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授業実践記録(英語)

理解から定着,発信へのプロセス
~バックワードデザインで考える単元指導計画~

岐阜県立長良高等学校 橋本 康秀

はじめに

本校では,現行の学習指導要領が施行された平成25年度に「グローバル・コミュニケーション能力育成支援事業」における拠点校として,平成26年度からは「岐阜県英語教育イノベーション戦略事業」の拠点校として,岐阜大学の巽教授のご指導のもと授業改善に取り組んできました。学習指導要領では「授業は英語で行うことを基本とする」や「授業は生徒の言語活動を中心とする」という言葉が注目され,指導法の研究も多く行われてきたかと思います。私も各地のセミナーなどに足を運び,そこで学んだ手法を次の日の授業に取り入れることもありました。しかし授業改善に取り組む中で,そういった「技」が生きるのは,その背景になぜその活動を行うのかというしっかりとした「理念」や,1単元,1年間,そして3年間の「カリキュラムデザイン」があってこそではないかと思うようになりました。本稿では,『LANDMARK English CommunicationⅡ』で作成した単元指導計画を中心に授業実践を紹介させていただき,成果と課題について考察したいと思います。

1. 単元指導計画について

(1) CAN-DOリストと単元の目標

単元の目標を設定する際,その拠り所となるものが「CAN-DOリスト」の形で設定した学年ごとの学習到達目標です。年間指導計画の中に位置付けられた学習到達目標に基づいて,各単元の目標を設定します。このときに,単元の英文の内容やその英文で扱う言語材料の機能を,「CAN-DOリスト」と照らし合わせて設定する,いわゆる「ボトムアップ」で単元の目標を設定することも考えられるかと思います。そして,各時間の授業内容は単元目標から逆算して決めていきます。

CAN-DOリストの形での第二学年到達目標(2014年) *下線部が本単元で目指す到達目標

話すこと 書くこと 聞くこと 読むこと
聞いたり,読んだりしたことについて,情報や考えをまとめ英語で話すことができる。
学習した内容について要点をまとめて相手に伝えることができる。
さまざまなトピックの英文を読んで,その要約文を書くことができる。
さまざまなトピックの英文を読んで,その話題について自分の考えを書くことができる。
対話文において,相手の発話の趣旨や感情を理解し聞きとることができる。
聞き取った英文を書き取ることができる。
説明,評論,物語,随筆など速読して概要を捉えることができる。
説明,評論,物語,随筆など聞き手に伝わるように音読したり暗唱したりできる。

(2) 単元の内容

本稿で紹介する単元の英文では,3人の高校生が順にプレゼンテーションを行い,司会者がその内容を要約していくという構成になっています。英文の内容は,人が恋をするメカニズムについて,精神医学,遺伝学,生物学の見地から説明されているものです。この単元における英文の論理展開は,「抽象→具体」の流れが基本となっています。

(3) 単元の目標

「CAN-DOリスト」と本文の構成や言語材料を照らし合わせ,次の目標を設定しました。

話すこと 読むこと
なぜ人が恋に落ちるのか,精神医学,遺伝学,生物学の見地から説明された英文について,読みとった内容をまとめたり,それについての自分自身の考えを,根拠を示しながら話したりすることができる。また,学んだ表現を使って,相手の意見をまとめることができるようになる。 なぜ人が恋に落ちるのかについて,精神医学,遺伝学,生物学の見地から説明された英文を,つながりを示す語(ディスコースマーカー)やトピックセンテンスに注意して読み,それぞれの説明の概要や要点を理解することができる。

(4)「読むこと」にかかわる単元指導計画

①目標を達成するための言語活動

授業でトピックセンテンスとサポーティングセンテンスの働きを説明し,類似する英文を使って読む練習をさせることで,書き手の主張を的確に捉える訓練をします。また,パート毎に読むのではなく,単元全体を一度に速読することで,まとまった量を読む練習も行います。さらに,要約する際に用いるwhat you are saying is that~やin shortなどの表現にも習熟させるようにします。今回の英文は,センター試験の第3問Cに出題されている「意見要約文選択問題」と同じ形式でもあるため,本文やその他の英文で読解練習を行った後は,実際にセンター試験の過去問を読む機会も与えました。

②「読むこと」の評価

定期考査において,教科書の英文を暗唱していれば答えられる問題も出題しますが,そのような問題はリーディングの技能を測るものではありません(卯城2012)。「読むこと」に関して指導した内容の定着度を確認するために,教科書本文や読解練習では使用していない初見の英文を出題しました。ただし初見の英文であれば何でもいいわけではなく,指導したリーディングストラテジーなどが試すことができる英文(今回は英文の構成・論理展開が同じセンター試験の過去問)を使って評価します。

