オ−プンエンドアプロ−チを利用した課題学習の授業
千葉県八街市立八街中央中学校
曽根崎 高志
1.はじめに

 平成元年に告示された学習指導要領から,中学校数学科の目玉として『課題学習』が提示された。その授業の進め方,取り扱う課題,年間指導計画への位置づけなど,様々な実践・研究が繰り返されている。しかし,日々授業を進めている教師の立場からいえば,課題学習の目的を満たすことができる課題をどう設定し,どう授業を展開していくかということも悩みの種ではあるが,教科書の内容を確実に指導し,それを定着させながら,課題学習の授業を年間計画に位置づけていくことができるかということも切実な問題である。
 そこで課題学習の目的である「生徒が主体的に課題に取り組み,数学的な見方や考え方を育成すること」に焦点を当てた授業展開を課題学習の授業として,年間の指導の中に位置づけることを考え,『オ−プンエンドアプロ−チによる授業展開』を扱うこととした。

2.研究のねらい

 課題学習の授業で扱う課題を,トピックスやパズル等を活用した新しい課題を設定をするのではなく,教科書などで扱われている課題の提示方法や授業での焦点の当て方を工夫して,生徒の主体性や数学的な見方・考え方を伸ばすことを中心に授業展開することを課題学習として位置づけた。
 具体的には生徒たちの多様な考え方に着目し,オ−プンエンドアプロ−チによる授業展開を課題学習として実施することとした。また,生徒たちの活発な発想をより引き出すためにグル−プ学習を活用し,積極的に授業に参加できる環境作りに努めた。

3.課題学習の例(面積を2等分する直線の式)

[課 題]
 右の図のように,x軸,y軸と2つの直線 x=6、y=4 によって囲まれた長方形がある。
 この長方形の面積を2等分する直線を見つけ,その直線の式を求めよ。
 ただし,x軸,y軸の1目盛りを1cmとする。

 この課題は,第2学年の「一次関数」の単元で学習可能な内容である。教科書や問題集では,2直線と軸によって囲まれた三角形の面積を求めたり,その三角形の面積を2等分する直線の式を求めるなどの問題が多いが,長方形を扱うことにより,面積を2等分する直線がオ−プンエンドな問題となりうる。
 面積を2等分する直線は,ある座標を固定(例えば三角形の頂点を通ると仮定すると,底辺の中点と頂点を通る直線がその三角形の面積を2等分する)することにより,その直線は1本に限定されるが,様々な着眼点から多くの直線を考えることにより,長方形の面積に関する性質や座標上の関数の式の特徴などを総合的に学習することが可能となる。これはオ−プンエンドな問題であり,生徒たちが考えるそれぞれの直線の式を重要視していくことが大切である。
 長方形の面積を2等分するために,どのように直線を引けばよいかという観点から,対角線や辺の中点を通る直線,さらには対象性に着目して合同な2つの台形に分けるように直線を引くことにより,求める直線が得られる。これらは直観的な発想で直線を知ることが可能であるので,多くの生徒たちが解答可能であると考えられる。ただし,直線の式の求め方(2つの座標から直線の式を求めたり,自分で座標を固定したりする)については,その習熟度に差が予想されるので「直線の場所は分かるが,式が求められない」といった生徒たちも評価できるような指導を心がけたい。
 またこのようないくつかの活動から,与えられた図形の重心を通る直線が求める直線である(長方形の対角線の交点を通る直線は,すべて長方形の面積を2等分する)ことに統合することにより,この問題は一般化可能な問題となる。直観的に分かる直線を帰納的に考え,グル−プで様々な検討をすることで,面積の性質を理解することができる。
 この課題は,長方形を与えて考えるだけでも,上記のような内容は学習できるが,座標上において関数の式と組み合わせて総合的に学習することにより,様々な直線の式を求める活動(2直線の交点の求め方,ある点を通る直線の式,対角線の式,辺上の2点を通る式など)が必要となり,より幅のある知識や技能が習得できるものとなる。
 ここで期待される数学的な考え方としては,帰納的な考え方・類推的な考え方・演繹的な考え方・統合的な考え方・一般化の考え方・基本的性質の考え・関数的な考えなどが挙げられる。

