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授業実践記録(物理)

部活動における研究活動のあり方について

学校法人滝学園滝高等学校 三輪 篤

1.はじめに

本校に勤務して16年。平成23年度から「先進技術研究部(旧:MC部)」の顧問に異動となり,5年という節目を迎えた。今回はこの5年間の活動を振り返りながら,部活動における研究活動のあり方について考えてみたい。

研究活動は日々の授業とリンクし,次の力の必要性を感じ,そして各教科への意識を向上させると私は考える。

① 基礎学力:自然科学系科目の力。 → 数学,理科
② 文章力:理論的に説明する力。 → 国語
③ 英語力:バランスの取れた4技能の力。 → 英語
④ 解析力:パソコンを使い,集めたデータを分析,解析する力。 → 数学,情報
⑤ プレゼン力:パワーポイントで図や表を使いながら,分かり易く説明する力。 → 情報

また上記の力だけでなく,次の周辺の力の必要性も感じ,その力を育むと考える。

① 企画力:自ら研究テーマを考え,どの様にゴールまで持ち込むか,創造する力。
② 情報収集力:データを集め整理する力。
③ 分析力:集めたデータから,関連性を見いだす能力。
④ 反省力:指導下さる方や,発表を聞いた人から意見を聞き,次に活かしつなげる力。
⑤ 完遂力:最後までやり遂げる力。

日頃勉強している理由も分からず,やらされる勉強をしているのが,多くの高校生の実態であろう。研究活動は,数学や理科などの各教科の必要性はもちろん,今後その周辺の力がいかに大切か教えてくれる。研究活動を行うことは,ただやらされる勉強から脱却し,今後何が必要かを先取りして感じ,主体的に勉強を始めさせることができる,そんな機会になるかもしれない。

2.研究の実例:新型ペルチェ霧箱の制作

<背景>

2011年3月11日の東日本大震災に伴い,福島で原子力発電所の事故が起きた。事故直後,放射線に対する人々の恐怖は消えず,行き過ぎた恐怖は風評被害をもたらした。

部員は,この恐怖の原因の一端は放射線が見えないせいで「何かよく分からない怖いもの」となっているのではないかと考えた。そこで専門的知識がなくても,家庭で手軽に放射線の飛跡が可視化できる装置を作ることができないか考えた。

<目的>

現在,放射線を観測する装置は霧箱,ガイガーカウンター,原子核乾板,スパークチェンバーなど様々なものがある。飛跡が「目に見える形」で観測でき,かつ安価で手軽であるという条件に一番近いのは霧箱であった。しかし霧箱はまとまった大きさのドライアイスを必要とする点において,まだまだ手軽とは言い難い。ある程度大きなドライアイスは入手が困難な上,毎回購入する必要がある。保存するのにも手間がかかる。そこでドライアイスを使わずに観測できる霧箱が制作できれば,家庭で手軽に飛跡が観測できる装置となるのではと考えた。目をつけたのはペルチェ素子という熱電素子である。これを用いて,家庭用コンセントさえあれば飛跡を見ることができる霧箱を制作しようと考えた。

<結果>

当初の目的通り,家庭用コンセントに電源をつなげば,飛跡を目で見ることができる手軽な放射線可視化装置を作ることができた。その後,この装置を全国に普及させるために,プラスチック会社の(株)サンプラテック社との共同開発に乗り出した。ペルチェ霧箱の本体をプラスチックにすることで,低コスト化や軽量化を図り,持ち運びしやすい霧箱のキットを考えた。結局採算が取れないとのことで,商品化に至らなかったが,我々の理想とする観測装置を作ることができた。

この結果をまとめ,「つくば Science Edge 2013」で発表したところ,最高位の「創意指向賞」を頂いた。またこの研究は広く評価され,中日新聞に掲載された。

研究のポイント
① 自分たちで研究テーマを決めるところからスタートした。
② わずかな予算の中で工夫しながら装置を作り上げた。
③ 生徒内で役割分担をし,協力して研究を進めた。
④ 結果を求めずに,探究心を満たすための研究を行うことができた。
⑤ 作って終わりでなく,市販化を試みるなど社会に還元しようと試みた。

3.終わりに

一昨年末の中教審が答申した「高等学校教育・大学教育・大学入学者選抜の一体改革」では5年後には新テストが始まり,知識・学力・技能の周辺の力が問われることになった。今後,この様な数値化できない能力を育み,評価していかなければならない。既に東大や京大でさえ,推薦入試や特色入試を開始し,周辺の力を重視する評価方法に変わってきている。今後この流れは全国に加速していくだろう。

この様な教育の抜本的な改革の中,はじめに述べたとおり,部活動における研究活動は今まで以上に注目され,積極的に活動されるだろう。今回は,私の5年間の活動経験から,次の5つの事項を学ばせて頂いた。

① 指導者の専門分野や過年度生の活動の継続というように,研究内容の枠を狭めるのではなく,研究テーマを探すところからスタートする大切さ。 ② レールが敷かれたり,制限がある縛られた研究でなく,自由に研究を行うことの大切さ。 ③ 自分たちの手で装置を作り,自分たちでデータを取ることの大切さ。
④ 高額な装置を使わせるのではなく,高校生らしく身近な装置を工夫して使い実験することの大切さ。 ⑤ 結果を求めることが目的でなく,失敗を恐れず,知的好奇心を満足させることを目的にする大切さ。

<写真1> 新型ペルチェ霧箱
<写真2:つくば Science Edge 2013表彰式
左はノーベル賞を受賞した江崎玲於奈博士>