教育改革のとりくみ 目次

小・中学校の円滑な接続を視野に入れた特色ある教育活動の推進
〜夢と活力に満ちた,潤いのある美しい学校づくりを目指して〜

東京都狛江市立狛江第三中学校
校長 松丸 晴美

はじめに

 本校は,全国で3番目に小さな市である「狛江市」の西部に位置し,7学級,227名の生徒が在籍する学校である。

 学校の近隣を流れる多摩川は逆S字型の優美なカーブを描き,美しい風景を生み出している。川沿いの堤防には桜の木が植えられ,春には桜の花一色に埋め尽くされる。

 校区には,5世紀頃の「かぶと塚古墳」や「弁財天池遺跡」,奈良時代に建立されたとする泉竜寺や伊豆見神社,万葉歌碑などの名所・旧跡があり,水と緑の豊かな自然に恵まれた地域である。

保護者とともに朝のあいさつ運動 全校ボランティア活動
「銀杏募金」
夏休みのワークショップ
(小学校への出前講座)

 生徒は,落ち着いた環境の中で,授業や学校行事,部活動に積極的に取り組んでいる。 教職員は明るく,ネットワーク・チームワーク・フットワークを大切にしながら,特別活動や部活動,ボランティア活動,総合的な学習の時間などを中心に,“生徒が動く学校”を合言葉に様々な教育活動に工夫・改善を図りながら取り組んでいる。

 同時に,平成18・19年度東京都授業改善研究推進校,平成19年度狛江市研究奨励校として,教師の「授業力」と生徒の「学習力」向上に向けた研究を推進している。

【目指す生徒の姿】
夢や希望を持ち,自分の可能性に挑戦し続ける生徒
より良い学校づくりに主体的に取り組み,努力する生徒
心身の健康づくりに努め,人との共生を図る生徒


 狛江市は,学校選択制を実施していないので,本校に入学してくる生徒は,近隣の1小学校の児童が大部分を占めているため,生徒や保護者の人間関係が固定化され,小学校時代と環境があまり変化せずに中学校に入学してくるという傾向がある。

 そこで,新入生には,本校の魅力を知り,新鮮味や希望を持ち,公立ではあるが,「狛江三中を選んだ」という自覚と誇りを持って入学してほしいと考え,小中学校の接続・連携を視野に入れた様々な取り組みを行った。


1.新しい標準服・体育着の決定への参画

 開校33年目を迎え,清楚で身だしなみよく着用できる標準服への見直しを行うにあたり,検討委員会を立ち上げたが,検討資料として,在校生,保護者の意見に加え,地元の小学校5・6年児童と保護者に対してもアンケート調査を行った。

 母体校2小学校で,おのおの1週間の展示期間を経て,学級担任の協力を得て,投票という形で,小学生にも参画してもらった。保護者は,自由投票とした。

 また,エンブレムのデザインも公募し,児童生徒のアイデアを取り入れたデザインとした。決定した標準服・体育着・エンブレムはホームページを通じても公表した。

新しくなったエンブレム付きの標準服
 「今着用している標準服の決定に自分もかかわった」という気持ちを持って入学してきた効果か,きちんと着用する生徒が多く,それまで,自分勝手に市販のニットベストなどをだらしなく着用していた上級生も激減し,「身なりを整える」という生活指導上のねらいが達成された。



2.プレテストの実施および春休みのしおりの課題の義務付け

春休みのしおりとプレテスト
 「たった2クラスでも学力差が大きく開いてしまう」という教師のつぶやきから,小学校の卒業前に算数と国語のプレテストを実施し,学級編成の資料の一部にすることとした。

 また,卒業後,中学に入学するまでの春休み期間中を,生活面と学習に対する目標を持たせて,有意義に過ごさせることが,入学後の円滑な学校生活に接続していくと考え,「春休みの生活と学習」というしおりを作成し,春休み中の課題として,入学式の日に提出する書類の一つとして義務付けた。

 同時に,前述したように本校では,教師の「授業力」と生徒の「学習力」向上に関する研究にも取り組んでおり,入学前に一人一人の児童の算数や国語の達成状況を把握し,本校で実施している数学習熟度別少人数学習のコース分けの資料として活用し,基礎コース・充実コースそれぞれの授業の工夫・改善にも役立てている。

一日の生活

【春休みのしおりの内容構成】
生活と学習の目標(児童が記入する)
春休みを有意義に過ごすために
一日の生活(何時に何をしたか。今日の出来事を記入)
算数・国語の2週間分の問題(一日1ページ)
保護者の意見・感想(子どもの春休みについてなど)


 プレテストの実施には,校長はいうまでもなく,小学校担任や副校長の理解と協力が欠かせない。問題作成にかかわってのアドバイスに始まり,3月に中学校の教師が小学校を訪問して,趣旨を説明し,テストを実施するが,その際の支援など,様々な点で協力していただいている。これも日頃のきめ細やかな連絡・調整の成果と考える。

 保護者に対しては,2月の新入生保護者説明会の折に,実施説明し,趣旨を理解してもらいながら,協力を要請しているが,意見・感想欄からかなり好評であることが伺える。

春休みも学習する機会が出来たことで,メリハリのある生活がおくれたようです。 プレテストや春休みのしおりで中学生になるという自覚が高まっていったようです。
保護者の意見・感想(一部抜粋)
このしおりを通して小学校の復習ができました。どのようなことが,基礎的な内容か理解できました。 このように一日の行動を記録してみるとテレビやゲームの時間が長いことに驚かされます。中学校生活が始まるのを機にぜひ,親子で話し合い改めていきたいと思います。