(5)「話すこと」にかかわる単元指導計画

①目標を達成するための言語活動

この単元の「話すこと」の目標は,①読みとった内容をまとめたり,それについての自分自身の考えを,根拠を示しながら話したりすることができること,また②学んだ表現を使って,相手の意見をまとめることです。このことを踏まえた最終タスクとして,トークショー(パネルディスカッション)という「場面」を設定し,愛の科学を専門とする大学教授という「役割」で人が恋をする理由を説明したり,恋人の作り方や,その関係を長続きさせるための方法などについて話したりするという言語活動を行いました。人が恋に落ちる理由は本文を「再話(retelling)」することで,恋人の作り方や関係を長続きさせるコツに関しては,本文を参考に自分の「意見」を追加する形でできます。このゴールを意識して各パートでは本文を理解した後に形を変えながら繰り返し音読を行い,キーワードを用いた要約や再話を行います。村野井(2006)は,音読が理解活動から産出活動への橋渡し的な働きをすることや,要約や再話が,第二言語習得において重要な認知プロセスを活性化する活動であると述べています。また投野(2015)は,「幹」となる基本100語,あるいは1,000語ぐらいまでの語彙レベルで使われる表現が,テキストの中にどのように使われているかという視点で目利きをすることが必要だと述べています。この単元であればdopamineなどの専門用語ではなく,その専門用語を説明している部分にこそ他の話題でも応用できる表現が隠れています。あくまで英語での発信力をつけるために必要な表現を中心に暗唱していきます。目標②については,同じ設定でグループディスカッションを行い,司会者役の生徒が他の生徒の意見をまとめる機会を与えました。また司会者やフロアから質問をすることで,より即興に近いやりとりを行うことができます。最終タスクでの生徒の発話の大部分は再話とそれに少し自分の意見を加える形でしたが,それでも英語を使っている気持ちになれるようでした。再話がベースとなるアウトプットは,使用語彙が教室内で共有されているということも大きな利点です。

②「話すこと」の評価

「話すこと」に関して指導をしたのであればその評価が必要であり,その評価は筆記試験ではなく実際に話させてみないとできません。この単元では,定期考査後3時間を使ってスピーキングテストを実施しました。授業の中ではパネルディスカッションの形での最終タスクを行いましたが,40人全員は発表できませんでしたので,「話すこと」の目標達成状況を評価するために1人3分の面接テストを実施しました。順番を待つ生徒や試験が終わった生徒は,課題プリントや関連する英作文,またアンケートに取り組みます。

③スピーキングテストの隠れた狙い

ア 試験準備のために本文の音読練習や,自分で書いた作文を読む練習をする。
イ 実技試験を行うことを最初に伝えることで,授業中の活動への外発的な動機づけになる。
ウ 本校ではALTがいないため,生徒全員に教師と1対1で英語のやりとりをする機会を保障する。

2. CAN-DOリストから評価までの流れ

CAN-DOリストの形での到達目標「読むこと」

説明,評論,物語,随筆など速読して概要を捉えることができる。


CAN-DOリストの形での到達目標「話すこと」

①聞いたり,読んだりしたことについて,情報や考えをまとめ英語で話すことができる。
②学習した内容について要点をまとめて相手に伝えることができる。

単元の「読むこと」における目標

なぜ人が恋に落ちるのかについて,精神医学,遺伝学,生物学の見地から説明された英文を,つながりを示す語(ディスコースマーカー)やトピックセンテンスに注意して読み,それぞれの説明の概要や要点を理解することができる。

「単元の「話すこと」における目標

なぜ人が恋に落ちるのか,精神医学,遺伝学,生物学の見地から説明された英文について,読みとった内容をまとめたり,それについての自分自身の考えを,根拠を示しながら話したりすることができる。また,学んだ表現を使って,相手の意見をまとめることができるようになる。

「読むこと」における目標を達成するために授業で行った活動

・本文より易しめの英文で論理展開の理解 ・単元全体の読解(本文)資料1(PDF:90KB) 資料2(PDF:118KB) ・追加英文①の読解(類似する英文)資料3(PDF:87KB) ・追加英文②の読解(センター試験第3問Cの過去問)


「話すこと」における目標を達成するために授業で行った活動と単元の最終タスク

・教科書本文の精読(必要な3パートのみ) ・教科書本文の音読 ・教科書本文の再話(retelling) ・スピーキングとライティング(自己表現)資料4(PDF:284KB) ・パネルディスカッション(最終タスク)

