ボードゲームで育つ「非認知能力」の正体

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目次

2026.05.13

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サイコロを振るだけじゃない?知られざるボードゲームの世界

「ボードゲーム」と聞くと、多くの方は「サイコロを振って、出た目の数だけ進む」という遊びをイメージされるかもしれません。もちろんそれも楽しいものですが、現代のボードゲームは世界的に見ると毎年数千ものタイトルが発売され、一歩進んだ奥深さを持っています。
ボードゲームの最大の特徴は、「ゲームごとに独自のルール(仕組み)があり、プレイの途中でテーブル上の状況が刻一刻と変化する」点にあります。たとえば、プレイヤー同士で資源を交換したり、相手の表情から心理を読み取ったり、数手先を予測して自分の戦略を立てたり…。ボードゲームの盤上は、いわば対立や協力が渦巻く「小さな社会」の縮図なのです。
こうした「正解が一つではない状況」で、自分の頭で考え、判断を繰り返し続ける体験。それこそが、これからの時代を生き抜くために必要な「非認知能力(心や人間性の力)」を豊かに育む最高の肥料となります。

失敗を「学びに変える」:試行錯誤する力のサイクル

ボードゲームを遊んでいると、子どもたちは常に「未知の課題」に直面します。 たとえば、『インカの黄金』という、遺跡でお宝を探すゲームがあります。毎ターン、子どもたちは「さらに奥へ進んでより多くのお宝を狙うか」か「今持っているお宝を手に引き返すか」という決断を迫られます。
初めて遊ぶ子どもは、つい欲張って遺跡の罠にかかり、お宝をすべて失ってしまうことがあります。しかし、二回目になると彼らの様子は劇的に変わります。

「いや待てよ。さっきは欲張って失敗したから、僕だけはここで引き返すことにする!」

このように、自分のアクションを省みて「どうすれば解決できるか」という仮説を立て、実際に試してみる。前回の記事でも述べた通り、ボードゲームは「安心・安全に失敗できる空間」です。だからこそ、子どもたちはリスクを恐れずに新しい作戦を試し、自らのプレイを柔軟に変えていく「試行錯誤」のサイクルを、楽しみながら自然と回し始めるのです。

「負けても大丈夫」が心をたくましくする:レジリエンスの芽生え

子どもとボードゲームをする際によく見られるのが、負けて悔しくて泣いてしまう子どもの姿です。 しかし、私はこれを「成長の大きなチャンス」と捉えています。
私の教室での出来事です。一生懸命頑張ったがうまくいかず、負けてしまった子どもがいました。こらえようとするも流れる涙。それとは裏腹に楽しそうな周りの声。「悔しいよな。頑張ってるもんな。でも負けても大丈夫。次は他の作戦を試してみよっか!」私から少しだけ声をかけました。
共感しつつ、次にプレイへ目を向ける声かけに、その子の表情が変わりました。

「……悔しい!でももう一回やる!」

この「困難に直面しても気持ちを切り替え、立ち直る力」を、心理学でレジリエンスと呼びます。 ボードゲームにおける敗北は、その子自身の否定ではありません。一度の失敗で終わらず、すぐに「次の一手」を考え直して再挑戦できる環境があるからこそ、子どもたちは失敗を引きずるのではなく、学びに変えていくしなやかなたくましさを育んでいけるのです。

他者と関わる力を育てる:協調・ルール・公平性という視点

ボードゲームは、一人で完結する活動ではありません。必ず他者と同じ場を共有し、同じルールのもとで遊ぶことになります。この「同じルールを共有する」という前提が、子どもたちにとって重要な学びになります。
ゲームの中では、子どもたちはたびたび、自分の思い通りにいかない場面に出会います。例えば、あと一手でうまくいきそうだったのに、順番の関係で相手に先を越されてしまうとき。あるいは、「こうしたい」と思っていても、ルールによって行動が制限されるとき。
こうした場面では、「こうしたい」という自分の欲求と、実際にできる行動とのズレが生まれ、もどかしさや葛藤が生じます。
しかしボードゲームでは、そのズレを力づくで解消することはできません。ルールを変えたり、自分だけ例外を認めたりしてしまえば、ゲームそのものが成立しなくなってしまうからです。だからこそ子どもたちは、

・順番を守る
・ルールに従って行動する
・相手の行動を受け入れる

といった振る舞いを通して、「どうすればこの場が成り立つのか」を体験的に理解していきます。
ここで育まれるのは、単なるルール順守の態度ではありません。
ルールとは自分を縛るものではなく、みんなで同じ場を成立させるための土台であるという感覚です。自分にとって都合のよい状況だけを求めるのではなく、全体としてのバランスを受け入れる視点が育っていくのです。日常生活においても、集団で生活する以上、ルールや他者との関係は避けて通れません。それらを「守らされるもの」としてではなく、「みんなで場をつくるためのもの」として捉えられるかどうかで、行動は大きく変わります。

ボードゲームは、その感覚を押し付けではなく、体験として学ぶことができる貴重な機会なのです。

おわりに:家庭は最高の「心を耕す遊び場」

ボードゲームを通じて育まれるこれらの力は、机に座って知識を覚えるだけでは得がたいものです。子どもが夢中になって「次はどうしようかな?」と独り言を漏らしたり、本気で悔しがったりしている瞬間、その心は耕され、豊かな知恵が芽生えています。
まずは、保護者の皆さんも一人のプレイヤーとして、子どもと一緒にその「試行錯誤」を楽しんでみてください。大人が本気で考え、一喜一憂する姿こそが、子どもにとって最高の思考モデルになります。
次回からは、こうした「非認知能力」を家庭でより効果的に育むための、具体的な5つのステップをご紹介します。

【著者】
上坊 信貴(うえぼう のぶき)
ボードゲーム教室「 すたらぼ」代表
一般社団法人日本ボードゲーム教育協会理事
佛教大学教育学部卒業後、ビジョントレーニングの教室運営を経て2019年に独立。
現在は京都を拠点に、小学生がボードゲームで学ぶ教室「すたらぼ」を運営するほか、立命館小学校、同志社小学校、光華小学校のアフタースクールにてプログラムを提供している。
小学校から大学まで延べ50校以上での登壇実績があり、教職員研修やPTA講演も多数実施。
Instagramでは「ぼー先生」としてボードゲームを通じた教育情報を発信し、フォロワー数は1万人を超える。
教室HP:https://www.start-labo.com/
Instagram:https://www.instagram.com/puppy_boo3/?hl=ja

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