授業実践記録

生徒の「数学的な見方や考え方」が深まる授業づくり
神奈川県中学校数学教諭

I.はじめに

 本研究は,川崎市立中学校教育研究会数学科部会内に,平成18年4月に発足した4つの研究チームのうちの1つで,川崎区10校による共同研究である。平成18年3月までにも研究を進めていたわけだが,それまでの意志を引き継ぎつつ,また新たに3年の研究期間(来年度3月まで)を設けて始まったものである。


II.主題の設定理由

(1) 前主題から現主題への経緯

 平成17年度まで,本研究チームでは,“「数学的な見方や考え方」の評価に関する研究”を主題に置いて研究を進めてきた。授業中の生徒の活動を見て,「数学的な見方や考え方」をしている,とはどのような場面でどのような思考を働かせていることだととらえるのか,また,それをどう評価するのかが少しずつ明確になってきた。そして,その思考をより一層働かせやすくするような課題を考えることで,「数学的な見方や考え方」をする場面を増やす授業づくりにもつながった。

 しかし,あくまでも主題は"評価"に関する研究で,授業研究後の協議ではその授業でどのような活動をした生徒をAと考え,どのような活動に到達できなかった生徒をCと考えるのかという評価を最終目標としていた。私たちが,実際に最も困っていることの1つとして,評価の方法が挙げられたことを理由に行っていたわけだが,これについては一定の成果があげられたものと考えている。現在の主題は,まず,日々の授業づくりにすぐにでも生きる研究を目指し,課題の良さや,発問の内容とタイミング,授業形態などに重点を置いた研究にしたいという思いから設定した。

(2) 授業改善を目指す

 チームでの研究に参加することの最大の利点として,授業を見る目が養われるという点が挙げられる。それは,事前の指導案検討の際に,生徒の反応を想像したり,重要なポイントとなる発言を引き出すためにどのような思考を重ねさせていこうかと考えたりすることで,実際の授業を見るときに,注目すべき授業の要所がはっきりするからである。

 これを,授業をつくる側から言うと,どのような場面で,どのような方法で生徒に考えさせるのかを工夫することになる。自分の工夫により「数学的な見方や考え方」を深めさせる授業をつくることができるという実感につながり,日々の授業改善に生きるものと考える。この研究ではそれを目指し,毎日の授業づくりにおいて私たち教師が意識したいものは何であるのかを確認できるものにし,明日にでも生きてくる研究を目指したいと考え,この主題を設定した。


III.研究の内容

1.「数学的な見方や考え方」をどうとらえるか

 平成17年度までの研究を踏まえつつ,授業づくりに重点を置いた研究なので,それまでと同様に,「数学的な見方や考え方」をどうとらえるかについては,以下のことを前提としたい。

 次の7通りの思考を働かせることとして考える。

1 他の場合を考える
2 他の方法,よりよい方法を考える
3 どんな場合でも成り立つ方法であるか考える
4 自分の考えは正しいかを考える
5 知っている方法をあてはめて考える
6 似たような問題を作って考える
7 理由を説明できるように考える

2.「数学的な見方や考え方」をより深めるためにどう工夫できるか

 上記17の思考を「数学的な見方や考え方」ととらえた場合に,これらをより深めさせる工夫は,どんなことが考えられるか。とはいえ,それは,特別なテクニックや特別な課題を見つけることだけをいうのではなく,授業づくりにおいて次の3つのポイントを考えることで実現できると思う。

a. どんな課題か(「数学的な見方や考え方」をする上での良さを考える)
b. どんな発問の内容,タイミング,その反応の取り上げ方をすると考えが深まるのか
c. どんな授業形態が良いのか

(1) どんな課題か

 どんな課題にも良さがあり,また,どんな課題に取り組むにしても,生徒が考えるときには,必ず「数学的な見方や考え方」の要素が必要になると思う。教師側は,その課題がどのような良さをもつ課題であるのかを考えることで,その要素が必要となる場面を見つけていきたい。また,それをどのようにして生徒から引き出していくのかを考えることで,私たちの授業改善へとつなげたい。

