある。


5.おわりに

 今回の研究によって,私たち教師自身が得られた成果が多かったように思う。単元を見通して指導観をもち丁寧に教材研究することが,児童の「分かる」授業へつながり,「もっと知りたい」「やってみたい」などの学ぶ意欲につながるという授業の原点に気づいたように感じる。学ぶ楽しさを知り,生き生きと活動する児童をめざして,今後も研究を続けていきたい。


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