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授業実践記録(生物)

探究活動につなげるための授業 ( 実験 ) の工夫

兵庫県立三田祥雲館高等学校 景山 嘉祐

Ⅰ はじめに

兵庫県立三田祥雲館高等学校は開校13年目の単位制普通科の高等学校であり,当初から探究活動を行ってきた。探究活動の内容は少しずつ変化しているが,生徒自身が課題を見つけ,それを解決するために探究し,その成果を論文としてまとめるという大筋は変わらずに現在に至っている。しかしその一方で探究活動の時間を確保するために教科の授業時間は余裕のないものになっており,受験に向けて効率よく教えることを目指してきた。そのため,理科系の探究活動と教科(理科)の授業で同じ理科を扱っているにもかかわらず,相乗効果が十分に得られていないように感じていた。そこで,本格的な探究活動が始まる前の1年次を対象として,探究活動と教科を接続するために,生徒が主体的に学習するように指導することと,教科の授業に探究的要素を取り入れることにした。

Ⅱ 授業でおこなう実験の工夫について

酵素活性に関する実験を例に紹介する。この実験の目的は,実験を通して酵素活性を理解させることではなく,実験計画の立て方,実験の進め方,観察の仕方,レポートへのまとめ方を身につけさせることとした。
指導の流れは次の通りである。

  1. 酵素について授業を行った。
  2. 実験計画を立てる課題を課した。
    実験の目的は,カタラーゼの最適温度・最適pHに近い条件と酵素が繰り返し働くことを調べることとした。
  3. 課題の添削を行った。
    教科書や資料集を参考に,自分で考えて実験計画を立てるように指示したが,多くの生徒が,インターネットで調べ,そのまま書き写していた。それにもかかわらず,実験の目的にかなった計画を探し出すことが難しい生徒や十分に考えずに写したため不必要な試薬や手順を書いている生徒がいた。また,温度やpHなどの実験条件を考えてはいるものの,どうやって条件を調節するのかまで考えが及んでいない生徒が多くいた。そのため,不十分な部分を挙げ,再度考えるように指示した。中には,自宅で予備実験を行なってから実験計画を立てた生徒や十分に熟考して実験計画を立てた生徒もいた。
  4. 班分けを行い,班ごとにA4用紙1枚(両面使用可)に実験計画書を作成させた。実験計画書の作成には2コマ(1コマ50分)使用した。
    1班4人,1クラス10班を作った。班分けは,個人が作成した実験計画の完成度とこれまでの成績および実験能力を参考にし,できるだけ班ごとに能力差が生じないようにした。実験計画からレポートの作成・発表までを生徒主体でさせるために,班のメンバー選定は最も注意して行った。

    班で実験計画書を作成する際に,正味の実験時間を30分で計画するよう条件を与えた。限られた条件で実験の目的が達成できるよう,実験条件の選択や手順,役割分担等について考えるように指示した。何を観察し,どのように記録するのかを考えるように指導した。また,高校で準備できる試薬や器具を示し,準備できないおろし金等を使用する場合は各自で準備するよう指示した。必要に応じて,指導したり,質問に答えたりした。
  5. 生徒自身で実験の準備をさせた。
    実験前の昼休みや前日の放課後に班で立てた実験計画に従って,実験の準備をさせた。
    実験準備と合わせて実験器具の保管場所やその扱い方について説明した。試薬を扱う際の注意も行った。
  6. 実験 (1コマ)
    安全に関する説明をした後,各班の実験計画に基づいて実験を行なわせた。実験準備に不備があった場合は,可能な範囲で試薬や器具を追加することは許可した。
  7. レポートの作成
    A4用紙1枚(両面使用可)に実験レポートを書かせた。レポートは班に1枚作成させた。
  8. 実験についての発表 (1コマ)
    実験方法・仮説・結果・考察について口頭発表させた。発表時間は約3分とした。班により実験方法が異なるため,他の班の発表を聞いて酵素の性質や実験計画の立て方について理解を深めることを目的とした。教科書通りの結果になった班もあれば,そうでない班もあり,なぜそのような結果になったのか発表者に質問することにより,条件を揃えることや操作の手順,再現実験などの重要性を理解させた。また,実験の結果について目視で反応の激しさを記録した班もあれば,試験管内に発生した泡の高さを測定した班や発生した気体を回収し,その体積を記録しようとした班もあり,それぞれのメリットとデメリットや信頼性のあるデータとは何かについて考えさせるよい機会となった。また,具体的な実験計画を立てなければ実験器具の不足や手順をその場で考える必要が生じ,時間をロスするだけでなく,正確な実験や測定ができない事にも気づかせることができた。
  9. レポートの書き方について (1/3コマ)
    レポートのいくつかを印刷して生徒全員に配った。レポートの書き方の良い点や改善が必要な点について説明した。どのようにすれば結果を正確に伝えられるのか,そのためには何を測定し,どのようにデータ―を記録するべきなのか考えさせた。