(2) どんな発問の内容,タイミング,その反応の取り上げ方をすると考えが深まるのか

 発問や,そのときの生徒の反応の取り上げ方を工夫することで,「数学的な見方や考え方」の授業での生かし方を改良していくことで,考える場面での楽しさが生徒に伝わり,より考えたくなるようにできる研究にしたい。

(3) どんな授業形態が良いのか

 数学の課題に取り組むとき,個々で考える時間と,グループなどで仲間とともに考える時間や互いに教え合う時間では,生徒の思考の積み重なり方も違う。どの場面ではどのような授業形態がよいかについても考えていきたい。


IV.授業研究1

神奈川県数学教育研究会連合会(横浜国立大学教育人間科学部付属横浜中学校) H18.10.18(Wed)

(1) 単元名 平面図形(線対称な図形)<1学年>

(2) 課題

いろいろなマークを2つの仲間に分けます。どのように分けているのでしょう。

どのように分けたのかを予想しながら,黒板で分けられていくマークを確認する
気づいた生徒とその分け方を確認する
わかった生徒が他の生徒に対して,他のマークで出題する(これはどちらの仲間か)
わかった生徒が他の生徒に対して,わかりやすくなるヒントを出す
線対称なマークとそうでないものに分けたことを知る

(3) どんな授業形態が良いのか

a.どんな課題か

 平成17年度の川崎地区授業研究会で実施し,生徒が生き生きと「数学的な見方や考え方」をする姿に,私たちが感銘を受けた課題である。その後,さらにこの平成18年10月の授業提案に向けて考察を重ね,1年以上の時間をかけたため,明確にポイントをつかんで課題提示をすることができた。

 まず最初に,どのマークをペアにし,また,どんな順番で見せていくのか,ということに注意した。生徒たちが,最初に3つのペアを見たときに他のペアのマークを見て,1他の場合を考え,4自分の考えは正しいかを考える ことが必要である。また,わざとマークの意味合いとしては似たマークをペアにして見せることで,早い段階で,マークの意味は関係ないこともわからせるようにした。

 そういった,教師側のねらいをより良い形で生徒たちに感じ取らせた上で,高い関心を持ちつつ,いろいろな「数学的な見方や考え方」をさせていく課題である。線対称の定義をはっきりさせることはできなくとも,一定の規則があることを発見できた生徒は,マークが増えていくごとに確信を強めていく。また,その生徒が,まだ発見できない生徒に対して,少しでもわかりやすくなるヒントを,どのように出していくのか,そこでも6似たような問題を作って考える「数学的な見方や考え方」ができる。自分が出したヒントに対して"いいヒントだ"と共感する仲間がいれば,その生徒は自分の「数学的な見方や考え方」に自身をもち,そのときにまだわかっていない生徒は,そのヒントが意味することを考えればきっと規則性を発見できるだろうと思い,意欲をもって取り組むことができる。

b.どんな発問の内容,タイミング,その反応の取り上げ方をすると考えが深まるのか

 わかってもすぐに周りの友達に言ってはいけない,ヒントはあくまでヒントであり答えに直結したものにならないようにする,などの注意が必要である。わかってしまえば,あまりにも簡単な規則性であるが,それを見つけ出すために,生徒は様々な「数学的な見方や考え方」をしていく。発問内容やヒントは,それを助けるものであることが望ましい。生徒がなかなか発見できない場合には,どのヒントやどのペアのマークが気づきやすいのか,注目すべきポイントを,すでに発見できた生徒とのやり取りの中で明らかにしていく。良いヒントを取り上げ,また,他にも良いヒントがないかを考えさせることで,すでに規則性を発見できた後も,「数学的な見方や考え方」をし続けることができる。

c.どんな授業形態が良いのか

 「数学的な見方や考え方」とは直接関係ないかもしれないが,1時間中生徒を引きつけられることもこの課題の良さである。授業の内容に取り組みさえすれば自然と「数学的な見方や考え方」をすることになる。内容が難しい場合は,グループで取り組むことで,質問しやすくなり興味をもてるようになることもある。しかし,気づいてしまえば規則性は簡単なだけに,個人で取り組ませ,じわじわと気づく人数が増えていくようにしたい。どちらかといえば,仲間との相談はせずに,最後まで粘り強く取り組みたくなる課題であると考える。


