課題学習数学の指導
観察・操作・実験などの数学的活動を取り入れた確率の授業
愛媛大学教育学部附属中学校
川崎 豊
1.はじめに

 確率の指導においては、統計的確率と数学的確率の両者の意味を理解させることが大切である。しかし、自分自身の指導を振り返ってみると、順列・組合わせを使って形式的に計算できるようにさせることに重点を置いていたように思う。そこで、観察・操作・実験などの数学的活動を生かした授業構想及び授業実践を行った。その結果、統計的確率と数学的確率の両者の関連を踏まえた意味理解が深まった。また、発展的な題材「ビュッホンの針」の解決を通して、確率の有用性に気付かせることができた。
 本稿で、その実践の一端を報告する。

2.授業実践

◎単元名 「確率」

◎単元目標
 具体的な事象についての観察や実験を通して、確率の意味を理解し、簡単な場合について確率を求めることができる。

◎指導観
 自然現象や社会現象に多くある不確定な事象の考察においては、それらの事象の起こる程度に着目し、確率という形で把握し表現することが有効である。また、本単元の学習を通して養われる確率的な見方や考え方は、将来学習する確率・統計分野の数学の内容の理解に重要な役割を果たす基礎的な内容である。旧学習指導要領での自分自身の指導を振り返ってみると、順列・組み合わせを使って形式的に計算する指導に重点を置き、実験・観察による確率の指導は軽く扱ってきたように思う。
 よって、本単元では、観察・実験・操作などの数学的活動を通して、「起こり得る場合の数をよく整理すること」及び「統計的確率と数学的確率の両者の意味を理解させること」を理解させるとともに確率的な見方や考え方の基礎を培いたいと考える。

◎指導計画(11時間扱い)
(1) 並べ方1時間
(2) 組合せ方1時間
(3) 確率の意味2時間
(4) 確率の求め方3時間
(5) 形成的評価1時間
(6) いろいろな確率  2時間
(発展学習)
(7) 総括的評価1時間

◎本時の指導
(1)  本時の指導に当たって
 本時の学習は、確率の有用性や確率的な見方や考え方のよさを感得させるために、単元の終末に位置付けた2時間扱いの発展的な題材である。

(2)  本時の目標
課題に興味を持ち、自分なりの予想を立て、積極的に実験に取り組もうとする。
実験によって求めた統計的確率と数学的確率の考察を通して、確率の有用性や確率的な見方や考え方のよさを感じることができる。

(3) 授業の実際(2時間扱い)
学習の流れ学習活動・生徒の活動
○指導上の工夫
●評価
1.課題1を確認する。  
実験ができやすいように理科室で授業を行う。
実験には、1mm方眼用紙(550×800)を使用した。
【課題1】
 10cm間隔に平行線を引いてある紙がある。この紙の上から1円硬貨を落としたとき、硬貨が平行線にのる確率を調べてみよう。(1円硬貨の直径は2cm)
2.確率を予想する。
(個人→小集団)
生徒は、最初どう予想してよいのか戸惑っていたが、方眼用紙に実際に1円玉を置くなどして、いろいろな予想を立てることができた。
方眼用紙に実際に1円玉を置かせて考えさせる。また、考える時間を十分に保障する。
自分なりに予想を立てることができているか。
[生徒の主な予想]
予想1:2/5予想2:1/5予想3:4/7
下図のように、10cmの平行線の中に1円玉が5個並び、2個は平行線にかかっている。
平行線の間隔は10cmで、1円玉の直径は2cmだから。 下図のように並べると、1円玉が7個並び、4個は平行線にかかっているから。
予想4:2/6予想5:11/30その他の予想
下図のように考えると、6個のうち2個は平行線にかかっているから。
予想1と予想4の平均で考えたから。 2/251/2520/119などもあった。
3.予想した確率を発表する。
(全体)
小集団や全体で話し合う場面では、活発な議論がなされた。自分の考えを発表する場面においても、自信を持って発表することができていた。
実験を早くやって確かめたいという意欲の高まりが見られた。
予想がいろいろ分かれたこともあって、生徒は実験に真剣に取り組んでいた。
 
