1.はじめに
・ | どんぐり,というとこまや人形などのおもちゃ作りが中心になりがちですが,それだけではこの素材のすばらしさを本当に生かしていないのでは? |
・ | どんぐりで遊んだあと,教室のあちこちにどんぐりが落ちていたり,ふみつぶされていたりすることに心を痛めた経験はないでしょうか? |
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(1) | 本単元のねらい
「子どもたちがどんぐりを大好きになってほしい。」これが,指導に際しての一番の思いであり,本単元を通じて子どもが育ってほしい姿であった。「大好き」とは,単におもしろい,楽しい,と感じるだけではなく,一粒のどんぐりをじっと深く見つめる眼が養われることであり,どんぐりを心から大切に思う気持ちが育つことである。小さなどんぐりを大切に思う気持ちは,身の回りの自然を大切にしていこうとする心への出発点になるだろう。
授業をすすめるにあたっては具体的な活動や体験を重視した。どんぐりの木は,校区内の公園や道沿いにたくさん植樹されているので「どうなっているのかな」と子どもたちが疑問をもったとき,「見に行ってみよう!」とすぐに自分自身の目で確かめることができる。子どもたちが直接体験を多くもつことができるという意味でも,地域に根づいた素材だった。 |
(2) | 子どもの実態
豊かな自然に囲まれた広い校区,校内にはのびのびと活動できるビオトープと,すばらしい環境があるにもかかわらず,子どもたちが公園や緑地に出て,みずから自然にふれあう遊びをしている姿を見かけることは残念ながら少ない。
そんな中で,どんぐりはどの子にとっても楽しいおもちゃである。秋になると,得意そうな顔で「先生,あったで!」と教室に持ってきてくれる。しかし,どんぐりは子どもたちにとってあくまで遊び道具としての存在であり,「生命を宿している種子」としての働きにまで気がついている子どもは少ないように感じられた。 |
2.授業の実際
第1次 どんぐりと出会う
学習活動 | 教師の支援と留意点 |
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・ | 千代が谷公園へでかけ,落ちているどんぐりに気づかせる。 |
・ | 4年生や保護者といっしょに遊びながらどんぐりに親しませる。 |
・ | 遊びの中でのつぶやきや発見を拾い上げ,全体に投げかける。 |
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子どもたちは遊びの中でどんぐりに触れ,親しみをますます感じていく。保護者や異学年との交流も遊びの幅を大きく広げた。「いろんな形があるなあ」「きゃーっ,どんぐりむし!」「くりとどんぐりは似ているけれど,食べられるのかなあ。」「芽が出ているどんぐりがあるよ!」この「どんぐり遊びの会」が子どもたちの発見や疑問をもつ大きなきっかけになった。
第2次 めざせどんぐりはかせ
児童の活動 | 教師の支援と留意点。 |
○ | 目的別のグループに分かれて調べる活動をする。
・ | どんぐりクッキング隊 |
・ | どんぐりマップ隊 |
・ | ひみつけんきゅう隊 |
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○ | どんぐり研究会を開き,それぞれのグループの発表をする。
・ | どんぐりお茶会を開こう |
・ | どんぐりスタンプラリーをしよう |
・ | どんぐりのひみつを知ろう |
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・ | クラスを解体して,3つのグループにする。 |
・ | どんぐりを食材として調理してみる,校区内のどんぐりマップを作る,どんぐりの育ちや特徴をインターネットや本で調べるなど,それぞれのグループが多様な方法で調べることができるように支援する。 |
・ | 他のグループの友達にわかりやすく発表できるよう助言する。 |
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どんぐりクッキング隊が開いたどんぐりお茶会では,マテバシイの実を使ってどんぐりコーヒーとどんぐりクッキーを作った。クッキング隊の子どもたちがリーダーになって,他のグループの子どもたちに作り方を教える。
秋晴れの気持ちいい天気の中,ビオトープの芝生広場には,香ばしいいいにおいがたちこめてくる。「どんぐりに見えないなあ!」今まで楽しいおもちゃとしてどんぐりを見ていた子どもたちにとって,どんぐりが食べられるということは大きな驚きであった。
どんぐりマップ隊が開いたスタンプラリーは,千代が谷公園の中でどんぐりの木を見つけて葉っぱのスタンプを集めるルールである。広い公園の中でマップ隊がそれぞれ自分の木の下で「これは,くぬぎです。くぬぎの葉っぱは…」と特徴を説明して,葉にインクをつけてカードに押してあげた。「この木がみずなら,って,初めてわかった」一本一本の木の名前を知るうちに,子どもたちは木の種類を意識し始めた。