 保護者の感想にもあるように,プレテストと春休みの宿題は,休み中の学習習慣の継続に役立ち,また,入学後の授業で小学校の復習問題として活用されるため,スムースに中学校の授業に移行できる利点もあった。同時に,子どもの一日の時間の使い方や文章力などの課題が明らかになり,入学前に親子で話し合うきっかけとなっている様子も伺えた。

 入学式前日の子どもの記述からは,期待と少しの不安に胸をふくらませて,入学式の日 を楽しみにしている様子がよくわかった。中学校での最初の提出物・宿題をしっかり出すことで,子どもたちの「中学生になったらしっかりやろう」という意欲の高まりを感じることもできた。また,狛江市では,平成17年度より4月初旬に中学1年生を対象に数学と国語の学力調査を実施しているが,3年間の結果を比較してみると,小学校段階の基礎学力の定着に一定の成果が見られた。


3.部活動の入部希望調査の実施と春休み中のプレ体操

 中学校の大きな魅力のひとつに部活動がある。しかし,生徒数の減少や野球やサッカーなどの地域クラブチームの設立などの影響を受け,本校では,大会出場資格ぎりぎりの人数で活動している部がいくつかある。そのため,3年生が引退してしまうと公式戦出場資格を満たす部員数の確保ができず,また次年度に果たしてその数が確保できるかどうかの見通しもたちにくいため,部活動そのものの存続にも課題を抱えている。

 生徒の希望に添いながらかつ充実した集団活動が展開できるように,この3月のプレテスト実施時に,「やってみたい部活動ナンバー3希望調査」を実施した。この調査結果により,存続させる部活動を決定し,顧問の調整を速やかに行うことができた。また,部員数の少ない運動部は,春休み中にプレ部活体験を実施した。この体験に参加した児童は,全員,入学後に入部し,部員数の確保につながったばかりではなく,4月半ばの春季大会にレギュラーとして出場するなど,部活動の活性化にもつながった。

 この取り組みも,春休み中に,児童から生徒へと在籍が変わるため,保護者の承諾とともに,小学校側の理解と協力が欠かせない。

女子バレー 部 吹奏楽 部



4.「地域安全マップ」作成の学習を通した小学校との連携

 本校では,1年生の総合的な学習の時間を活用して,地域安全マップを作成し,地域を学ぶとともに,危険回避・被害防止の学習を行い,安全に対する意識や技能を高めている。

 一昨年度より,地元の小学校を訪問し,3・4年生を対象に作成したマップを使って,地域の安全に関する事項の説明を行うという取り組みを実施している。その説明を受けた後,小学校では,発達段階に応じた安全マップの作成を行っている。

 身を乗り出しながらマップを見て,一生懸命に自分たちの説明を聞いてくれる小学生の姿に,中学生の喜びと自信につながる活動になっていることが伺える。

小学校で説明する生徒たち


連携5.PTAと連係した体育祭での小学生レースの導入

 本校の体育祭では「小学生レース」をプログラムの一つに加えている。小学校5・6年生を限定した徒競走だが,PTAとおやじの会のメンバー,本校の係生徒が,招集・整列,誘導,PTAが用意した(汗拭きタオル参加賞)の手渡しを行っている。レースの予定時刻を明記した招待状を作成し,事前に小学校の担任から児童・保護者あてに,配布してもらっている。毎年,50人近く参加し,入学した生徒に聞いてみると,来年はこの運動上で走るんだという意欲の醸成につながっているようである。


6.小中連携の日

 本校では,年2回「小中連携の日」という小中学校の教員が相互に授業を参観し合い,その後に,毎回テーマを決めて,意見交換を行なう機会を設けている。この3年間,テーマは,「学習・生活指導・総合的な学習の時間」「小中一貫教育と小中連携の利点と課題」 「教科指導における小中の接続」などである。テーマに沿って,小・中学校それぞれの取組みや課題を子どもの姿を通して理解を深めたり,課題解決に向けてどのような手立てがとれるかなど話し合っている。

検定試験に向けて学習に取り組む生徒たち
 本校では,各種検定試験やコンクールへの挑戦を奨励し,授業の内容の一部に取り入れ学習を進めているが,その取組みを受けて今年から小学校で,「漢字検定」と「算数検定」に取り組むことになった。

 市教育委員会の呼びかけで始まった「小中連携の日」であるが,軌道に乗り始めた今では,「知る連携」から「互いに実践する連携」へと発展してきている。


おわりに

 東京都では,小中一貫校の設置や公立中学校学校選択制を導入する自治体が徐々に増えている。狛江市の中学校は,当面の間は,今の枠組みの中で,小中学校の連携をより一層強くした取組みを推進していくことが求められている。本校では,現在行なっている取組みの成果と課題を踏まえながら,今後も新しい事にチャレンジしていきたいと考えている。

 狛江第三中学校では,平成19年10月12日(金)に主題を『生徒の「学習力」を高める指導の工夫と教師の「授業力」の向上」,副題を「学ぶ意欲の醸成と確かな学力の定着をめざして」として,東京都授業改善研究推進校・狛江市研究奨励校指定の研究発表及び授業改善研究協議会を実施いたします。

 先生方には,ぜひ参観・出席いただきご助言をいただければ幸いです。

狛江第三中学校ホームページ



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