4.各班で実験を行い、結果を考察する。
(小集団)
10班(各班4人)での統計的確率は約0.21となった。
生徒は統計的確率の考察を通して、次のように数学的確率を考えることができた。
〈数学的確率:1/5
 1円玉の中心から平行線までの距離が1cm以内であれば、必ず平行線にのる。
 よって、10cmのうちの2cmより、2÷10で1/5となる。
実験によって求めた統計的確率から、数学的確率の意味を理解することができたか。
5.課題2を確認する。  
【課題2】
 課題1の問題で、次のように条件を変更すると、落とす物が平行線にのる確率は、それぞれどのように変化するだろう。
 (1) 1円硬貨の代わりに500円硬貨を落とす。
 (2) 平行線の間隔を変える。
 
ほとんどの生徒が数学的確率を求めることができた。
6.条件を変更して他の問題作ってみよう。(個人→小集団)
【生徒が作った問題と解答〈例〉】
[問題]
 下図のように、3cm間隔で縦、横に引いた平行線がある。平行線が交わった所に500円玉がのる確率を求めよ。
〈解答〉
 500円玉の半径は約1.3cm、右図より、1/4円内に500円玉の中心があれば、平行線が交わった所に500円玉がのる。
 よって、確率は(1.3×1.3×π)÷(3×3)≒0.59
7.課題3を確認する。  
【課題3】
 10cm間隔に平行線を引いてある紙がある。この紙の上からつまようじを落としたとき、つまようじが平行線にのる確率を調べてみよう。(つまようじの長さは6.5cm)
8.確率を予想する。
(個人→小集団)
生徒は1円玉での数学的確率を思い出しながら、積極的に予想を立てようとしていたが、どう考えたらよいのかほとんどの生徒は戸惑っていた。
[生徒の主な予想]
13/40=0.325、13/20=0.65、17/40=0.425
13/80=0.1625、13/50=0.26、 13/30=0.433
 
9.各班で実験を行い、結果を考察する。
(小集団)
確率は一体どうなるのだろうと、興味を持って、実験に取り組んでいた。
10班での統計的確率は、約0.45となった。
〈数学的確率:約0.41〉
課題に興味を持ち、積極的に実験に取り組もうとしている。
10.数学的確率の求め方 を教師が簡単に説明する。
数学的確率の求め方(ビュッホンの公式)については、教師が説明した。説明にはインターネットから得た資料(http://www.junko-k.com/cthema/38buffon.htm)を利用した。
この公式を理解するには、高校での学習内容(積分、三角関)が必要であるが、生徒の中には、家庭に帰って父親に説明してもらって何となく分かったような気がすると後日伝えにくる者もいた。
確率の有用性や確率的な見方や考え方のよさを感じることができたか。
11.まとめをする。
自己評価を記入し、本時の学習を振り返る。
 

(4)  実践の成果
観察・操作・実験などの具体的な活動を単元に位置付けたことが、生徒の学習意欲の継続に有効であった。
小集団学習を中心にした授業を展開したことは、協同で学習しようとする態度の育成につながった。
発展的な題材(ビュッホンの針)を単元の終末に位置付けたことで、統計的確率と数学的確率の両者の関連を踏まえた意味理解を深めるとともに、確率の有効性に気付かせることができた。

<参考文献>
 ・数学的コミュニケーション能力の育成(金本良通、中央美版 H10年)
 ・構想的アプローチの研究(中原忠夫、大成社 H7年)
 ・中学校学習指導要領解説−数学編−(文部省、大阪書籍 H11年)
 ・新しい算数研究 No.323(東洋館出版 H10年)
 ・愛媛大学教育学部附属中学校研究紀要 第54号(松栄印刷所 H13年)
 ・H14年度版各社教科書


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