三平方の定理の活用
―「5個のボールがきちんと入る箱をつくってみよう」―
和歌山大学教育学部附属中学校
1.題材について
 図形の計量は,具体的に数値計算するなど,生徒にはなじみやすい単元です。証明の記述が苦手な生徒でも,図形への興味・関心をもたせることができる題材といえます。ここで扱う三平方の定理も,図形を計量する上でとても明解かつ便利な定理なので,そのよさがただ問題を解くためだけの味気ないものにならないようにと考えました。また,今回の学習指導要領の改訂において,生きてはたらく力を育成するためには,体験的活動の重視があげられています。この定理も身近なものに活用でき,体験的にその有用性を実感できる学習展開ができないかと思いました。
 いくつかの同じ球を箱に入れることを考えたとき,その計量は,円と接線についてや正三角形などの問題に帰着できます。そこで,三平方の定理を使わなければ設計できない箱づくりを発想しました。しかし,入れ方(1列に並べて入れるなど)や入れる個数によっては三平方の定理を使わなくても済むので,箱の作成条件(入れるボールの個数,形)の設定をきちんとしなければなりません。ボールの個数については,多様な入れ方が考えられ,あまり計量が難しくならないように,5個入りがよいだろうとすぐ結論づけました。形については,よい箱のデザイン(形)を考えることで,1列に入れるような単純な形は除くことにしました。
 また,ボールの大きさは,実際,計量をし,箱をつくるとなると,計算しやすく,また,誤差に影響されるので,ある程度の大きさで,直径がきちんとしたものの方がよいといえます。そこで,直径6pのものを探しました(参考:学研で購入,1個50円程度)。学習計画としては,いきなり5個入りのボールを作成するのは難しいような気がしたので,まず,前時において右図の3個入りの箱をつくるようにしました。

2.学習計画(2時間)
 ○3個入りの箱………1
 ○5個入りの箱………1(本時)

3.本時の目標
 ○自己の課題を三平方の定理を活用して解決しようとする。
 ○空間や平面図形の中に直角三角形を適切に考え,三平方の定理が使える。
 ○三平方の定理による課題解決で,図形の計量に対する興味・関心を高める。

4.本時の展開
学 習 活 動教 師 の 支 援
○前時の復習をする。
 ・3個のボールを下の図のような入れ方をしたときの辺の長さの求め方を思い出す。

前時の箱を提示する。
長さの求め方を復習し,確認する。
○次の問題を考える。
 あなたはデザイン企画室の新入社員です。今度5個の球形の商品を箱に入れて売り出すことになりました。商品をどのように箱に入れるとよいかを考え,その理由とともに社長に報告しなければなりません。どんな箱に入れて売るかを考えてください。
 箱の条件は『商品(ボール)は箱にきちんと入れる。(ごそごそ中で動かない)』です。

 ・入れ方がわかる図をかく。
上から見た図,正面から見た図

 ・箱の形について,コメントをつける。


班座席にし,相談してもよいこととする。
手にとって考えられるように班に5個ずつ直径6pのボールを用意する。
問題把握の確認
次の2点をしっかり押さえる。
(1) 自分ならどんな形の箱に入れて売りたいかで考えること
(2) 箱の条件を守ること


ワークシートを用意する。
作図の方法について個別指導する。






コメントはデザイン的なものでもよくコンパクトに入るなど計量的な表現だけにこだわらないように配慮する。
辺の長さを計算,だいたいの展開図をかく。
 ・立面図,平面図に,まず辺の長さを記入する。
 ・の値は近似値で計算する。
1:2:3の比を利用するなど助言する。
計量について個別指導を行う。
フタは省略するようにする。
考えた箱を実際につくってみる。
 ・方眼画用紙に展開図をかく。
 ・箱を組み立て,実際に,5個のボールが入るか確かめる。
方眼画用紙,セロハンテープを用意する。
誤差が出ることを知らせる。
自分が考えた箱を発表する。
 ・計量の仕方について。
 ・なぜこの箱にしたか。
 ・意見を交流する。
発表時のプレゼンに注意する。
社長への報告という形で行う。
多様な意見が出るように配慮する。
わかったことや感想をまとめる。
三平方の定理に注目する。

5.生徒がつくった箱の例

6.授業後の感想
おもしろかった。楽しかった。
 ・VERY×2おもしろかった。またやりたい。
 ・昨日は先生に教えてもらってやったけど,今日は,はじめから自分でやったのが楽しかった。
 ・昨日の箱にちょっと付け足しただけだったので,うまくつくれて,おもしろかった。
 ・班の中でもいろんな種類のものがあった。いろんな入れ方があることがおもしろかった。

三平方の定理のよさがわかった。
 ・三平方の定理はいろいろなことに役立っていることがわかった。
 ・いくつのボールを入れる場合でも,三平方の定理が有効であることがわかった。三平方の定理を知っておくと何でもつくれてしまう。楽しい。
 ・三平方の定理を使えば,いろんな大きさの箱でもできるんだなぁと思った。

難しい
 ・長さの求め方が難しい。
 ・1mmでも違うとうまくいかない。
 ・内容は理解できたけれど,つくってみると,どうしても僕のは1個増量になってしまう。

 ・3つだと数種類しか形がないのに,5個だといろんな入れ方があるんだなぁと思った。他の入れ方もつくってみたい
 ・他の人と同じアイデアだったので残念だった。

3個入れをつくったので
 ・5個入れの場合でも同じような考え方で解決できた。
 ・今回はうまくできた。昨日の応用だったので,長さも出しやすかった。
 ・縦の長さを求めるのが難しかったけれど,前の授業で求め方がわかったから,簡単にできた。

7.考察
 <成果>
 ○箱づくりという体験的活動は,関心・意欲に応えることができ,主体的な態度の育成につながった。
 ○実際に目の前で,自作の箱にぴったりボールを入れることで,生徒が三平方の定理の利便さを体感できた。「きちんと入る箱ができて,すごいなぁと思った」等の授業感想が多くあった。
 ○前時で段階を踏んで3個入りの箱を全員で作成したことは,計量の練習になり,5個入り製作の意欲づけにとても役だった。3個入りの箱はどの生徒も完成し,十分に満足感が得られる学習活動になった。
 ○「昨日は先生に教えてもらってやったけど,今日は,はじめから自分でやったのが楽しかった」というように,与えられた課題でなく,生徒自身が自らの課題を考え,それを追究することは大切なことであった。
 ○箱づくりは楽しくでき,体験的な教材としてとてもよかった。どの生徒も生き生きと,また,真剣に取り組めた。
 ○5個入りの箱は適度の多様性があり,生徒の発想を引き出すにはよかった。段重ねもでき平面図形から空間図形へつながる教材としておもしろかった。
 ○企画デザイン室の新入社員というロールプレイング的設定は生活感を出すのによかった。

 <課題>
 ○5個入りの箱の計量はかなり難しく,できた箱を発表し合うところまでいけなかった。全員が箱づくりするだけでも1時間の授業ではかなり苦しい。3時間の学習計画が必要かもしれないが,時間確保が課題になる。
 ○最初は2段積みを考えていたが,1段に変更するなど,途中で箱の計量が難しいことに気づき変更した生徒がいた。途中であきらめないで,課題追究をしっかりさせるには最初にどんな箱をつくるかを発表し,課題決定をきっちり行ってから製作活動に入る方がよかった。また,個人追究では困難な場面もあるので,プロジェクトチーム(班)で取り組んでもよかった。


 <作業中の生徒>

<ワークシートの例>

(前時)
<本時>

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