教育改革のとりくみ

楽しく学べ,確かな学力がつくために

長野県千曲市立戸倉小学校

1.はじめに

 戸倉小学校は,平成14年度に文部科学省より学力向上フロンティアスクールとして指定を受け,児童一人一人の実態に応じたきめ細かな指導の一層の充実に向けた実践研究を行ってきています。学力低下が叫ばれる昨今,本校の子どもたちに育むべき生きる力とは何かを実態のとらえをもとに見定め,確かな学力を育むにはどうしたらよいのか,次の3点を窓口に授業改善に取り組んできています。

 ・実態に応じたきめ細かな指導

 ・指導方法の工夫改善

 ・評価規準を明確にし,指導と評価の一体化
[研究の全体構想]

2.研究の柱と研究推進方法

 研究テーマ「楽しく学べ,確かな学力のつく指導はどうあったらよいか」を受け,平成15年度は,国語科ならびに算数科の少人数習熟度別学習の授業改善を柱に研究を推進することにしました。

・国語部会研究テーマ  「自分なりの考えを生かしながら,互いの読みとりを深めあう国語学習のあり方」

・算数部会研究テーマ  「一人一人が数理を追究する楽しさを得るための個に応じた指導のあり方」

<研究仮説>

人や教材とのかかわりを大切にしながら,学ぶことへの意欲・やる気を育めば,楽しく学べ,確かな学力がつくであろう
[研究仮説及び研究内容]

<研究内容>・・・ 『人や教材とのかかわりを大切にする』といった視点から
支援のあり方,相互評価のあり方,児童の実態に応じた教材化などを研究していく

『学ぶことへの意欲・やる気を育む』といった視点から
個の実態把握のあり方,授業に生かす評価のあり方,個の実態に応じた学習過程の工夫,指導と評価の一体化を目指した研究を行っていく。また,基礎・基本の定着を図り,学ぶ意欲の向上を願ったチャレンジ学習のあり方も研究していく

3.少人数習熟度別学習指導について

  (1) 目的   個の実態に応じて,きめ細かな指導を行うことによって,基礎・基本を確実に身に付けさせ,学力の向上を図る。

一人一人が安心して学べる学習環境を整えることによって,個を尊重しあいながら互いに意欲的に学習へ向かおうとする姿勢を育む。

  (2) 集団の編成のしかた

 本校は,平成13年度より5,6年生で2学級を3つの学習集団に分ける少人数学習を国語と算数で始めた。児童数を均等に3つに分け,少人数のよさを生かしながら授業をしようと試みてきたが,児童の理解度の差がやはり問題となり,もっと個に応じた指導はできないかと習熟度別授業を実施してみることにした。

 6年算数の復習の単元を,基礎(ゆっくり)・定着(じっくり)・発展(のびのび)というように習熟度別に編成しなおし,学習を進めてみた。「児童が劣等感を持つのではないか」等,心配もたくさんあったが,85%の児童は「良かった」「できた」とアンケートで感想を残した。

   児童の感想

私は,ゆっくりコースでした。普段の授業は,どんどん進んでわからないことが多いです。このコースは,ゆっくり一人一人がしっかりわかるようにやってくれて,良かったです。私は,コース別授業がいいです。
H13年度 女子

1) 平成14年度当初の計画

 昨年度の児童のアンケートの結果や児童の様子から,一人一人の児童が「わかった」「できた」という楽しさを味わうことができることを願って,以下のように習熟度別授業を試みることにした。

4年・5年→ 1学期 均等割りの3クラスで,国語と算数同一クラス

2学期 単元によって課題別または習熟度別授業

3学期 習熟度別授業

6年→ 1学期より習熟度別授業

国語 基礎(ゆっくり)・定着(じっくり1・2)の3コース

算数 基礎(ゆっくり)・定着(じっくり)・発展(のびのび)の3コース

2) コース選択の基本的な考え

・オリエンテーション(コースの違いの説明等)により,自己選択をする。

・人数が偏った場合(1つが30人以上)は,児童と相談の上調整する。

・コース変更は,相談の上随時可能とする。

3) コースの内容と人数

ゆっくりじっくりのびのび
なるべく少人数にし,個に応じた指導や支援ができやすいようにする。(15人程度) 問題解決学習を中心に,自分の考えを出し合ったり,よりよい考え方を見いだしたりする場を大事にする。 発展的な問題や自分自身で解決する場を取り入れ伸びる力を一層伸ばす。

