授業実践記録

図形感覚と発想力をみにつける〜折り紙を使って〜
兵庫県伊丹市立東中学校
坂手 隆人

1.生徒の実態

 本校2年生の選択授業は学校選択ということで,数学と国語を隔週でまわしている。授業と授業の間が少なくとも2週間は空いてしまうので,連続する内容で授業をしていくことが難しい。そのため,1回で完結する内容で授業をすることにしている。また,本校の生徒は作業を伴う授業では,積極的に参加し色々な工夫をしようとする雰囲気がある。作業を取り入れることで,目で見て分かるということが多く,興味関心が強くなるようである。しかし,数学に関しては生徒の学力の差が大きく,授業に対して意欲をなくしてしまっている生徒もいる。また復習をする生徒が少なく,基礎基本の定着が思うようにできていない。


2.指導のねらい

 文章題,図形領域を苦手としている生徒の数が非常に多く,長い説明や図があると投げ出してしまう生徒が多い。そこで「折り紙」を使って遊び感覚で図形の問題に取り組み,実際に作業をすることで感覚的に図形の問題に触れることを目的とし,「答えの理由に対して,折り紙を重ねる,折ることで感覚的に納得できる」ということを全体の目標とした。


3.授業の流れ

1 折り紙を見せて,今回の授業では折り紙を使って実際に重ねたり,折ったりしながらクイズを解いていくことを伝える。ただし,1人で考えるのではなく,班のメンバーで一緒に考えるということを徹底させる。それから,作業後の折り紙の処理などについての注意をしておく。説明の後,折り紙を配り,班の形に座席を移動する。
 
2 〜問題1〜
1枚の折り紙の角に,もう1枚の同じ大きさの折り紙の角を合わせて置く。重なった部分の面積を,折り紙1枚の面積の2分の1にするには,どのように重ねたらよいか。

注意事項
問題1を聞き考える。このとき,折り紙の角が合っていることを徹底し,出てきた答えの理由を考えさせる。

生徒の反応
適当に重ね合わせてみて,この辺かなと予測を始める。
折り紙に折り目を作って考えようとする。
なかなか答えが見つからない。見つかっても理由を説明できない。

問題1の答え
2枚の折り紙をそれぞれ長方形になるように半分に折り,折り紙の1辺の中点を作る。その中点同士を重なるように2枚を重ねると,重なった部分の面積を折り紙1枚の面積の2分の1にすることになる。
実際に生徒に対して,上の左の写真のように,正方形に切った画用紙を重ねて見せる。なぜかという理由については,右側の写真のようにオレンジの部分が合同であることを証明し,答えになることを理論的に説明する。
 
3 〜問題2〜
折り紙をもとの面積の8分の1の正方形に折りなさい。

注意事項
問題2を聞き考える。必ず,できあがった形は正方形であることを徹底する。
この問題は,あまり時間をかけない。

生徒の反応
少しずつ小さくなるように,端の方を折っていく。
どんどん半分に折っていく。
「もとの面積の8分の1」ということを利用して計算を始める。
早くに答えが見つかる。折り方は,ずっと正方形になるように折っていく場合と,最終的に正方形になるように折る場合とに別れる。

問題2の答え
I. 折り紙の4つの角を中心に集めてくる。この作業を3回繰り返す。
II. 折り紙を長方形になるように半分に折り,次にそれを正方形になるように半分にする。その後に4つの角を中心に集めてくる。
III. 折り紙を対角線で折る。この作業を2回繰り返し,できあがった直角二等辺三角形の底角の部分を頂角に合うように折る。
 
4 〜問題3〜
折り紙をもとの面積の5分の1の正方形に折りなさい。

注意事項
問題3を聞き考える。必ず,できあがった形は正方形であることを徹底する。
説明用の図をあらかじめ用意しておき,生徒が理由を説明され,理由が納得できる時間を確保する。
生徒が挑戦する時間を多く作る。

生徒の反応
縦,横,対角線という折り方ではなかなかできないことに気づく。
定規で辺の長さを測り始める。
ヒントを求めてくる。
少しずつ折って何とか合わせようとする。

問題3の答え
折り紙の角をそれぞれABCDとし,各辺の中点をE,F,G,Hとする。折り紙の角から各中点を結んだ線分AF, BG, CH, DEを折り目として,折り込んでいけば,もとの面積の5分の1の正方形ができる。
上の写真は実際に折り紙を折る線(左上)と大きさを比べたもの(右上)。
 
上の写真は答えの証明を実際に図を使ってやっているところである。同じ色の斜線部の三角形と茶色の画用紙が重なっている(写真右上)。茶色の画用紙を並べ替えると真ん中の正方形と重なる(写真左下)。このように文章だけでなく,実際に図を見ながら考えることで,理解できる生徒は多くなる。
 
5 まとめ(生徒の感想)
人に説明をするときに証明をうまく利用できれば,伝えやすく納得しやすい。そのときに図があればとても理解しやすい。
実際に図形の問題を解くときに,補助線を入れてみたり,見る角度を変えてみることが大切だと思う。


4.授業を終えて

 作業を含む授業とはいえ,生徒が苦手としている図形の問題を答えの理由を一緒に考えさせるということで,生徒の反応があまりないことも想像していたが,ほとんどの生徒が予想以上に集中して問題に取り組むことができていた。このことは,班のメンバー(6人程度)が協力して答えを導き出し,理由を考えさせることで,お互いに声を掛け合い,作業を進めていくことができたことが1つの原因であると考えられる。

 もう1つの原因として,班の中で教えてもらい,実際に作業をしてみてできる喜びを感じているからだと考えられる。実際に授業の中で,生徒同士が教え合い,作業をしていく中で笑顔を見ることが多くある。理屈ではなく,感覚的に分かることで楽しいと思えることも大切であると感じた。

 また,早くに理解できた生徒は,分かっていない生徒にどうやったらうまく伝えられるかを考えて,証明を簡単にしてみたり,一緒に作業をしてみたり,色々な工夫をしていた。

 確かに生徒間の学力の差はあるが,生徒が笑顔で「今日は面白かった」「今日は新しいことを発見した」「友達にうまく説明できた」などと感じることができることは大切であると感じた。しかし,毎時間作業を多く取り入れることは困難である。今回のような授業は,学習の流れの中で「ここはインパクトがほしい」と思うような場所で取り入れる形の授業になると思われる。

【引用参考文献】
沖田浩著 「面白くてやめられない 数学パズル パワーアップ編」 中経出版
 
前へ 次へ

閉じる