どんぐりひみつ発表会ではどんぐりの育ち方や,どんぐりむしの正体,コナラゾウムシについての説明などがあった。どんぐりにも命があり,朝顔の種と同じように次世代へ命をつなぐ種子としての役割があることを知った子どもたちは,「どんぐりの木を育ててみたい」と強く感じたようだ。どんぐりを集めて,苗木で払い戻してもらえる「どんぐり銀行」の存在をインターネットで調べたひみつ研究隊の提案で,「鹿の子どんぐり銀行」を開設することになった。また,もっと知りたいことやどうしてもわからなかったことを三田市の人と自然の博物館の樋口先生に質問し,ビデオレターでお返事をいただいた。
第3次 鹿の子どんぐり銀行を開こう
児童の活動 | 教師の支援と留意点 |
○ | どんぐり銀行を開こう
・ | 一人一粒ずつ拾ってきたどんぐりの実を種類ごとに分類し,どんぐり銀行神戸へ郵送する。 |
・ | 自分の植木鉢にお気に入りのどんぐりを植える。 |
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・ | 正しく分類できているかを助言する。 |
・ | 種類によっては,冬を越してから発芽するものもあるので,世話を続けるように声をかける。 |
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どんぐり銀行から実際に苗木が送られてきたのは,子どもたちが3年生になってからの5月だった。大人気はマテバシイの木。「だって,おいしいもん!」
3.おわりに
・ | 「先生,ミズナラみたいなどんぐりころがっとったで。」教室の隅に落ちていたどんぐりを見つけた男の子が拾ってくれた。「どんぐり遊びの会」のころは,机の下にどんぐりが誰にも気づかれないままころがっていたり,踏まれてぐちゃぐちゃになっていたりすることもあった。しかし,一人一人の子どもたちが「どんぐりはかせ」になった今,どんぐりを踏む子はいない。ころがっているどんぐりを名前で呼び,その存在を確認することもできる。この単元を通じて,子どもたちの心の中でどんぐりの姿が単なる「遊び道具」から少しずつ変化したことは本当にうれしいことである。 |
・ | 「子どもたちがどんぐりを大好きになってほしい」と願っていたことは前述した。しかし,実は,指導者である自分自身が,一番どんぐりに夢中になり,どんぐりの奥深い魅力にとりつかれていることに気づいたのであった。秋に実をつけたときにだけとびつくのではなく,年間をとおして《自分の木》を見つめつづけることが,この単元を学習した価値をさらに深くするだろう。他にも残された課題を4つとりあげて,まとめにしたい。
(1) |
教師の人手の確保…子どもたちの活動がどんどん広がるため,たくさんの人手が必要 |
(2) |
時間数の問題…年度当初のカリキュラムを編成するにあたって単元の精選が必要 |
(3) |
施設の問題…調べ学習にあたって,コンピュータールームや図書室の配当時間が少なく,自由に使うことができなかった。大規模校の問題とも言える。 |
(4) |
インターネットの漢字の問題…情報源として活用したかったが,2年生の力ではホームページの漢字や難しい言いまわしを理解することができなかった。漢字については,「レジブル」などのテキストを書きかえるソフトがあるので,その活用方法についてさらに研修を重ねたい。 |
どんぐりクッキングのポイントはただひとつ,あくぬきをしっかりすること。生でもたべられます。
・マテバシイ(他のどんぐりはタンニンというあくがとても強いので食べるのには適しません。ツブラジイ,スダジイはおいしいです。)・ホットケーキミックス200グラム・バター50グラム・牛乳50ml
(1) | 金づちで殻を叩き破り,渋皮をむく(雑巾をひいたかたい台の上ですると簡単に砕けます) |
(2) | 流水で1時間ほどさらしてあくをぬく |
(3) | 180度のオーブントースターで焼く(クッキー用10分・コーヒー用30分) |
(4) | 焼いたものを金づちでさらにこまかくする |
どんぐりクッキー
(1) | 2重にしたビニール袋にホットケーキミックス,バター,牛乳を加えてよく練る |
(2) | 好きな形にして,下ごしらえしたどんぐりをナッツのようにのせる
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(3) | フライパンなら弱火で5分,オーブントースターなら5分から10分(すぐ火が通るのでこげないように) |
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どんぐりコーヒー
(1) | 下ごしらえしたどんぐりをさらに細かく砕き,コーヒーの粉のようにする。 |
(2) | コーヒーのようにドリップする。(麦茶を作るように煮出してもおいしい。) |
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