具体的なやり方や指導の重点等は,単元前に打ち合わせをする。

4) 平成15年度

これまでの成果をもとに,年度当初から習熟度別授業を実施することにした。

5年・6年→1学期より習熟度別授業

  国語 基礎(ゆっくり)・定着(じっくり1・2)の3コース

  算数 基礎(ゆっくり)・定着(じっくり)・発展(のびのび)の3コース

  (3) 実施にあたり留意すること

1)
 打ち合わせ時間の確保

 各学年週1時間,少人数にかかわる先生方が集まれる「打ち合わせの時間」を時間割表の中に位置づける。

 そこで,進度合わせや教材研究をしたり,児童のつまずきに対する指導方法等を話し合ったりしている。


2)
 指導者の交代

 3学期制で3コースなので,1学期毎に先生がローテーションする。一人の児童を複数の目から見守ることを原則に,1年間通せば一人の児童を3人の先生が指導することとなる。

3)
 保護者への説明(少人数学習の実施にあたり)

 H12.3月 学年だよりで連絡

H13.4月  PTA総会の校長講話で目的や意義などを説明

4月  PTA学年集会で目的や意義,児童の様子などを説明
 授業参観日にできるだけ公開
 ローテーション,コース変更等,必要に応じて学年だよりで紹介,連絡

H14.4月  PTA学年集会で目的や意義,児童の様子などを説明

7月  地域公開参観日の校長講話で少人数学習指導の成果等説明
 授業参観日にできるだけ公開

H15.4月  PTA学年集会で目的や意義,児童の様子などを説明

7月  地域公開参観日の校長講話で少人数学習指導の成果等説明
 授業参観日にできるだけ公開

9月  学校だよりで学力向上を願った本校の取り組みの様子をお知らせ

11月  学校だよりで公開授業のお知らせ(参加呼びかけ)

4.研究の実際から

  (1) 人や教材とのかかわりを大切にする

★安心して学べる学習集団作り(習熟度別授業)

S男の事例(ゆっくりコース)

<国語>

 授業に向かう態度が前向きになり,「やりたい,やりたい」の声が多く聞かれるようになった。5年生の時は,教科書を読むとき,分からない漢字があっても適当に読んだり,あきらめて読まないでいたりすることが多かったが,友達に聞いてふり仮名をふりながらも決められた時間読み通そうとする姿が見られるようになってきた。また,作文にも漢字を使おうとするようになり,それまで入れられなかった自分の考えも入れられるようになったり,物語の主人公の気持ちを考える時には,叙述を拾えるようになり,叙述をもとに意見が言えるようになったりしてきた。

<算数>

 習熟度別授業になってからS男は,授業にとても前向きに取り組むようになった。自分の思いも遠慮せずに言えるようになり,単元テストの結果も昨年より平均で24点も上がっている。宿題も毎日とはいかないが,提出できるようになってきている。授業の終わりには,「今日分かった」とか「算数が好きになってきた」とかの言葉を残して少人数教室を出ることも多くなった。

  (2) 学ぶことへの意欲・やる気を育む

★基礎,基本の定着を図るチャレンジ学習の充実

 H13年度実施した算数の県学力検査の結果より,本校の児童は計算力が弱いことが分かってきた。そこで,計算力を補うための時間を,毎週火曜日の朝の活動の時間(8:25〜8:40)に設定した。プリントは,学年毎自作し,全職員がかかわって指導することにした。

 また,H15.10月からはそれまで,学年毎に行っていたものを1年から6年まで通して学んでいける形式へ変更し,つまずいた時には,自分で適切な所までもどって学習できるようフローチャート形式とした。チャレンジの時間のある時は,始まりの時間になる前に自主的にプリントを取りに行き,チャレンジ学習を始める子どもたちである。一人一人進み方は異なるが,黙々と集中して計算問題に取り組むようになってきている。

