統合する力を育てる課題学習
−連立方程式と小学校の教科書を利用して−
熊本市立楠中学校
高木 徹
1.数学の醍醐味「統合する力」
 数学の教師にとって,数学の各分野は,相互に関連し合っているという感覚は,常識です。さらに,「今まで別々のものとして学習してきたものが,実は,同じものだった」というような数学の場面に出会ったとき,感動すら覚えるものです。「今まで,別のものと思っていたことが,実は,同じものだった」ということを,見いだしたり,感じたりすることができる力が統合する力なのです。この統合する力こそ,私は数学の醍醐味のように思えるのですが,みなさんはどうでしょうか。
 しかし,生徒たちは,数学の各分野が相互に関連し合っているという意識をどれだけもっているのでしょうか。
 今回は,中学2年の連立方程式の学習が終了した後,1時間扱いで「統合する力を育てる授業」を計画してみました。連立方程式と一次方程式,そして,小学生の文章題とは,関連があることは,私たちには常識なのですが,生徒たちには,どうも違うようです。

2.授業の実際
 今日の授業はこれを使ってやります。
このとき,小学6年の算数教科書の裏を見せる。いきなり表紙を見せるなんていうもったいないことをしてはいけません。
 あっ,小学校の教科書だ。
 その通り,小学6年の算数の教科書です。
ここではじめて,表紙を見せるのです。
 なつかしいなぁ。
 実は,この小学6年の教科書,今,読んでみると,なかなか奥が深いんです。特にこのペ−ジにはすばらしい問題があるのです。
 では,○○君にこの問題を読んでもらいます。
教科書は当然,1冊しかないので代表の一人に読ませます。

教科書の名作
小学6年(啓林館)

 【問題】
 かず子さんは,1本40円と1本60円のえん筆をあわせて30本買って,1440円はらったそうです。
 40円と60円のえん筆を,それぞれ何本買ったのでしょう。
新版算数6年・下(啓林館)p.95より

模造紙にこの問題を書いておいて黒板にぺたんと貼り,生徒にノ−トに写させます。ノ−トに書き写すという作業は,問題の把握をはっきりさせるという意味で,意外に有効だと思います。
 さて,この問題,どこかで見たような……。みんなだったらどうやって解きますか。
 連立方程式です。
 そうですね。では,連立方程式をつくって解いてみましょう。
この時期,このレベルの問題は,ほとんどの生徒がすらすらと解けている。
 では,○○さん,解いてください。
一人の生徒を指名し,板書にて解答させます。
生徒はこのような解答をかくでしょう。

解答1

 正解です。しかし,この問題は,中学1年生の問題でもあるのです。連立方程式を使わずに一次方程式を使って解いてみましょう。
 一次方程式で……。
意外に多くの生徒は戸惑います。正解者を捜し出し,板書にて解答させます。

解答2

 正解です。
このとき,生徒たちは,「あー,なるほど」と,この式の意味を感じ取るようです。
 これで驚いてはいけません。この問題は小学校の教科書に載っていたのです。連立方程式や一次方程式を使わずに小学生はこの問題を解くのですよ。いったいどうやって解くのでしょう。
方程式に慣れてしまった生徒たちは,どうやって解いていいのか,大変困ります。その中で,表を使って解くという解法を思いつく生徒も出てきますが,表を使う解法は勧めません。そして,表を使わずに解く方法を思いつくように指示するのです。
私の実践では,表を使わずに解く方法を思いつくのは,クラスに2〜3名という程度でした。
解答ができた生徒を指名し,板書にて解答させる。

解答3

生徒たちは,この解き方の意味を説明すると,すごいと感動します。
小学生のときには,ただ難しいで終わっていたのが,中学生では,説明を通してほとんどの生徒が理解ができるのです。
この解答を黒板で,3つ並んだ状態で,見られるように板書することが大切なのです。
授業をここで終わっては,もったいないです。さらに,ひっぱります。
 解答1と解答2は,どんな関係にあるだろう。
生徒たちは,意外と一次方程式が,連立方程式を代入法で解いたときの途中の形というのに気づいていないものです。
 代入法で解く解き方です。
 なるほど,そうだったのか。
 2年生で学習した連立方程式と1年生で学習した一次方程式は,実は関係があったんですね。
 さらに,小学生の解き方はどうでしょうか。
1440−1200=240
  60−40=20
  240÷20=12
という計算が,連立方程式の途中の計算で表されていることに気づかせます。
 形式的にやっていた連立方程式の計算には,実は,こんな意味があったんですね。
 みんなは,この3つの解き方のうち,どの解き方が一番簡単だと思いますか。
 連立方程式です。
多数決をとってみると,ほとんどの生徒が連立方程式に手を挙げます。つまり,生徒たちは連立方程式の有用性を感じたのです。
 数学は,学年が上がるにつれて難しくなると考えている人が多いですが,でも,同じ問題でと考えてみると,数学の学習を進めていくと,より簡単に解けるようになるのです。

筆者と数学係の生徒

3.おわりに
 最初にも述べました通り,この授業をやってみて,「連立方程式と一次方程式,そして小学生の文章題には,関連がある」ことは,私たちには常識なのですが,生徒たちは,どうも違うようです。
 このような,単元と単元をつなぐ力(統合する力)を育てることも,課題学習の大きなねらいだと思います。

 ご意見・ご感想等がありましたら,下記のアドレスまでお願いします。
 メールアドレス t-home@mvf.biglobe.ne.jp

前へ 次へ

閉じる