効果的なイメージ化を図る理科学習〜電流モデルを取り入れた授業を通して〜
宮崎県南那珂郡南郷町立榎原中学校
外山 宗治
1.はじめに
 授業を進めていくなかで,生徒は電流の単元がどうも苦手だなという印象を常々受けていた。苦手意識を持っている生徒も多いように感じていた。電流の授業を進めていくと,習ったばかりのときは,テストなどでも数式を当てはめて答えを出すことができるようになるが,生徒の頭の中には「電流」のイメージが形成されていないようである。これは,生徒の知識・理解の面だけの深まりであり,科学的な見方・考え方の形成や,電流に対する興味・関心の高まりにはつながらないであろうし,苦手意識を持たせる要因の一つにも成り得ると考えた。
 電流は既知の通り電子の流れであり,直接目で見て捉えることができない現象である。ここで必要なのは電流のイメージ化であると思われる。「百聞は一見に如かず」というように,適切な『モデル』や『シミュレーション』を効果的に用いた観察や実験を通してイメージ化を図れば,生徒は目に見えない電流への興味関心を抱き,その中から法則や原理を見出したり,理解を深めたり,新しい考え方にも到達できるのではないだろうか。そのように考え,イメージ化を図るための研究を進めていくことにした。

2.モデルの開発
 イメージ化を図るための教材として,手軽に用意できるという点で,シミュレーションではなくモデルを使うことにした。そのモデルは教科書に掲載されているゲントナーの水流モデルを改良したものである。

作成した水流モデル
(演示用) (生徒実験用)

ゲントナーの水流モデル

 モデルを作成するにあたって注意したことは,生徒にとって扱いやすいモデルであること,そして手軽に準備できるものであることということを念頭に置き,作成した。

3.授業の実際
 最初の授業では,オームの法則の学習前にモデルを用いて授業を行ったが,各班ごとの条件がバラバラだったために,正しい値を出すことができなかった。
 そこで,オームの法則の学習後,検証実験として行うことにした。前回の授業で条件がバラバラだったために望んだ結果が出なかったので,今回は実験の条件整備を行った。
  ○ペットボトルの口につないだビニル管をまっすぐ伸ばす。
  ○机上面を基準にして(机上面の高さを0として)逆さにしたペットボトルの口までの高さを測定する。
  ○ペットボトルに入れる水の量を300mlに統一する。

実験の準備をしているところ

 以上3点の条件を整え,次のように測定対象を変えて2回実験を行った。

  実験(1):ペットボトル内の水が全部流出するまでの時間を測定する。
  実験(2):10秒間に流出する水量を測定する。

実験のようす

高さを測っているところ



4.生徒の反応
 生徒は意欲的に実験を行っていた。同じ実験道具を用い,条件を変えて2回実験を行ったことにより,同じ道具でもぜんぜん違う意識で実験できたようだ。また基本的に生徒は実験が好きで,実験結果から得た結果は,しっかりと頭の中に残っているようだ。生徒の実験後の感想をいくつか挙げておく。
  ○実際に実験してみると,とてもわかりやすかったです。図は動かないからどう動くのか分からなかったけど,実際にやってみると,動きが分かるので良かったです。
  ○自分で考えて納得できるので,いつもよりもわかりやすかった。

5.実験結果
 条件を整備した分,実験結果が明確に出た。ただ,0pでの値が出たことに関しては,ペットボトル内の水面の高さを考慮していなかった分,結果として表れた。

[実験(1)]
水量300ml
水が全部流出するまでの時間を測定
       [実験(2)]
水量300ml
10秒間の流出水量を測定
ペットボトルの高さ水が全部流出する
までの時間
60p
50p
40p
30p
20p
10p
0p
19"73
22"35
24"48
28"61
34"39
45"61
72"24
ペットボトルの高さ10秒間の水量
60p
50p
40p
30p
20p
10p
0p
148ml
133ml
121ml
108ml
88ml
69ml
48ml


実験結果の発表

実験結果のグラフ

 グラフにも現れたように,誤差はあるものの,きれいな比例のグラフになった。このことからオームの法則の検証実験としてはうまくいったのではないかと考えられる。今後はこのモデルから発展して,管の長さや太さを変えて実験をすれば,抵抗の学習へとつなげていくことができるのではないかと考える。

6.まとめ
 [成果]
      今回の研究の成果としては,使用時期を考えることにより,同じモデルでも違う実験に使え,生徒に考えさせることができた。
 また,生徒自身が自由に扱えるモデルを用いることで,生徒同士で意見を出し合ったり,様々な工夫を重ねて,自主的に実験に取り組もうとする態度が見られたことも成果として挙げられる。
 [課題]
      課題としてあげられるのが,モデルの使用時期である。モデルの意味を考え,どのような目的で,どの段階で使えばより効果的なのかを教師がしっかり把握してから実験を進めることによって,モデルを使うことが効果をあげることになるが,そうでなければモデルを使う意味がなくなってしまう。
 またモデルはあくまでもモデルであり,特にこの水流モデルを使った実験が,水流と水圧の実験となってしまわないように,細心の注意を払う必要がある。

7.おわりに
 昨今は,コンピューター技術の発達により,学校現場にもコンピューターがたくさん導入されている。また理科の実験においてもセンサーを使った実験などコンピューターに関わるものが増えてきたように感じる。しかし,原点に立ち返り,実際に手にとって観察実験ができるような教材としてモデルを使った授業を展開してみた。この実験に関しては,たくさんの先生方に手伝ってもらいながら実施することができた。このようにして教師が実験を工夫することにより,生徒は興味深く取り組むことができるし,今,言われている理科離れを減らしていくこともできると考える。生徒は緊張しながらも一生懸命実験に取り組んでいたことも良かったと思ったことである。今後とも,生徒が興味関心を深め,自ら何かを解決しようと思えるような実験を考えていきたいと思う。

<引用> 平成13年度用啓林館教科書理科1分野下

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