特色ある理科指導の工夫 〜異教科T・Tの導入〜
熊本市立出水南中学校
西田 範行

1.指導のねらい
 ここに紹介する3つのプランは,理科に関する題材について,「創造性の育成」をねらいとして,他教科の教師とT・Tを組んで指導した実践である。生徒の多様な追究のしかたを保証するとともに,多様な見方・考え方を支援していけるメリットがある。
 内容についても,互いの教科で“単教科以上”の効果を上げることをねらいとしている。
 筆者はプラン1とプラン2を必修教科の時間で行ったが,新教育課程における時数その他を考慮すると,これからは「選択教科」での実施が適当ではないかと考えている。

2.授業の実際
 
プラン1 1年 題材「オリジナル楽器でコンサートを楽しもう」(音楽科とのT・T)
(1) プランの概要
 あるイメージ(今回の実践では「私たちの夏」)を描きながら音楽作りを行い,そのイメージに合う楽器を製作し,表現することを通して,より豊かな表現力を培う。
(2) プラン設定の理由
 音楽科では「創作」という表現活動に取り組んできたが,豊かな感性を育てるための創造的自己表現活動の場の設定が少なかった。本プランの場合,音を創り出す喜びやオリジナル楽器で音を生み出していく楽しさ,さらに,パソコンを使う楽しさなど,音楽科だけではできない体験を通して,豊かな創造性を育てることができる。
 理科では,音の大小,高低を振動数と振幅の関係でとらえるなど,音を科学的にとらえて楽器作りを行ってきた。しかし,楽器作りが科学工作の域を出ることはなく,それが実際に楽器として活用される場を与えることはなかった。本プランは,オリジナル楽器が理科室から飛び出し,音の科学を駆使した「生きた学習」の場として位置づけられた取り組みである。
(3) 指導計画(10時間扱い)
音楽科(T1理科(T2
1) 各班で,「私たちの夏」に合った表現内容を考える。
2) 図形楽譜のかき方を習得する。
3) 各班で「私たちの夏」をイメージしたテーマを作り,図形楽譜に表す。

空き缶笛

アルミ・チューブベル
1) モノコードの実験・音叉の共鳴実験
2) 固有振動数・音の波形・周波数
 パソコンで自作の弦楽器の周波数を測定(調律)
 オリジナル楽器作り

木 琴
 オリジナル楽器を使って,イメージに合った表現を工夫しながら練習する。

オリジナル楽器でのコンサート風景
 リハーサルを行い,改善点などを工夫しながら仕上げをする。
 コンサートを行う。
 
プラン2 2年 題材「夢化学探検」(国語科とのT・T)
(1)
1) アルコールロケット
2) 黒い10円玉をピカピカに
3) 酸化銀から銀を取り出す。
4) 二酸化炭素中でMgを燃やす。
5) カルメ焼き
6) 酸素中での美しい燃え方
7) 銅と硫黄の化合
 プランの概要
 身の回りの化学変化(右の7つの実験から選択)の仕組みを楽しみながら探り,発表会,実験レポート作りを通して,論理的にわかりやすく相手に説明する表現力を培う。
(2) プラン設定の理由
 理科では,単元により生徒の個性を引き出し,一人ひとりの興味・関心に応じた学習ができるよう課題選択学習を導入し,発表もしてきた。
 しかし,従来の形態では,それぞれの学習内容が十分に共有できず,他の者が行った内容に関する興味・関心が満たされないままでいた。理科と国語科が横断的な指導を行うことにより,ポスターセッションや実験レポート,説明的文章を書くことを通して,科学的思考を深めると同時に,キャッチコピーの作り方,論理的な文章構成のしかたなどの表現技能を学び,より創造的な表現活動にしていくことができる。また,相手に理解させ,合意を形成する過程において,化学変化についての思考や理解をより深くすることができるプランである。
(3) 指導計画(10時間扱い)
理科(T1国語科(T2
1) 課題選択
2) 実験方法の確認
3) 準備物の確認
4) 実験・再実験
5) 結果,考察

ポスターの作製
 
 
 
 
 
1) 班内の役割分担をして,ポスターセッションの準備
2) ポスターを書く。
3) キャッチコピーの決定
4) 発表作戦メモの作成
 ポスターセッション

実験の演示(CO2の中でMgを燃やす)

お互いにわかりやすく説明
 ポスターセッションの反省と,シナリオや資料を利用してレポート作成
 今回の実験を題材にして説明文を書く。
 
プラン1 3年 題材「エコマーク商品でバザール」(家庭科とのT・T)
(1) プランの概要
 1)木・紙コース,2)びん・缶コース,3)プラスチック・ペットボトルコースに分かれて,それぞれのコースで「実態調査」,「商品の開発」,「商品のバザー」を行う。
 特に,バザーでは作り方だけでなく,自然の生態系,エネルギー環境まで考えて,それがなぜ地球にやさしいのかを科学的に説得力のあるPRをしながら売り込む。
 家庭科と理科が手を組むことで,科学的根拠に基づいた環境保全への実践的行動力を身につけることができる。
(2) プラン設定の理由
 ごみの増加の原因は,家庭から出る排出量の増大によるところが大きい。本プランにおいて,家庭科では,その中でも容器包装に視点を当てた。容器包装リサイクル法が出されているが,消費者が分別排出し,分別収集に協力することが前提となる。
 容器のリサイクルのしくみを調査するとともに,環境に配慮した消費生活について気づかせようと考えた。また従来,環境問題は中学校理科の総まとめの位置づけとして学習してきたが,ともすると表面的な知識・理解だけの学習に終わってしまいがちだった。特に,「生活に活かす」という視点では,ほとんど実践化に至っておらず,「地球にやさしい商品」を「実際」に作るという有意義な経験ができる。
(3) 指導計画(14時間扱い)
理科(T1家庭科(T2
ガイダンス(コースオリエンテーション)
班分け 1)木・紙コース,2)びん・缶コース,3)プラスチック・ペットボトルコース
個人課題決定

牛乳パック小物入れ
ごみの現状,ごみの自然に及ぼす影響,リサイクルの実態調査(インターネット利用・調査内容メモ用紙の記入)
エコマーク商品の開発
(エコ商品企画書の作成)

アルミ缶のボールランプ
エコマーク商品の製作
エコマーク商品バザー準備
(発表原稿作成,商品PRチラシ作成,リハーサル)
エコマーク商品のバザー(ポスターセッション形式・買い物カード記入)

学習のまとめ

3.成果と課題
 正直なところ,この取り組みで一番変わったのは教師の意識であると思う。それまで,一人で組み立てていた授業に他教科の教師からの視点が加わることで,教師の視野が著しく広がったことを実感している。特に,総合的な学習との関係を考えたとき,国語科とのT・Tは意義が大きく,単教科で行ってきたプレゼンテーションの欠点(例えば一方通行の発表会など)を思い知らされる機会となる。生徒も多様な追究を保証され,感想などからは,とても充実した結果がうかがえた。
 課題としては,(総合的な学習でもT・Tを組めば同じことだが)教師どうしがプランの作成や,明日の授業の打ち合わせをする時間の生み出し方がある。創造的な取り組みだけにそこだけは避けて通れない問題である。

<参考文献>
 熊本大学教育学部附属中学校 中学「総合的学習」プラン集 明治図書
 熊本大学教育学部附属中学校 研究紀要第42集
 全中理 新しい理科の指導資料第26集

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