授業実践記録

空間認識を深めるための指導について〜直線や面の位置関係の見取り図をフリーハンドでかくこと〜
松江市立中学校教諭

1.はじめに

 幼少時の生活体験の乏しさなどからか,空間図形の教材に対して苦手意識を持つ生徒が多いと感じている。そのような空間図形のつまづきの原因を探るために,以前に中学校2年生と3年生を対象にアンケートを実施したことがある。その中で空間図形の学習内容が「難しい。」とか「好きではない。」と答えた生徒の大半は,その理由として「頭の中でイメージするのが難しい。」との理由を挙げていた。そのような結果から,生徒が空間図形に対し苦手意識を持たないよう,頭の中でイメージすることを助けるような指導の必要性を感じた。

 ここは「空間図形」に対する生徒の実態を知り,学習指導要領の内容を踏まえ,どのように生徒に関わりを持てばよいかということについて,研究を進めることにした。


2.研究仮説として

 一般仮説と作業仮説を,以下の通り設定した。

<一般仮説>
  空間図形の授業を展開する上で「観察」を重視すれば,生徒一人一人が空間図形に対する直感的な見方や考え方を深めることができるであろう。

<作業仮説>
  言語情報から見取り図をフリーハンドでかく場を設定をすることによって,直線や面の位置関係の理解をより深めることができるであろう。

研究をするにあたっての基本的な考え方として
学習指導要領の第1学年の図形の目標は,以下の通りである。

 平面図形や空間図形についての観察,操作や実験を通して,図形に対する直感的な見方や考え方を深めるとともに,論理的に考察する基礎を培う。

 上記の目標の「観察」に注目し,図形の性質などの理解を深める手だてとして,「見取り図をフリーハンドでかくこと。」に絞って研究を進めていく。そして,生徒の実態を踏まえ,上記の研究仮説に従って,授業を構成,実践し,考察していく。


3.研究の実際

(1) 研究の流れ
実態把握
  生徒の空間図形に対する認識についてアンケートを実施する。
学習指導案の作成
  アに基づいた上で,仮説を検証するための学習指導案を作成する。
授業実施,事後調査
  イで作成した授業を実施し,授業後の生徒に自己評価表をかかせる。
調査結果
  ウでの自己評価表をまとめ,それに基づいた考察をする。

 以下,ここではイ,エについて述べていく。


(2) 学習指導案の作成

 実態把握の結果とその考察,そして研究仮説から,以下のように指導観を考え,授業を展開することにした。

1 指導観として

 「同じ平面に平行な2つの平面は平行である。」というような直線や面の位置関係の正誤を考えるような問題は,生徒とって難しいものである。それ故,問題を見ただけで考えることをあきらめてしまうような生徒もいる。

 そこで,直線や面の位置関係をフリーハンドで見取り図でかけるように指導した上で,上記のような問題に取り組めば,生徒も何かしらの取り組みを進めることができるのではないかと考えた。


2 目標
 空間図形の直線や面の位置関係の問題を自ら作成し,取り組もうとする。
(関心・意欲・態度)
 空間図形の直線や面の位置関係を,見取り図にかくことができる。
(表現・処理)
 鉛筆やノートなどの具体物の位置関係を,直線や平面の位置関係として捉えることができる。また,条件を変えて,いろいろな問題をつくることができる。
(数学的な見方・考え方)

3 学習過程

生 徒 の 学 習 活 動 教師の支援
鉛筆やペンなどを「直線」,ノートや教科書を「平面」と見立てて,直線や面の位置関係を見取り図にかく。
できた見取り図から全体に紹介していく。
2つの直線は平行である。 2つの直線は垂直である。
2つの平面は垂直である。 2つの平面は平行である。
 
2つの直線はねじれの位置にある。
2つの平面は垂直である。

 
<問題>
 次のカードに言葉を入れ問題を完成させ,その言葉がいえるかいえないか考えてみよう。
プリントを配布する。
机間指導をし,生徒の取組を全体に示す。
 
同じ( 1)に( 2 )な
 2つの( 3 )は平行である。
1 には平面または直線を,
2 には垂直または平行を,
3 には平面または直線を
入れることとする。
<見取り図>
 
同じ(    )に(   )な
 2つの(   )は平行である。
いえる   いえない
問題を考えるとき,見取図をフリーハンドでかくように促す。
 
 
問題に対する考えを聞き,クラス全体で検討する。
自己評価表をかく。
 


4.研究の考察

 フリーハンドで空間図形をかくことの有用性として,以下,3つのことが上げられる。

(1) 生徒にとって取り組みやすい。

 定規・コンパスにとらわれることなしに図をかくことで,問題を見ただけであきらめてしまうような生徒も何かしらの取り組みを示すことができる。


(2) 生徒にとって作業能率がよい。

 自分の考えを図に表現することで,自分の考えを目で確かめることができるようになり,自分の答えを確かめたり,新しい可能性に気づいたりすることができる。


(3) 生徒のイメージが教師に見える。

 例えば,次のような図を生徒がかいていた。

例1「同じ平面に垂直な2つの平面は平行である。」について

1


 この生徒ははじめ,上の1のような見取り図をかき「いえる」に○をしていた。しかし,別の生徒がかいた2のような見取り図を見せることにより,この生徒は「いえない」に○をつけかえた。

2


例2「同じ平面に平行な2つの直線は平行である。」について

3


 このように考えていた生徒に対しても,例1と同様に,他の生徒のかいた下の図を見せることで,「ねじれの位置」があることに気づかせることができた。

4


 例1,例2ともに生徒がかいたフリーハンドの見取り図があってこそ,生徒の思考が見え適切な支援ができたと考える。

 生徒が教師に「問題のすべてがわからない。」といって質問してくる場合があり,どう関わればよいのか困る場合がある。そのようなとき,方程式等の数値計算の場合は問題を解く手順が見えやすいので,生徒の思考のミスを教師が見つけやすく援助しやすい。一方で,空間図形等の図形の場合は教師が一方的に言葉や図で説明してしまう場合が多く,生徒がどう考えてミスをしているのかが見えにくいと感じていた。

 しかし,例1,例2ように,生徒が「フリーハンド」で空間図形をかくことによって,生徒のイメージが見え,どこをどうミスしているのか教師がわかるので適切に援助しやすいと思われた。

 このように,直線や面の位置関係をフリーハンドでかくことで,生徒がどこをどう悩み,解決の手だてを欲しているのかが明確に見え,適切な支援できるように感じている。

 今後も,今ある学習内容・教材を工夫し,授業を展開していこうと考えている。


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