2年
三角形と四角形
長野県A小学校
この単元では,

 (1)『三角形と四角形』を思う存分に楽しませたい。
 (2)三角形や四角形の定義を知的に理解させることよりも,視覚や触覚を通して「感じる」ことを重視したい。
 (3)「発見した!」という喜びを数多く体験させたい。
 (4)「探す」という活動や「作る」(切る・貼り合わせる・折る・描く)という活動を通して,三角形や四角形に対する認識を豊かにしていきたい。

と考えて,次のような学習活動を単元の導入とした。

画用紙(長方形)を,手に1枚持って,
「ここを『頂点』といいます。ここを『辺』といいます。ここを『角』といいます。」
「『頂点』はいくつあるでしょう。『角』はいくつあるでしょう。『辺』は何本あるでしょう。」

 これが本単元の無味乾燥なスタート。これらの名称を,「まず,子どもたちなりの言葉で考えさせる」という授業もしたことがある。それはそれで,子どもたちの生活感覚や現段階での図形認識,言語生活がにじみ出てきておもしろい授業になる。でも,この単元では,上記の(1)〜(4)に時間をかけたいと考えた。

 提示した画用紙が,「頂点が4つ」「角が4つ」「辺が4本」から成っていることは,2年生の子どもたちにもすぐにわかった。黒板に,

頂点が4つ,角が4つ,辺が4本からできている図形を『四角形』という。

と板書。あわせて,

頂点が○つ,角が○つ,辺が○本からできている図形を『○角形』という。

も板書し,三角形,五角形,六角形など四角形以外にもいろいろな図形があることを確認した。

 「先生,十角形もあるの?」「二十角形も?」
 「もちろん,十角形も二十角形もあるよ。百角形や千角形だってあるんだよ。」
 「えっ!百角形や千角形もあるの!」
 「みんなが頂点や辺や角をちゃんと数えられればね。」

 さて,第1時の学習活動は,

左の3つの図形を組み合わせて,いろいろな形の四角形を作ってみよう。

条件1. 必ず3枚全部使うこと
条件2. 裏返して使ってもいい


 子どもたちは,ハサミと液状のりを手にして四角形を作り始めた。教室のあちこちから「1,2,3,4…」と数える声が聞こえてくる。辺を数える子,頂点を数える子,さまざまである。

 「四角形だと思ったのに…」
 「それ,おかしいよ。それじゃ頂点が5つになっちゃう。」
 「えっ?1,2,3,4,5。あっ!本当だ。これ五角形だ。」

 子どもたちは,形に惑わされるのではなく,ちゃんと定義に基づいて思考しながら四角形を探している。2年生でもこういう思考ができることに,実は私自身が驚いた。
 上の3種類の図形を使ってできる四角形。私が「2年生なら見つけられるだろう」と考えていたのは,次の5種類である。

 ところが,子どもたちの頭脳の方がはるかに柔軟であった。第1時の授業で,子どもたちは最終的に7種類の四角形を作り出した。
 まず,Tくんが下のような凹の形の四角形を見つけた。

 「エーッ!これ四角形なの?何かおかしくないかなあ。」と,Tくんに質問すると,
 「四角形だよ。だって,1,2,3,4。頂点が4つあるでしょう。」
 とみごとに説明してくれた。

 他の子が,凹の四角形をきちんと四角形として認識するかどうか知りたくて,
 「ねえ,T君が,これを四角形だっていっているんだけど,いいのかなあ?」
 とT君の作った四角形を黒板に提示した。子どもたちは,しばらくの間,黒板の図形を見ていたが,どの子も凹の図形であることに関係なく,きちんと四角形であることを認めることができた。見た目の異質さに惑わされず,2年生でもちゃんと定義から図形が認識できたのである。

 「先生,私も四角形ができました。」
 と,Hさんがひかえめな口調で下のような図形を見せてくれた。細長くて,一瞬判断に迷うが,確かに頂点が4つある。みごとな四角形である。

 「先生,2枚を裏返しにして使ってもいいですか?」とHくん。
 「2枚?いいよ。2枚でも,3枚でもいいけど,でも,できた四角形をそっくり裏返しにしてみてごらん。」

 自分の作った図形をひっくり返して,「アッ!」と叫んだHくん。そして,人なつっこい表情でニコニコ微笑んでくれた。どうやら,私の言葉の意味をちゃんと理解し,「『3枚のうち2枚ひっくり返す』ということは『3枚のうち1枚ひっくり返す』ことと操作的には同じである」ということに気がついてくれたらしい。勘のいい子である。 

 7種類の四角形を作れることが学習の目的ではない。四角形を探しながら,子どもたちは,辺や頂点の数を数えながら,

 「1,2,3,4,5…。あれっ?これじゃ,五角形だよな。」
 と試行錯誤している。試行錯誤しながらも,「辺や頂点の数によって,何角形になるか決まる」ということを繰り返し学習しているのだ。

 また,手を動かしながら3つの図形を操作していく中で,

(1)頂点をきちんと合わせると,2つの頂点が1つになる。
 「四角形1つと三角形2つを使って四角形1つを作る」ということは,「全部で10個ある頂点を4つに減らす」ということをしているのだと考えることもできる。

(2)直角を2つ合わせると,直線になる。
 「直角」という用語は,この時点ではまだ学習していない。でも,子どもたちは直感的に「直角」を「特別な角度」「心地よい角度」として感じているようだ。
 角を2つ合わせて直線ができたり,2つの角度を合わせて直角ができたりという操作は,理屈なしに快感である。


 というようなことを学んでいく。

 これらは,教科書に記されていることではないが,図形を認識していく上ではきわめて大切なこと。子どもたちの図形感覚を育てたり,子どもたちを図形好きにしていくためには,両手を使った操作の伴う,質の高い操作活動がどうしても必要になってくるように思う。                                      


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