教育改革のとりくみ 目次

「健康カリキュラム」の編成を目指して

札幌市立清田緑小学校

はじめに
なぜこの取り組みが必要と考えたのか

 平成16年に「命を大切にする教育」が文部科学省の「児童生徒の問題行動対策重点プログラム」で提示された。小学校低学年から「自他の命を大切にする教育」の充実が求められている。また,「食育白書」によると,近年の子どもの基本的な生活習慣が大きく乱れていることや文部科学省の「子どもの生活リズム向上プロジェクト」,「早寝早起き朝ごはん」全国協議会の取り組みが紹介されている。学校における食育の大切さと家庭と連携して子ども一人ひとりに生活を見直させる必要がある。

 本校でも,力加減が分からずけがをさせてしまったり,次に何が起きるのか深く考えずに行動したり,危険察知能力が身についていない子もいる。また,ゲームやテレビで夜更かして生活のリズムが乱し,朝から身体の不調を訴える子が見られる。

 このような状況の中,学級担任が,教科・学級活動等で指導してきていたが,統一性や関連性はあまり図られていなかったように思う。この点を反省すると,今までの各教科・道徳・学級活動の枠を飛び越えた横断的な学習が学校に求められていると考えた。そこで,今までの取り組みを整理し,組織的・横断的な学習のカリキュラムを作成することにした。

この取り組みで目指す子ども像
 本校の学校教育目標は,人間尊重の精神と個性の伸長を基盤とし,知・徳・体の調和のとれた人間性豊かな子どもの育成を目指している。未来に生きぬく子どもの育成を目指して,

他者を思いやる「やさしさ(愛情)」
周囲のものに敏感に反応できる「するどさ(探求)」
困難に粘り強く立ち向かう「たくましさ(強靭)」

を身につけた子どもを育てることを三つの柱としている。

 子どもたちの未来の生活を充実させ,人間性豊かな人格を持った子どもの育成を目指し,重点目標を

「豊かな心を持ち,たくましく生きようとする子の育成」

としている。そして,具体的には以下の3点となる。

自然や人間に深い愛情を持ち,その美しさを求める心の育成
生きてはたらく知性と創造力の育成
困難や失敗にくじけず,最後までやりぬく強い意志と体力の育成

 この点を受けて「健康カリキュラム」では,目指す子ども像を

<生命を大切にし,他人の立場や状況を理解し,深い思いやりを持って社会生活に協力的に参加できる子>

<進んで自分の体について課題を求め,意欲的に探求し,解決しようとする子>

<自他の健康安全に留意し,常に心身の健康的な生活をしようと心がける子>

<場に応じた声の大きさで自分の意思をはっきり示し,適切な行動ができる子>


とした。未来に生きぬくために正しい知識を持ち,正しい判断をし,正しい行動を取れる子にしたい。

本校の今までの取り組みから新カリキュラム作成に向けて
 この取り組みは,今までにない新しいカリキュラムを作成するのではなく,今までしてきたことを整理し再構築していくことだった。整理していく中で問題点が見つかり,改善点がはっきりしてくると考えた。

 領域については,性教育を中心とした「いのち」,食育を中心とした「食生活」,心の健康を中心とした「健康生活」の3領域にした。これらの領域を取り扱うことで心身の健康を学習することで「生きる力」を育む「健康カリキュラム」の目指すことを構成できると考えた。

 今までの本校の取り組みは,各教科,道徳,学級活動でそれぞれの目標を持って学習してきた。例えば,「いのち」の性教育に関しては保健体育では3年生で,理科では5年生で,道徳では「生命尊重」で各学年2時間,学級活動では性指導で各学年2時間取り扱っていた。ただ時期的な問題や詳しく取り扱わない学年もあったりするなど,効果的ではない面があった。各学年バランスよく軽重を付けて単元を構成するために,各学年の単元配当表を見直すことから始めた。学習する時期は教科や学級活動の内容を合わせて詳しく学習したり,どちらか一方で扱うことにしたりした。

<6年生の単元配当表>

いのち 学活 性指導
理科 受け継がれる生命・生きていくための体の仕組み
体育 育ちゆく体と私
道徳 生命尊重
食生活 学活 食に関する指導
家庭科 食事への関心・簡単な調理
道徳 礼儀・感謝・自然愛
健康生活 学活 歯・目・かぜ予防などの健康指導と心の健康,安全なくらし
理科 生き物と環境
体育 毎日の生活と健康・心の健康・けがの防止・病気の予防
家庭科 家庭生活と家族・衣服への関心・生活に役立つものの製作・住まい方への関心・物や金銭の使い方と買い物・家庭生活の工夫
道徳 思いやり・親切・友情・信頼・家族愛