V.授業研究2

川崎地区(Aチーム)授業研究会(臨港中学校) H19.9.21 ( Fri )

(1) 単元名 文字の式(まとめ)<1学年> (参考資料として指導案あり)

(2) 課題

正方形状に碁石を並べたものを見て,そこに何個の碁石が使われているのかを確認する。まずは, 1辺に3個の碁石が並んでいるものを見る

このときに,正方形の性質として,4つの辺の長さが等しいことなども確認する。
 
   
⇒ 8個

正方形の1辺に4個の碁石が並んでいるとき,全部で何個の碁石があるのかを調べる

碁石を並べてつくった正方形が書かれたカードが裏返しで全員に配られる
個数がわかったら,その数をカードの中央にペンで記入して先生に見えるように上げるというルールを確認し,「スタート」の声で一斉にカードを表面にひっくり返し個数を調べる

同様のカードで,次は1辺に10個の正方形の場合でも個数を調べる

すばやく個数を調べられた生徒何人かに,どのように数えたのかを発表させる
10×4 − 4 9×4 10×2+ 8×2 など
個数の他の調べ方がないか考えさせ,カードに書かせ,その数え方をきちんと確認する

さらに同様のカードで,次は1辺に20個の正方形の場合でも個数を調べる

今度は,10個のときに確認した数え方の中で自分が一番やりやすい数え方で個数を調べる
1辺にx の場合はどうなるのか考える

4x− 4 4 ( x− 1) 2x+ 2 ( x− 2) など
できた生徒は,なぜその式ができたのかを説明する

(3) 考察

a.どんな課題か

 カードを配り,そこにできるだけ速く個数を記入することを競うようにやらせることで,生徒たちは,ゲーム感覚で,関心をもって取り組むことができる。また,ペンで書かせることで,消しゴムで消すことができないので,早とちりをしてしまいがちな考え方も,授業で取り上げやすくなる。

 1辺に並ぶ碁石の個数が10個のときに,時間をかけて,しっかり確認した。式に文字が入ると,生徒はなかなか理解できなくなるので,具体的な数字を使って考えられるときに,しっかり考えることを大切にした。自分の数え方を式に書いてみれば,それは 4自分の考えは正しいかを考える ことにつながり,他の数え方がないかを考えれば,2他の方法,よりよい方法を考える ことができ,最後に文字を使って表せば,3どんな場合でも成り立つ方法であるか考える ことができる。具体的な数を使って丁寧に考えれば,それは文字式でも同じように考えられる。また,文字式になってわからなくなったと感じたときには,具体的な数を使った場合に置き換えて考えれば理解しやすい。こういったことも実感させられる課題であるといえる。

b.どんな発問の内容,タイミング,その反応の取り上げ方をすると考えが深まるのか

 1辺に10個の場合のときに,10×2+8×2 を書いた生徒には,なぜ「8」なのか,つまり「10−2」から出るものだということを確認した。これは文字式で表すときに役立つ考え方である。


VI.授業研究資料1

  線対称である 線対称でない  
 

対称の軸が斜めのものも早いうちに提示
生徒にヒントを出させると紙を斜めにする者が出る
 
対称の軸が横のものも提示
 
 
線対称かどうか迷うものも入れておく
線対称かどうか迷うものも入れておく

VII.授業研究資料2



○の個数を数え,このカードの中央に記入をする。カードを上げて,わかったことを知らせる。


ワークシート 『ご石』は全部で何個??

1年  組  番 氏名                  

課題4 1辺に並べる『ご石』をx個とすると,全部で『ご石』は何個必要ですか。 xを使って表しましょう。

【数え方1 (計算した式)
 
   
【数え方2 (計算した式)
【数え方6】まで用意しておいた。

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