箱の表面の2点間の距離−各学年に応じた操作的活動を通して−
愛知県海部郡大治町立大治中学校 石村 真一郎
1.はじめに
 「ひもで立体の表面上の頂点と頂点とを結び,その長さを調べてみよう。」
 このような課題は,3年の「三平方の定理の利用」でとりあげられることが多い。しかし,1,2年までの空間図形や平面図形の見方・考え方,そして調べ方があってこそ,解決できるのであり,意外にそれができないことが3年生になって目につくことがある。
 そこで,各学年の図形の学習内容を見直し,この「箱の表面の2点間の距離」を各学年の課題学習として工夫してみると,図形の見方・考え方,調べ方が今以上に楽しく身につくのではないかと考え,実践してみた。

2.実践例
  (1) 1年「空間図形」

 図のような直方体の箱の表面にそって,頂点Aから頂点Gまでひもをかけます。
 どの位置にかけるとA,Gを結ぶひもの長さがもっとも短かくなるかを調べましょう。
 

【準備】
  ・直方体の箱:グループの規模に応じて準備したい。

<グループ(6,7人)で行う場合>
 コピー用紙の梱包用段ボール箱などの大きな箱を用いたほうが,意欲を喚起しやすく,グループ内の集団思考を促しやすい。

<小グループ(2〜4人)で行う場合>
 ティッシュペーパーのあき箱など,同じ大きさで,数がそろい,加工できるものが望ましい。

定規:箱やひもの長さに応じて準備する。
(30cm,50cm,1m定規など)
ひも:麻ひも(またはビニルひも)
カッターナイフ,はさみ

【学習の流れ】
  1) グループごとに,箱,ひも,定規を使って,A,Gを結ぶ最も短い長さを考え,それを実測する。
 ※図1のように3通りに集約される。

  2)

 測った方法とその長さをプリントの図に書き込み,発表し合う。

  「ひもをずらしていって,この位置になると,いちばん短くなるけど」
  「だいたい位置はわかるけど,すっきりしない」
  点Cにかけるよりも辺BCまたは辺CDにかけたほうが短くなることがわかり,もっとも短くなる位置もおよそわかる。どの位置にかければよいかをはっきりさせることが生徒のなかの次の課題となる。
 

  3)

 話し合いを通して,辺BC,辺CDのどの位置にひもをかけるとよいかを課題として考え,その調べ方をグループごとに話し合う。

  4)

 箱を解体し,展開図に開いて調べることに気づく。
 ※カッターナイフ,はさみを使い,各グループで自由に展開する

 展開図に気づいたとたん,先を争うように立体を解体する。しかし,図2のような展開はできず,ほとんどの生徒は,早く調べたいあまり,切り込みが多すぎ,頂点の位置があいまいになりやすい。
 

  
5) 箱の展開図に直線を書き入れ,AGの長さを実測し,授業のまとめをする。

 AGの長さは2通り考えられる。それぞれを実測し,もっとも短い場合を考えさせる。

  

 箱に,頂点の記号を書き入れさせてから展開させたほうが,展開とその後の考察が容易に進められやすいと考えられる。しかし,試行錯誤の操作から,図形の操作,対応をつかむことができるとすると,ある程度自由に展開させてもよいと考える。

  (2) 2年「相似な図形」

 右の図の立体ABCD−EFGHは,
 AB=5cm,AD=4cm,AE=6cm
の直方体であり,点Pは辺BF上を動く点である。
 いま,AP+PGの長さが最小となるように点PをとったときのBPの長さを求めなさい。
 

【準備】
 立体ABCD−EFGHの展開図のプリント(各自),カッターナイフ(またははさみ),セロハンテープ

【学習の流れ】
  1) AB=5cm,AD=4cm,AE=6cmの立体ABCD−EFGHの展開図のプリントから,図を切り取り,立体ABCD−EFGHを作る。

 実際に図形を製作させるのは,展開図と立体図形の対応・関係から,空間図形への認識を高め,また問題解決の方策を操作の体験から見つけ出させたいからである。

  2)

 点Pを作った立体の辺BF上に位置をいろいろ変えて記入し,AP+PGの長さが最小になるPの位置を調べる。

  3)

 AP+PGの長さが最小になる場合についてグループで話し合い,展開図で点A,P,Gが同一直線上に並んだとき,つまり点PがAGとBFの交点の位置にきたときが最小になることに気づく。
  ※必要に応じて立体を展開させて,考えさせる。
 
 点Pの位置が辺BF上にあることから,試行錯誤を繰り返し,教師の予想以上に,最小となる位置が展開図で対角線AGとの交点になることに気づく生徒は多い。

  4)

 展開図をもとに,BPの長さを求める方法を考える。

 実際に定規を使って,実測する生徒が多い。しかし,実測ではなく,「図形の性質を使って」という課題を示し,相似な三角形の関係に気づかせるようにしたい。

  5)

 相似な三角形を見つけ,その関係からBPの長さを求め,授業のまとめをする。

  (3) 3年「三平方の定理」

 右の図は,1辺5cmの立方体である。
 AからGまで立体の表面を通る直線を引くときその最短の長さを求めなさい。
 


【準備】
 立方体の模型,ひも(教師提示用)

【学習の流れ】
  1) 教師提示の立方体の模型を見て,題意を把握する。
  2) 各自,プリントの図に,AからGまでの最短の長さを記入する。

    
  
 プリントの図への記入では,意外に,AC−CGの長さを示す生徒がいるのに驚く。

3) 各自の考えの発表を通して,最短の長さについて話し合い,展開図を使って,AGを結んだ直線が最短であることに気づく。
 提示模型にひもをかけ,長さの違いに着目させる。また,展開図を作図し,その長さの違いに気づかせる。量的な違いは,3年生でもしっかり確かめさせたい。

4)

 立方体の展開図を作図し,三平方の定理を使って,AGの最短の長さを求める。
 三平方の定理の対象となる直角三角形や式,平方根の計算などを確かめさせる。

3.おわりに
 3年生の図形の計量では,これまでに計測できなかった長さを,三平方の定理や円,比などを用いて求めることができ,生徒のなかには感嘆を覚えるものも少なくない。できなかったことができる。新しい見方・考え方の発見がある。3年間を通して工夫した「直方体の箱」にも,そうした生徒の知的好奇心を刺激できる要素があると考えられる。
 私たちは,ともすると,この教材はこの学年で,この調べ方はここの場面でと,固定的にとらわれやすい。学年を超えてさまざまな授業のなかから,教師・生徒もともに,予想を超えて何かができる。何かが分かる。そうしたものを求められるようにしたい。

<参考文献>「数学学習における操作的活動」柿木衛護著:明治図書

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