6年
OHPシートを利用した「酸・アルカリ判別シート」    
−自分だけの判別シートを作って,水よう液の仲間分けをしよう−        
兵庫県A小学校

1.はじめに

 水溶液はリトマス紙の色の変わり方で,酸性・中性・アルカリ性の3つの仲間に分けられる。リトマス紙には,リトマスゴケという植物のしるがしみこませてあるのだが,これ以外にも,酸・アルカリに対して色が変化する天然色素はたくさんある。例えば,ムラサキキャベツやブドウの皮がよく知られている。

 水溶液の仲間分けをするときに,自分が用意した色素で仲間分けできれば,子どもたちは興味・関心を持って学習を進めるだろうと考えた。これまで,子どもたちが用意した色素はろ紙に染み込ませて「オリジナル試験紙」にすることが一般的であった。しかし,色素をろ紙に染み込ませてから少しの時間乾かす必要があることや,乾かしたろ紙も連続使用できないことが難点であった。そこで今回,市販のカラーインクジェット用OHPシートを利用してその欠点を克服し,自分だけの「酸・アルカリ判定シート」を作成して水溶液の仲間分けを行った。

2.単元指導計画

単元導入(2時間) 水よう液の性質
 いろいろな水溶液のはたらきや性質を調べてみよう。
第1次(4時間) 金属を変化させる水よう液
 塩酸のほかにも,金属を変化させる水溶液はあるのだろうか。
○実験1 水よう液と金属
第2次(2時間) 水よう液の仲間分け
 水溶液は,どんな仲間に分けられるだろうか。
○実験2 リトマス紙の色の変化
○実験3 天然色素を使った試験紙作り(本実践 発展的な学習)
第3次(2時間) 気体がとけている水よう液
 あとに何も残らない水溶液には,何が溶けているのだろうか。
○実験4 炭酸水に溶けているもの

3.酸・アルカリ判定に適している天然色素

 色がついている植物が全て酸・アルカリ判定シートになるかといえばそうではない。では,どんなものがシートに適しているのだろうか。2001年度氷上郡小学校理科研究部会で倉橋教諭が身の回りの天然色素について,子どもたちと研究した結果,右図のような結果を得た。これを今回,一覧表に整理し直した。


※注 中性で「変化なし」とあるのは,素材そのものの色であることを示す。変域の「○」は酸性,アルカリ性の両域で変化を示すものを表す。「酸」は酸性側のみ,「ア」はアルカリ性側のみ変化があることを示す。

 この一覧表より,「紫色」ないし「赤色」の植物が酸・アルカリの指示薬に適していることがわかる。また,酸性側の色の変化では「赤色」,アルカリ性側では「黄色」を示す植物が多い。この表を参考にしながら,子どもたちは,指示薬にしたい植物を選んだ。

4.OHPシート選び

 カラーインクジェット用OHPシートは,透明なフィルムの上に,インクが固定できる特殊コーティングがしてある。シートに色素を1度固定させると,酸・アルカリ判別シートとして機能することがわかった。しかも,1枚のシートは何度も使用可能である。兵庫教育大学の小和田助教授によると,数あるOHPシートの中でK社のものが最も適していることがわかった。

5.実験の方法

  (1) 色素の抽出

 ムラサキキャベツやブドウの皮などはナイフで細かく切って,ビーカーに入れ,少量の水を加えてアルコールランプで熱する。煮詰めた液をろ過すると色素が抽出できる。花の色素など熱に弱いものは,乳鉢と乳棒で花をすりつぶし,ガーゼなどで絞って抽出する。ゆかり(しそふりかけ)は水に溶かして,ろ過をする。きれいな薄赤色の抽出液を得ることができる。100%果汁ブドウジュースはそのまま使用できて便利である。

  (2) OHPフィルムに色素を固定

 次に,1cm×3cmほどの大きさにあらかじめ切っておいたOHPフィルムをピンセットでつまみ,ビーカーに入れた色素につける。OHPフィルムについた液はよく振り落として,空気中でよく振ると1分ほどで乾燥する。これで判別シートは完成である。

  (3) 身近な水溶液で色の変化を確認

 塩酸と水酸化ナトリウム水溶液を用い,ゆかりの抽出液を固定した判別シートがどのような変化をするのか確認した。

1.ゆかりの抽出液にシートをつける。シートはわずかに薄赤になる。2.塩酸につけるとシートは鮮やかな赤色に変化した。
3.水酸化ナトリウム水溶液につけると黄色に変化した。4.左から酸性・中性・アルカリ性におけるゆかりの抽出液の変化である。

  (4) 判別シートを使った水溶液の仲間分け

 次に,作成した判別シートについて身近な水溶液の仲間分けを行った。下の表は,100%ブドウジュースで実験を行った結果である。

塩酸 炭酸水 食塩水 石鹸水 石灰水 アンモ
ニア水
水酸化
ナトリ
ウム
水溶液
薄赤 薄赤 薄赤 黄緑
酸性    ←     中性     →    アルカリ性

6.まとめ

 ○成果

  ・ろ紙をベースにした場合と比べてOHPフィルムを用いた判別シートではわずかな色の変化も確認しやすかった。

  ・OHP判別シートは1枚作成しておくと何回も利用可能なので,様々な水溶液を手軽に調べることができた。

  ・天然色素を利用して,自分だけの「酸・アルカリ判別シート」を作成することができた。

  ・子どもたちは天然色素に興味を持ち,他にも酸・アルカリ判定に使えそうな植物を進んで探すことができた。

  ・子どもはシートを活用して身近な水溶液の性質を進んで調べようという意欲を持つことができた。

 ○課題

  ・使用するOHPシートの種類によってはうまく色がでないものがある。

7.参考にしたもの

 ・理科6年上 指導書 第二部 詳説 啓林館

 ・「水よう液の性質」 氷上郡小学校理科研究部会 倉橋祐史

 ・「インクジェットプリンター用OHPシートを用いたpH指示膜の作製」
兵庫教育大学 池田真理子・小和田善之・永谷広久・尾関徹, 日本化学会第83春季年会 講演予稿集I, p.36, 3B2-44

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