4.予想される生徒の反応

 (1) 対角線を通る直線


 (2) 各辺の中点を通る直線


 (3) 合同な2つの図形に分けたとき(向かいあう辺の比を点対称にとったとき)


 (4) 重心G(長方形の対角線の交点)を通る直線

 対角線の交点が重心G(3,2)であり,この点を通る直線は、必ず長方形の面積を2等分している。
 例えば,傾きをaとすると,y=ax+(2−3a)を満たす式があれば,求める式となる。


5.授業展開の例

学 習 活 動主 な 発 問援助と支援・評価
〔第1時〕
1.課題の説明を聞き,課題の内容を把握する。

長方形の面積を求め,その面積を2等分するような直線の式を求めてみよう。

問題文の意味を明確にし,条件や結論を指摘させる。 〔a〕
2.各自が問題に取り組む。
いろいろな直線の式を見つけてみよう。
机間巡視で生徒の反応を調べる。
他の直線は見つからないか指摘する。 〔b〕
3.グル−プ学習でいろいろな直線を見つける。
グル−プに分かれて,できるだけたくさん直線の式を求めてみよう。式がわからなくても,面積を2等分する直線がある場合は,その理由を考えよう。
グル−プでの話し合いを支援する。 〔c〕
式が求められなくても,面積を2等分する直線として適切かどうか考えさせる。 〔d〕
〔第2時〕
4.グル−プで意見をまとめる。

グル−プで考えた意見をまとめてみよう。

グル−プの意見を分類させる。 〔e〕
5.見つけた直線をグル−プごとに発表する。
グル−プごとに見つけた直線の式を発表して下さい。式がわからなくても2等分すると思う直線も発表して下さい。
なぜ,その直線が面積を2等分しているのかを説明させる。 〔f〕
6.それぞれの求め方の観点に着目する。
いろいろな直線がありますが,関連はありませんか。
長方形を2等分する直線の性質は何かありますか。
様々な解法の観点ついて示唆する 〔g〕
重心を通る直線について指摘する。 〔h〕

●授業における評価の観点  <(個):個別の評価,(全):全体の評価>

 〔a〕問題の条件や求めるものを正しく指摘することができるか。(全)
 〔b〕自分が求めたものと異なる視点で問題に取り組むことができるか。(個)
 〔c〕グル−プごとに活発に話し合うことができるか。(個)
 〔d〕その直線が適切かどうかを話し合うことができるか。(個)
 〔e〕グル−プごとに意見を分類・整理することができるか。(個)
 〔f〕なぜ,その直線が面積を2等分しているのかを発表することができるか。(全)
 〔g〕観点の違いによって様々な直線が考えられることが指摘できるか。(全)
 〔h〕求めた直線を比較して,その関連性から性質を導くことができるか。(全)

6.授業の成果と今後の課題

 日頃の授業内容の定着を確実にさせながら,課題学習を年間計画に適切に位置づけることは大変難しいことである。特に課題学習を「特別な授業」という設定にしてしまうと,敷居が高くなってしまい,授業展開がやりずらくなってしまうだろう。教科書や問題集などに提示されている課題とその展開の仕方を『多様性』に着目するように授業を進めることでオ−プンエンドアプロ−チを利用することとなり,十分に課題学習の目的に適した授業ができ上がる。知識や技能を伸ばすことよりも,数学的な見方・考え方に重きを置くことの重要性は理解できるが,なかなか実践できるものではない。課題学習の時間をそのチャンスの時間として,授業を展開していきたいものである。

[参考文献]
片桐 重男:数学的な考え方・態度とその指導1 数学的な考え方の具体化
(明治図書,1988)
曽根崎 高志:中学校数学科における課題学習の研究
〜オ−プンエンドアプロ−チとグル−プ学習による個に応じた授業展開〜(日本数学教育学会誌 数学教育,第74巻 第5号,1992)
島田 茂(編):算数・数学科のオ−プンエンドアプロ−チ −授業改善への新しい提案(みずうみ書房,1977)

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