コンピュータのシミュレーション的利用
−「天体シミュレーション」ソフトの活用−
広島県御調郡御調町立御調中学校
本田 義信
1.はじめに
 現行学習指導要領(1989年改訂)では,21世紀に向けての臨時教育審議会による「情報活用能力の育成」の提言を受け,コンピュータ教育が,前期中等教育段階で数学,理科,技術・家庭に盛り込まれた。特に理科では,「観察,実験の過程での情報の検索,実験データの処理,実験の計測などにおいて,必要に応じ,コンピュータ等を効果的に活用するよう配慮する」ことが示されている。
 また,学習指導におけるコンピュータ等の活用の目的は,最近では,主体的な学習活動の道具としてであることが多くなりつつある。この中でシミュレーション(模擬実験)機能を活用した学習活動は,天体の運動,落下運動,地震,食物連鎖等のシミュレーションから,事象の因果関係を量的に考察する学習活動を通して,問題解決学習の充実,課題研究への発展を図るのに有効である。
 そこで今回は,2分野「地球の運動」及び「太陽系」という単元において『マルチビュー 天体シミュレーション』ソフトを活用した授業実践に取り組んだ。

2.ソフトの特徴と授業実践の内容
 このソフトは,啓林館から発売されており,主に次のような特徴がある。
 1) 天体の動きについて正確なシミュレーションを行っており,任意の場所,任意の時刻の地上からの空のようすがシミュレートされる。
 2) 地上からの空のようすに対応して,その時点の地球,太陽,惑星などの位置関係を別のウィンドウに同時表示できる。
 3) 特定の天体にマークをつけて動きをトレースしたり,注目させたりできる。
 また,本校には,コンピュータ教室にFMTOWNSモデルS2が教師用を含めて21台常設されている。このコンピュータ教室を使って,2年3組35名を対象に授業実践を行った。この授業では,生徒約2人で1台のコンピュータを使用することができた。授業実践でのシミュレーションの内容は次の通りである。
 [シミュレーション1]:太陽の1日の動きを調べる。
 [シミュレーション2]:星座の星の1日の動きを調べる。
 [シミュレーション3]:毎日,同時刻に観測したときの星座の動きの規則性を調べる。また,太陽・地球・星座の位置関係を調べ,星座の1年の動きを,地球の公転をもとにして考える。
 [シミュレーション4]:太陽・地球・星座の位置関係を調べ,地球の公転によって,太陽はどのような見かけの動きをするのかを調べる。
 [シミュレーション5]:金星の動きや見え方を調べる。
 [シミュレーション6]:火星の動きや見え方を調べる。

<ワークシートの例>
[シミュレーション5]:金星の動きとその見え方
<目的>金星の動きや見え方を,パソコンのシミュレーションを使って調べる。
<準備>マルチビュー 天体シミュレーション
<方法>
1) ソフトを起動して「地上の空」フレームを表示し,[日時・観測地]のメニューで観測地を確認する。
2) [日時・観測地]のメニューの「日時の変更」で,1988年1月13日午後4時に設定し,西の空を表示する。
3) [表示]メニューで表示する天体にチェックを入れ,「金星」だけを表示する。
4) 30分間隔で運行させ,太陽に続いて沈む金星の動きを調べる。
5) 右上のウィンドウアイコンをクリックし,右ウィンドウに金星の拡大を表示させ,地球から見える金星の大きさ,形の変化を確かめる。
6) 1988年4月14日,5月26日のそれぞれの日没前後の動きも同様に調べる。
7) フレームを「地球と金星」に換え(または,左ウィンドウに太陽・地球・金星フレームを表示させ),それぞれの日時で,太陽と金星・地球の公転軌道上の位置関係と地球から見える金星の大きさ,形の関係を確かめる。

金星の見える大きさ・形


地球と金星の位置関係

<まとめ>
(1) 金星が「よいの明星」として見えるのは,どこにあるときか。
(2) 金星が三日月形に見えるのは,どこにあるときか。
(3) 地球に近づくにつれて,金星の見かけの大きさはどのように変化するか。
(4) 地球から,金星を真夜中に観測することができるか。

3.生徒の反応
 授業における生徒の反応を把握するために,SD方式(セマンティック・ディファレンシャル法)によるアンケート調査を行った。授業の直後に生徒の気持ちを,10項目の形容詞について,大変(よい)・やや(よい)・中立・やや(悪い)・大変(悪い)の5段階に分け,回答させるものである。この結果を集計したグラフは以下の通りである。

 「興味・関心が持てたか」については,「おもしろい」と感じた生徒が全体の2/3近く,「楽しい」と感じた生徒が全体の半数以上いた。また,「活動的であったか」については,「大変活動的・やや活動的」と回答した生徒が全体の半数いた。
 興味・関心を持ちながら,コンピュータを使って活動的に学習できたことがうかがえる。
 内容の難易度については,「難しい」と感じた生徒はほとんどいなかった。また,内容の理解度についても,「大変わかりやすい・ややわかりやすい」と感じた生徒が全体の2/3近くいた。パソコンのシミュレーションを使うことによって,天体の動きがよく理解できたことがうかがえる。
 全体的に「大変よい〜中立」までが全体の8割以上を占めており,このソフトを活用した授業実践が有効であったことがうかがえた。

4.おわりに
 今回の授業実践では,ソフトの操作説明に多くの時間を費やし,生徒自らソフトを動かし,自主的に学習する時間が十分に取れなかった。この点が今回の反省点である。また,本授業のように,探究的な学習として観察・実験を補うのであれば,コンピュータ教室という特別教室だけでなく,理科教室や普通教室などでも利用できるノート型コンピュータを導入することも必要である。特に,実際の観測が難しい天文分野では,コンピュータを使う環境を整えていくことは重要なことであると思う。

 主要参考文献
定村武士編集:NEW教育とマイコン 1989年5月号,学習研究社
文部省:情報教育に関する手引き 1990
中野敬一:中学校理科 マルチビュー天体 シミュレーションガイド 啓林館,1997

前へ 次へ

閉じる