「読むこと」に関する評価

形式:筆記テスト
英文:本文や読解練習で使用した英文と同じ形式の初見の英文(センター試験の過去問)

「話すこと」に関する評価

形式:スピーキングテスト(1人3分の面接)
評価基準:別紙参照 資料5(PDF:139KB)
配点:別紙参照 資料6(PDF:52KB)

3. 各時間の活動内容と家庭での学習内容

時間 指導内容・活動内容
1時間目 単元の口頭導入とパート1の内容理解
口頭導入で扱う質問:Q1 Why do people fall in love? Q2 When they fall in love, how do people choose the people they love? Q3 What do you think bring us that strange feeling of love? 本文(パート2・3・4)の読解に必要な語句を与え練習する。
家庭学習 単元全体の語句リスト「words and phrases」を練習する。

「読むこと」に特化した指導 *予習を前提としない授業

2時間目 英文の論理展開とその読解方法の説明と練習
説明文の多くは抽象から具体へ情報が流れることや,序盤に書かれることが多いトピックセンテンスを理解することが筆者の主張を捉えるために有効であることを説明する。読解練習には,本文より少し易しめの英文を用いる。
家庭学習 単元全体の語句リスト「words and phrases」を練習する。
3時間目 本文をパート毎に分けず,単元全体を通して読解 資料1(PDF:90KB) 資料2(PDF:118KB)
説明文の読解方法の復習と,パート2・3・4の読解に必要な語句の練習を行う。その後に時間を測ってパート2・3・4の英文を一度に読ませ,(1)要約問題,(2)未知語の推測問題に解答させる。その後,(3)asの用法を確認する問題と,(4)自分の意見を書く問題に答える。
家庭学習 (3)と(4)で授業中に解答できなかった問題に取り組む。
4時間目 新たに2種類の英文(センター試験過去問)を使って読解練習 資料3(PDF:87KB)
各パートでの言語材料の確認は最小限にし,説明文の読み方,また要約の方法を中心に確認する。その後,別の英文を使って再度読む練習を行う。2つ目の英文には要約の選択肢をつけず,自分で英文の要約を書く。

「話すこと」に特化した指導 *予習を前提とした授業

家庭学習 各パートを細部まで授業前に読む。
5時間目

7時間目
パート2・3・4の精読,音読,再話
本文の内容と言語材料を確認した後で,音読を繰り返し行い言語材料の内在化を目指す。音読する英文は,最終タスクを行う際に役に立つ表現を含んだものに精選し,暗唱させる。毎時間各パートの復習を繰り返し行い,口頭でスムーズに再話できるようにする。
家庭学習 再話に役立つ英文や重要例文を中心に暗唱する。
8時間目

10時間目
最終タスクに向けての作文作成 資料4(PDF:284KB)
最終タスクである「ホンマでっかTV」の収録台本を,3つの理論それぞれに基づいて書く。台本の前半は本文のリテリングと重なり,後半に恋人を見つけるためのアドバイスや,関係を上手く持続するための秘訣についてアドバイスを書く。書いた台本をもとにペアやグループ活動を通して発表練習を継続する。
家庭学習 次の時間までに作文を完成させる。添削が終わった英文を音読する。
11時間目 グループでのディスカッションと代表者によるパネルディスカッション
4人1組のグループでディスカッションを行う。その場で決めた理論に基づいて話す。司会者は相手の話した内容をWhat you are saying is that~, In short, you are saying~など学んだ表現を使って簡潔にまとめる。
その後,代表者は全体の前で3人の教授,本文に登場する3人の高校生,またどんな質問にも答えられる"The God of Love"という役割になり,司会者(教師)やフロアからの質問に即興で答えたり,恋愛についてアドバイスを与えたりする。
また,3時間目の授業で読解をした際に考えた「どのセオリーが最も上手く説明しているか」という問いについて再度考え,自分の意見を作文する。
家庭学習 作文を完成させる。また,スピーキングテストに向けて練習をする。
後期中間
考査後の
3時間
スピーキングテスト *別紙スピーキングテスト実施要項を参照 資料5(PDF:139KB) 資料6(PDF:52KB)
クジを引き,その場で指定された立場から,「人が恋に落ちる理由」を説明し,その理論に基づいたアドバイスを相談者に与える。また,最後にアドバイスや単元に関する即興の質問に答える。

