教育改革のとりくみ

子どもたちの主体的な学習活動の充実を目指して
〜確かな学力の定着〜

神奈川県秦野市立広畑小学校

◇ 研究概要

 「子ども一人ひとりの主体的な学習活動を図る」ことを私たちの重点課題として4年。今の自分をしっかり見つめ,次の自分に向けて課題を持って真剣に取り組むことのできる子への育ちを描いて研究を継続してきている。

 私たちの課題は,当然,教育改革の時期にあって今後の教育の有り様を見据えてのことであり,今こそ自らの教育観を問い直そうという意気込みあっての取り組みでもある。

 しかし,発火点となったのは,教育改革,意識改革への情熱というより,もっと深刻な現状認識に立っての「どうにかしなきゃ」という責任の自覚であった。この認識を新たにしつつ,「確かな学力」の定着を目指している。

[研究の全体構想]

◇ 本年度の取り組み

 「確かな学力」の定着を中心に据えつつ,日々の授業改善に向けての実践的な取り組みとなるように,次のような領域別の課題に沿って取り組んでいる。

1.学級経営の充実

 学びの姿勢無くして指導の充実は図れない。そこで,それぞれの学級での取り組みをマンスリーレポートで紹介し合い,工夫改善を具体的にすすめると同時に,組織的な指導を積み上げている。

 研究の三本柱
学級経営の充実

・学習や生活の場における子どもたち一人ひとりの個性を認め,それぞれに安心感や存在感に満たされる学級の雰囲気をつくる。
授業改善のための工夫

・子どもたちの主体的な学習が生まれるように,指導方法や指導体制の工夫,改善を行う。


評価方法の工夫

・子どもの学びを促していくための評価方法を工夫する。




2.「確かな学力」の分析

 確かな学力を,生涯学習を見据えた自主学習力と仮設してみると,本校のテーマとマッチする。私たちは,確かな学力を「見つける力」「取り組む力」「伝え合う力」「見つめる力」に分類した。

 学習対象に興味・関心を沸き立たせ,自分の追究することを具体的にする。いろいろな知識や解決の手法を学び,自力で追究する。解決したことや取り組んだ自分を表現したり,相手の取り組みを認めたりする。今の自分の学びをしっかり見つめ次の学びに生かす。このような力こそ,生涯必要とする確かな学力と思うからである。

本校でとらえる4つの力
(1) 課題をとらえる力
 ・課題を自分の問題としてとらえ,進んで取り組むことができる。

(2) 問題を解決する力
 ・経験を生かしたり,友だちと協力したりして問題を解決できる。

(3) 伝え合う力
 ・自分の思いや考えを人に伝えることができ,さらに相手の思いに共感できる。

(4) 学習をふり返る力
 ・学習の成果をふり返りながら,自己の変容に気づくことができる。

3.指導方法の工夫改善

 このような学力をどのように指導して育んでいくかが,日々の授業の課題となる。私たちは,具体的な手だてを大事にして授業研究を続けている。

 また,本年度は「学びを促す評価」をこの領域の重点としてとらえた。学習過程の節々に自己評価や子ども同士の相互評価を取り入れて課題追究の励みにしたり,適切なアドバイスをしながら活動の持続・連続を図っている。自分の取り組みの手応えを感じることができるので,楽しさを増している。

  確かな力を求めて  −課題をとらえる力
 米の自動販売機を見学しました。

「お米って,こんなにいろいろな種類があるの!」

「産地によって,お米の名前がちがうみたいだけど・・・・・。」

「値段がずいぶんちがうね」

子どもたちの気づきはそれぞれです。

 次の日,

「魚沼産のコシヒカリの値段は“はえぬき”の2倍近くもするんだよ!」

「うちは,いつも“はえぬき”を食べてるけど,とてもおいしいよ!」

Sさんは,値段のことが気になっていて,みんなに問いかけました。

「特別な作り方をしているのかな?」

「おいしいお米は,生産量が少ないんじゃないの?」

「人気があるから,高くなるんじゃないの?」

「産地や品種によって,お米の値段がちがうようだよ。」

「きっと,土地の様子によって,味がちがってくるんだよ。」

「でも,どんなところでも,おいしいお米を作ろうとしてるんじゃないの?」

「農家の人は,高く売れる方がいいよね。」

 それぞれに予想を出し合って,話し合いが盛り上がっていきます。

このことが「お米の値段って,どうやって決めるんだろう?」という共通の学習問題となり,米の値段を栽培のし方,産地の様子,品種,収穫量,味などの視点で調べていこうということになりました。そして,まず手始めとして米袋に書いてある住所を頼りに,全国8カ所の米づくり農家にお手紙を書き始めました。

 気づきがそのまま学習課題にはなり得ません。いろいろな考えをもとに追究の視点をとらえるからこそ学習課題となり得るのですね。

(5年社会科「私たちのくらしと農業生産」の学習より)