 また,各教科の基本方針の「健康カリキュラム」に相当する単元の基本方針を抜き出し,このカリキュラム独自の基本方針を設定し,目標を作成した。そのことにより,全体像がわかり全職員の共通理解を得られやすいと考えた。

<「健康カリキュラム」に相当する教科の単元の基本方針>
理科 児童が知的好奇心や探究心を持って,自然に親しみ,目的意識を持って観察,実験を行うことにより科学的に調べる能力や態度を育てるとともに,科学的な見方や考え方を養うことができるようにする。
自然体験や日常生活との関連を図った学習及び自然環境と人間とのかかわりなどの学習の重視し,児童が問題解決の能力や多面的・総合的な見方を培うことを重視する。
家庭科 家庭生活をよりよくするため,衣食住などに関する実践的な学習を一層重視し,自ら学び自ら考える力を育成する。
家庭生活に必要な基礎的な技術などを身につけ,基礎的・基本的な内容の確実な定着を図る。
家族の人間関係や家庭の機能の充実という観点から,自分と家族とのかかわりを考えたり,家庭生活への関心を高めたりして,豊かな人間性と社会性を培う。
体育科   生涯を通じて自らの健康を適切に管理し,改善していく資質や能力の基礎を培うため,健康の大切さを認識し,健康なライフスタイルを確立する観点に立って,内容の一層の改善を図る。
学活
(保健)
  健康の大切さや自分の身体についての理解を図り,生涯にわたって健康な生活を送ろうとする態度と実践力を育てる。
学活
(給食)
生涯にわたって健康で生き生きとした生活を送ることを目指し,児童一人ひとりが望ましい食生活の基礎基本と食習慣を身につけ,食事を通して自らの健康管理ができるようにする。
楽しい食事や給食活動を通して,豊かな心を育成し社会性を養う。
学活
(安全)
  身近な生活における安全な行動について理解させ,常に安全を確認して行動できる能力や態度・習慣を身につけさせる。
道徳 生命がかけがいのないものであることを知り,自他の生命を尊重する。
誰に対しても思いやりの心を持ち,相手の立場に立って親切にする。互いに信頼し,男女仲良く協力し助け合う。
父母,祖父母を敬愛し,家族の幸せを求めて,進んで役に立つことをする。

<「健康カリキュラム」独自の基本方針>
健康 健康の大切さや生命がかけがえのないものであることを知る。
生涯にわたって健康で生き生きとした生活を送るため,望ましい食生活の基礎基本と食習慣を身につけさせる。
生涯にわたって健康を適切に管理し,自他の生命を尊重しようとする態度を育てる。
自分と家族とのかかわりを考えたり,家庭生活への関心を高めたりして,豊かな人間性と社会性を培う。
安全に行動できる能力や態度の育成を達成するために,日頃から必要に応じた随時指導を大切にしていく。

<目標>
科学的な見方や考え方のみならず,人間尊重の精神からも生命の神秘・かけがいのなさを理解し,生涯にわたって健康的に生活するために食生活,家庭生活を適切に送れる実践力を育てる。

今年度の成果と今後の取り組みの予定

 昨年度の成果は,横断的な学習の全体像を全職員で共通理解し,年間指導計画を全学年分作成したことにある。また,今までの資料を整理し,まとめることで今後の活用に役立つ冊子が出来上がった。ただこれは,完成されたものではなく,日々実践していく中で加除訂正を行ってよりよい計画にしていくものである。当然,今年度終了時に見直し,改訂版を出す予定である。

 それと同時に,「食育領域の中の食農教育をどのように位置づけるか。」「安全意識・危機意識をどのように位置づけるか。」「評価をどのように行うのか。」が課題として残っている。

 そのためには,低学年の生活科や総合的な学習との横断的な学習も視野に入れていかなくてはならないと考えている。また,自他の安全指導の「危険を感じたら大声を出す。」「危険を感じる場所に近づかない。」などを効果的に組み込んでいきたい。そして,指導した結果の評価をどう位置づけていくかが今年度の重点になってくる。

 この「健康カリキュラム」は今年から出発するもので,試行錯誤を繰り返しながら改善し進化させていくものと考えている。

(文責 四戸)

<5年生の学級活動 「性指導」>

<給食時間を使った学級活動「食の指導」>


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