<オリエンテーションでの説明(H15.10)>

○計算チャレンジの意味

  ・今までのチャレンジと違うところは,教科書の内容をすべてやるのではなく,計算の分野にしぼっているということろであり,1年生の内容から順に学習をしていくというところです。

  ・チャレンジは一人一人の学習を大切にしています。人との競争ではありません。丁寧に学習を進めていき,分からないところを残さないようにしていきましょう。

  ・終わったチャレンジは,必ずファイルにとじ,学習の振り返りができるようにしましょう。


○計算チャレンジのやり方

  ・廊下の箱からチャレンジを持っていきましょう。
名前をしっかり書いて下さい。始めにやるところは,ステップ1です。ステップ1ができたら,次の級のプリントを持ってきましょう。次の級の裏側に答えがありますので,ステップ1の答え合わせをしましょう。ステップ1が全問正解ならば,持ってきた次の級のステップ1に進みましょう。

しかし,もし1問でも間違えてしまったら,答えを見ないようにしてステップ2をやりましょう。
同じように答え合わせをして,全問正解ならば次の級に進みましょう。



 さらに,間違えてしまった場合は,ステップ3に進みます。ステップ3で全問正解ならば次の級へ進みますが,1問でも間違えてしまったら,→の級のプリントをやりましょう。戻ったプリントで合格になったら,もう一度,合格できなかったプリントに挑戦です。
 (→には,先生をよびなさいというところもありますので,その場合は先生を呼びましょう)

★漢字練習に意欲的に向かう子どもたちをめざした漢字チャレンジ

 上記の県学力調査から,本校の児童は漢字を書く力も弱いことが分かってきた。しかし,漢字は日々の漢字練習がとても大切であり,こつこつ努力してこそ力がついていくものである。それには,家庭学習において自ら意欲的に取り組みたくなるようなチャレンジ問題を作るなど工夫することが大切ではないかと考えた。

 そこで,次のような進級式のチャレンジ問題を作成することにした。

  ・出題数を10問とし,紙面には次の級で出題する漢字も5問も予告するようにする。

  ・テストは予告してあった5問プラスそれまでに出題した漢字から指導者が抽出した5問とをあわせ10問とする。

  ・過去の問題からの抽出にあたっては,子どもたちがよく間違えるような問題を繰り返し出題するようにしていく。

  ・80点合格とし,不合格の場合にはその級に再度挑戦する。

 進級式としてある上,次回出題する漢字も予告してあるので,子どもたちは,合格へ向けて意欲的に漢字練習を行うようになってきている。

 また,単に漢字を書く能力を伸ばすだけでなく,自分はどのような漢字練習の仕方をしていくと合格へ結びついていくのか,児童自らが考えて漢字練習もするようになってきた。

 なお,この漢字チャレンジを容易に作成できるように『漢チャレMaker』というソフトを開発したので,ご利用になりたい方は,ダウンロードして,ご検討ください。

 http://www.vector.co.jp/soft/win95/business/se296030.html

★学びの価値を実感できる学習の見返し

自己評価カードを使い,自己評価時間を確保する

 授業の理解度を児童に評価させる「自己評価カード」を作成し,授業終わりの3分をカード記入の時間とした。3分間という時間を考え,理解度を◎○△で表し,簡単な感想を書ける形式とした。


   こうした取り組みにより,「今日の勉強はよく分かったー」とつぶやき,満足しながら記入する姿も見られるようになってきた。我々教師も指導の見返しに役立ち,△をつけた児童を放課後個別に指導したり,◎の少ない次の時間には,復習から授業に入っていくなどの計画を立てて授業に臨めるようになってきた。

5.今後の課題

  (1) 努力を要する児童の補充が難しい。単に,分からないからといって補充の個別指導をしても,児童の学習によせる意欲,やる気が失せるようであってはならない。意欲,やる気を大切にしながら,「ふれあいの時間」を補充的学習の時間として上手に活用していかないといけない。

  (2) 個に応じた指導をより一層充実させるために評価規準を作成した。指導と評価を一体化させながら,その評価規準で授業を実施していくことにより,より具体的な評価方法や指導のあり方を探っていきたい。

  (3) 学習内容の定着を図れるような個に応じた指導のための教材(各コースにあった教材)の開発にも力を入れていきたい。


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