意図個々の気づきを共通の課題へ
手だて  共有化できるまでの練り上げの時間を保証する


  確かな力を求めて  −解決する力
「もっと野球みたいなゲームにしたいなあ。」

地域の野球チームで活躍している子には,いまやっているルールが物足りないようです。

「みんなが打てる今のルールがいいと思うよ。」

「野球のルールはわからないよ。やりたくないな。」

ルールどころか,ボールもよく投げられない子もいるのです。

知識も,技能も,意欲もそれぞれに違っている子どもたちです。

そこで,

「みんなが楽しめるルールを,みんなで創ろう。」ということにしました。

学習の終わりに意見を出し合い,少しずつ変えていきました。

・3アウトではなく,チーム全員が打つまで攻撃できる。

・打ったボールの所へ守備のチーム全員が集まったら,次の塁へ進めない。

・ティーの上のボールを打ってもよいし,味方にピッチャーをしてもらい打ってもよい。

・グローブを使う。相手チームに頼まれたら貸す。

 ルールを変えるごとに,ゲームに取り組む子どもたちが生き生きと見えます。みんなのことを考え,自分たちでルールを創ったことによって,それぞれの満足感が増したからでしょう。

 既存のルールにこだわってそれを強いるのでなく,子どもたちみんなが満足できるようにしていく柔軟な姿勢も教師には必要なのですね。

(6年体育科「ティーボール」より)

意図それぞれに意欲を持って,みんなが楽しむ
手だて  問題をとらえ,柔軟に対応する


  確かな力を求めて  −伝え合う力
 4年生の初めから,活動の途中や終了後に,カードによる友だち同士の相互評価を位置づけました。友だちの取り組みの様子を見て,コメントを書き合うのです。

 音読発表会の後のことです。

 みんな,ワンポイントアドバイスカードを楽しみにしています。

 カードが配られると,じっと食い入るように読み始めます。

「目当てにしたことが,しっかりできていてよかった!」

「やっぱりな,自分でも気になっていたところだからな・・・。」

「ええっ!こんなにじょうずにできたかな!」

 この学習では,前もって自分のめあてを友だちに伝え,そのめあてに沿ってコメントをもらうことにしてありました。自分なりに工夫した発表が,聞き手にどう伝わったのかを確かめ合うことができました。

 友だちと共に学習することの良さを感じたり,友だちを認め,わかり合っていこうとする姿勢は,いつも大事にさせたいですね。

(4年生国語科「音読発表会」の学習から)

意図聞き手を意識した発表になるように
手だて  ワンポイントアドバイスカード(相互評価)の活用


  確かな力を求めて  −ふりかえる力
いちばん早くできたのに,一つまちがっちゃった。くやしい。

先生が,

「もう一度見直して,正しいかどうか確かめてごらん。」

と,言ってくれたのに・・・・・。

あのとき,たしかめをやっておけばよかった。

今度は,かんぺきをめざすぞ!

☆ざんねんだったね。確かめる習慣をつけようね。

見直しをして書き直したら,はじめの答えの方が正しかった。

見直しなんかしなきゃよかった!

本当に「見直し」をしたことがいけなかったのでしょうか?

おぼえていたことに自信が持てなくて,まよってしまったのかもしれないね。

もしそうだったら,もっと正しくおぼえるようにしようね。

 テスト用紙が返された後,その裏面に自分の感想を書くことを約束にしている。そこに教師もコメントを入れる。

 次の自分をめざす評価となるように。

(3年算数の授業より)

意図より良い自己実現となるように
手だて  テストにも感想,コメントを入れる

4.指導体制の整備

 組織力とは,一人一人でありみんなである。職員の一人一人が子どもたち全てに思いを寄せ,職員みんなで子どもたち一人一人を生かしていく。本校の理念であり,職員みんなの心がけとなっている。

 教務主任,養護教諭,校長,教頭など,担任外の全ての職員も支援体制を整えていて,学級経営,教科等の指導,外部との連携等において計画の一部を担っている。紙面の都合上,例示できないが,少人数指導,養護教諭と担任との連携,障害児学級の一人一人の指導,学習遅進児に対する対策などにおいて実績を積み上げている。

◇ 実践の中から

 4年国語「お元気ですか」

 ◎ 目的意識を持たせることが,個々の課題を明確にする。

 自分の祖父母宛てに絵手紙を書くという目的が,あて名や差出人の書き方を調べたり,思いを込めた手紙を書いたりなどの本単元の学習を意欲づけた。また,保護者や外部講師のお力添えをいただいたことにより,一人一人が, 手紙を送る対象をよく考え,親しみを込めて自分の気持ちや思いを文章に書きつづったり,絵を描いたりできた。

 ◎ 「振り返り」(自己評価)が,自己の発見を促す。

 私は,田舎にいるおばあちゃんが送ってくれた花の種を花だんに植えました。
つい最近,うすいピンク色の花を咲かせたので,絵手紙の題材にしました。絵を描いているときに,「おばあちゃんが,きっと喜んでくれるだろうなあ。」と思いました。絵手紙の先生に花びらの描き方を相談したら,とても優しく教えてくれました。学習参観のときに,お母さんといっしょに最後の仕上げをすることができました。手紙のとどいたおばあちゃんから電話があり,とても喜んでくれてうれしかったです。

 おばあちゃんの電話も加わって,学習の充実感がいっそう増している。この喜びこそ新たな自己の発見と言えよう。

◇ 成果と今後の課題




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