3年
筆算の理解を深める授業の工夫              
〜3年 たし算とひき算の筆算の指導を通して〜                     
岡山県岡山市立石井小学校
圓井 大介
1.はじめに

 筆算というと,教師が,筆算のアルゴリズムの手続きを児童に教え込み,その練習をたくさんさせて,計算技能の習熟を図るという授業がよく見られる。これは,教師や児童が,計算が「できる」「できない」にこだわって一喜一憂するためで,形式的に筆算を行えることが,結局,計算ができ,筆算について理解したかのようになっているからである。

 特に,3年生の3位数の加法・減法の筆算の学習では,2年生で2位数の筆算を学習しているため,教え込んで反復練習という場合が多い。

 しかし,ここで大切なのは,筆算のアルゴリズムを学んでいく過程で,どのような数学的な考え方を育てていくかということである。筆算の仕方を既習事項をもとに自分たちの力で作り出すことや,自分の考えを相手に伝えることで筆算の意味や筆算のアルゴリズムの理解が深まる。そして,桁数が4位数,5位数と増えたり,数が拡張されたりしても,既習をもとに筆算の仕方を自分の力で作り出していける児童を育てていくことが必要なのである。

 ここでは,児童が3位数の筆算の仕方を作り出した後に,筆算の意味やアルゴリズムの理解を深める授業の1つとして「数あて」の実践事例を紹介したい。

2.単元の目標

たし算・ひき算の筆算のよさが分かり,進んで活用したり,たし算とひき算の相互関係に着目して,ひき算の答えの確かめにたし算を用いようとしたりする。
(関心・意欲・態度)

既習の2位数の計算をもとに,3位数のたし算・ひき算の計算の仕方を考えることができる。
(数学的な考え方)

3位数のたし算・ひき算を繰り上がりや繰り下がりに気をつけて,正しく筆算で計算することができる。
(表現・処理)

繰り上がりや繰り下がりの処理を通して,十進位取り記数法の理解を深めることができる。筆算の確かめや仕方を考える中で計算のきまりを見つけることができる。
(知識・理解)

3.単元計画

 第1次 1時目何百のたし算とひき算

 第2次 1・2時目たし算の筆算

 第3次 1〜3時目ひき算の筆算

 第4次 1時目        数あて(本時)

  2時目        まとめと評価

4.授業のポイント

 ここでは,筆算についての理解を深める一つとして,「数あて」をする。0〜9までの数字を順にあてはめていけば,答えは求められるが,ここでは,筆算の仕組みを手がかりにして答えを求めさせたい。単に,あてはまる数を見つけることに終わるのではなく,なぜ,そう考えるのかを,既習事項をもとにして説明していくことを中心とした話し合い活動をさせていきたい。そうする中で,児童は筆算の仕組みの理解が深まり,相手に自分の考えを伝える力をも育てていくことができる。

5.授業の実際

 T 問題です。

 T いつもと何が違いますか?

 C1   いつもは,答えが分からないけれど,今日は,筆算の所にがあって筆算が分かりません。

 C2 数がいくつか分かりません。

 T じゃあ,今日は,どんなめあてになりますか?

 C3 どんな筆算になるか考えようです。

 C4   の数を見つけようです。

 C5 にどんな数が入るか考えようです。

 T 今日のめあては,「にどんな数が入るか考えよう。」にしましょう。にどんな数が入るか分かった人は,どうやって考えたかもノートに書いて,みんなに説明できるようにしましょう。

 C6    ぼくは,+3=8になるのを,に1から順に入れて考えていきました。
するとは5のときに,5+3=8になるので,は5になります。

 C7 ぼくは,43+243=678だと分かっているので,678−243をしました。すると,435になったので,は5です。

 C8 わたしは,C7君と似ているんですが,1の位のところだけを計算しました。
+3=8が分かっているので,これは,「8は3といくつ」と言うことだから,ひき算をして,8−3=5で,は5と考えました。

 T なるほど,どの考えも,の数が何かを考えることができるね。じゃあ,これらの考えの中で,一番いい考えだなと思うのはどれかな?

 C9 ひき算で考えるのがいいと思います。ひき算だと1回で答えが出てきます。

 C10   ひき算でも,C8さんのやり方は,簡単な計算なのですぐに計算できるから,C8さんの考えがいいと思います。

 T じゃあ,これはできますか?



 C11   今度は,3+=7がわかっているので,ひき算をして,7−3=4,は4だと思います。

 C12 同じです。さっきと同じように考えて,7−3をして4でいいと思います。

 C13   私は,違います。は3だと思いました。なぜなら,筆算は1の位から計算していかないといけないので,1の位を計算すると,5+6=11で1繰り上がります。だから,4+=7だから,7−4=3だと思います。



 T 4はどこからでてきたのですか?

 C14 4は1の位を計算したら,繰り上がりが出たので,この1をたして,1+3=4の4です。

 C15   だから,ここの計算は,1+3+=7だから,は7−1−3=3になると思います。

 C 賛成。

 T が4だと思った人はどうですか?

 C16 聞いていて自分は繰り上がりの1をたすのを忘れていました。

 T 筆算は1の位から考えていかないといけないよね。あと,繰り上がりがあるときもあるから,気をつけないといけないね。

 T たし算ばかりをしたけれど,ひき算の場合でもできそうですか?

 C できます。

 T じゃあ,ひき算も考えてみましょう。



 C17   先生,答えを間違えてるよ?ひき算なのに,たし算をしているところがあるよ?

 C18 先生は,まちがえてないよ。筆算は何を気をつけるのか思い出せばできるよ。

 T では,やってみましょう。

 C19   ぼくは,−3=5なので,は5+3=8だと思いました。

 C20 私も,8だと思いました。まず,4−5はできないので,繰り下がりを考えて,百の位の3から,繰り下がることを考えました。でも,百の位のところは,3−1=2で計算は合っているので,百の位では繰り下がりはしていないと思ったので,のところで繰り下がりをしているので,5+3=8で8です。

 C21   C20さんと途中までは同じですが,少し違って,同じように繰り下がりを考えると,十の位で繰り下がりをしているので,繰り下がりの1をたして,5+3+1=9だから,は9だと思います。



 C22 繰り下がりの1を忘れていたなあ。

 C23   ひき算は繰り下がりがあるときもあるから,注意しないといけないな。

 このようにして,話し合いの活動を通して,筆算について振り返ることができた。

6.終わりに

 計算の仕方を作り出す力や自分の考えを相手に伝えていく力は,1つの授業や1つの単元だけで育つものではないが,自分の考えを論理的に順序立てて説明していくのは,まだまだ,未熟であるというのを感じた。「できる」「できない」にこだわるのではなく,いろいろな場面で,既習事項をもとにして,考えていこうとする態度や自分の考えを相手に伝える力を育てていきたい。

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