    生徒の実験計画書と実験レポート

    実験計画

    実験レポート

  10. 実験を終えて
    実験計画を立て実験を行なう事は生徒にとって初めての経験であった。はじめは何をどうすればよいのかわからなかったようであるが,班で話し合いをすることで少しずつ実験の目的を理解し,具体的にどのような実験をするべきか考えることができるようになった。実験後レポートを作成する段階で実験計画の不備について気付いたり,他の班の発表を聞いて実験のアイデアが浮かんだりしたようである。また,発表の際に矛盾を指摘され,間違った思い込みをしている事が発覚した場面もあった。例えば酵素の最適温度はヒトの体温に近い40℃であると思い込んでいる生徒がおり,予想通りの結果が得られたと発表したが,その実験はダイコンから抽出した酵素液を使っていた。ダイコンから抽出したのになぜヒトの体温で活性が高くなるのかという質問から,最適温度について理解を深めるような議論ができたことは予想外の副産物であった。

    実験計画やレポートはまだまだ不十分ではあるが,初めてにしては,よく頑張ったと思っている。今後,2年次で探究活動を指導する際には,実験計画の立て方等をレベルアップさせたうえで,統計的なデータ処理の方法,図表の作成方法,ポスターの作成方法及び,口頭発表の仕方を指導していく。

Ⅲ 今回の実験を行なうための準備

今回の実験に要した授業は約4コマぶんであり,多くの時間を割くこととなった。このような取り組みができたのは,年度当初に予習の仕方・授業の受け方・復習の仕方を教え,生徒自身で勉強するように指導したからだと考えている。最初は,教科の内容以外に勉強の仕方を教えたり,生徒の学習内容をチエックしたりしながら授業をしていたため,授業進度はかなり遅かったが,徐々に早くなり後期には1つの実験に5コマ使える余裕を持つことができた。また,生徒が自ら実験や観察を行うための準備もおこなった。顕微鏡観察の前に顕微鏡の構造や使用方法,ミクロメータを使用したサイズの測定方法,スケッチの仕方について課題を与え調べさせた。

課題を添削し,間違いや不十分な部分について指摘し必要に応じて再提出させた。次に,顕微鏡実習を行った。顕微鏡を安全に使用するための注意をした後,各自が調べた方法によって観察を行わせた。特にミクロメータの使用については,添削の段階で理解できていないであろう生徒をピックアップしておき,その生徒たちに注意を払いながら指導した。ミクロメータの使用については2コマ使用し,最初の時間に自分で理解できた生徒は次の授業時間にミクロメータ使用の復習と新たな観察課題を与え,各自のペースで観察できるようにした。最初の時間に理解できなかった生徒は次の時間に自己申告させ,初めから説明し全員がミクロメータを使用できるようにした。実験後にはレポートの書き方を指導し,レポートを提出させた。授業のノート,まとめ用のノート,レポート等は生徒間で閲覧できる機会を作り,他の人の良いところを積極的に取り入れてブラッシュアップするように指導した。

このように,学校での授業時間だけを使うのではなく,家庭での学習も効果的に利用することで,実験のための時間確保ができた。また,生徒自身で実験・観察する練習をさせてきたことで,今回の実験が実施できたと考えている。

Ⅳ 今後の課題

実験の工夫については,目的を達成でき,成功していると考えている。しかし,現在は私が受け持つ生物のみで実施しているため,まずは物理・化学でも同様の取り組みができるようにしていきたいと考えている。そのためには,2つの解決すべき問題があり,1つは膨大な量の課題やレポートの添削の負担をどのように軽減するか,もう一つは実験のための時間をどうやって確保するかである。レポートの添削については,いくつかの改善策を考えているが,実験のための時間の確保については,授業の仕方を変えるなどの工夫が必要となるため,現時点では難しいように思う。

授業の工夫については,主体的に学習するように指導してきたが,生徒は受け身の学習になれており,時間をかけて指導しても主体的な学習に移行できない生徒が一定数いる。予習や復習ができていなければ授業についてくることが難しくなるため,授業の工夫や生徒への働きかけも行ってきたが十分な効果を上げることができなかった。ただ,普段の座学では受け身の生徒も,班活動で実験計画を立てたり,発表したりする時には積極的に活動できていた。まだ具体的には考えることはできていないが,教師対個々の生徒での授業ではなく,生徒で数人のグループを作って,グループ内での活動を通して学習する仕組みを作ることができればさらに主体的な学習につなげることができるのではないかと考えている。