4. 成果と課題

本稿で紹介した単元では,授業に11時間とパフォーマンステストにさらに3時間もかかっています。これは「読むこと」に関しては本文を読むだけでなく,ストラテジーを指導し,別の英文を使用して繰り返し練習を行うということ,「話すこと」に関しては,最終タスクに向けて音読や再話を徹底して行い,言語材料の内在化まで目指しているためです。従来本校では1時間で本文の理解をして,次の1時間で音読・再話という1パート2時間のペースで進み,1つの単元にかかっていたのは8時間程度でした。時間を多くかければその単元での学びは深まりますが,それでは教科書があまり消化できないということに不安を感じる人もいます。このことから,単元によってかける時間を大きく変えるなど,各単元をより柔軟に使って生徒の英語力を伸ばしていくという発想が出てきました。パフォーマンステストまで行う単元については,かなり時間がかかりましたが,2時間から3時間で「読むこと」や「聞くこと」に特化して指導した単元もありました。青森県立田名部高等学校は「TANABU Model」として,1つの単元を最大15時間,最短2時間で指導する4つのモデルを提案しています(堤2015)。このように単元によって強弱をつけることで理解だけで終わらず,定着から発信まで指導していく時間も確保できるのではないでしょうか。その他にも,目標から逆算して単元指導計画を立てることで,テストや評価の方法,そして教材研究の視点や何より授業の改善につながりました。また単元指導計画について複数の教員で議論する時間をもつこともできました。

今後の課題については,設定した目標の妥当性が考えられます。その単元で設定した目標が本当に到達目標の達成につながっているのか,また併せて「CAN-DOリスト」自体の見直しや,単元の目標を達成するための活動の適切さについても見直しが必要です。今年度は本校の「CAN-DOリスト」に「Interaction」と「Production」という2つの項目を「話すこと」の分野に設けました。今後も毎年改定作業を行っていくと同時に,連携する小・中学校と本校を一貫した「CAN-DOリスト」でつなぐことについて研究することも重要になるかと思います。

5. その他の単元

「話すこと」「聞くこと」に特化した単元 最終タスク:ディベート 資料7(PDF:161KB)

2年生の最後に扱った単元では,ペアやグループでのディベートを行いましたので参考資料をご覧ください。また,本稿で扱った単元の他に「書くこと」に特化したものや「聞くこと」に特化したものもありますが,複数技能の統合や年間を通して4技能を総合的に指導することを目指しています。

6. おわりに

ここまで述べてきたように,「CAN-DOリスト」から1時間の授業までバックワードで授業を作ることで,各パートや単元に強弱をつけて指導することができるようになりました。4月から1パートずつ本文を読み,音読や再話をするだけの授業では,生徒にとってどの単元やパートであっても「差」はなく,具体的な目標を感じられないため英語の授業の目的が本文を暗記することだと捉えていたかもしれません。その単元だからこそ目指すべき目標があり,最初にその目標が設定できれば,あとは目標を達成するために必要なことを各パートで行っていくという過程になります。本校では1学年400人の生徒を3~5人の教員で指導しております。その中で共通の目標をもつこと,また具体的な単元指導計画を事前に見て話し合うことで,担当者間で改善点を出し合ったり指導について相談したりする機会が増えました。また,単元で目指すべきゴールを教員側だけでなく,生徒とも共有することで,どこに向かっているか,何のための活動なのか意識できるようになり,音読や再話の質も高まるのではないでしょうか。このようにゴールから逆算して単元をデザインすることで,理解から定着,そして発信まで生徒を導くことができるのではないかと思います。

参考文献
卯城祐司(編著). (2009). 『英語リーディングの科学―「読めたつもり」の謎を解く』. 東京:研究社.
卯城祐司(編著). (2012). 『英語リーディングテストの考え方と作り方』. 東京:研究社.
国立教育政策研究所教育課程研究センター. (2012). 『評価規準の作成,評価方法等の工夫改善のための参考資料 (高等学校 外国語).
投野由紀夫. (2015). 『発信力をつける新しい英語語彙指導 プロセスの可視化とチャンク学習』. 東京:三省堂.
堤孝.(2015). 「限られた高校英語授業で発信力を養う時間を生み出す「TANABU Model」.『英語の先生応援マガジン2015冬号(第25号)』(6-9頁). 東京:株式会社アルク.
根岸・工藤. (2012). 「CAN-DOリストについて」. 『中学校 英語CAN-DOリスト作成のヒントと実践例』. 東京:三省堂.(http://tb.sanseido.co.jp/english/newcrown/Data/can_do/h24NEWCROWN_cando.pdf). 2016.1.5取得
村野井仁. (2006). 『第二言語習得研究から見た効果的な英語学習法・指導法』東京:大修館書店.
文部科学省.(2010). 『高等学校学習指導要領解説 外国語編・英語編』.東京:開隆堂.

教科書
LANDMARK English CommunicationⅡ (啓林館)

(最終タスク:パネルディスカッションの様子)

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