6年
自己目標を持ち,創造的な学びのできる子どもをめざして
−「場合を順序よく整理して」の指導を通して−
鳥取県八頭郡八東町立八東小学校
高木 政寛
1.はじめに

 自らの学びの中で,いままでに自分の中にはなかった新しいものの発見や既習の経験,アイディアを生かして新しいものを作り出す喜びを子どもたちに味わわせたいと考えている。

 このような未知のものを発見し作り出す創造的な思考は,自分の目標を持ち,ねばり強く解決にあたる活動や振り返りをして,さらなる新しい目標へと向かう学びの活動の中にみられると考えている。そこで,今回,これらの活動に視点をあて,自己目標と自己評価を取り入れた学習過程と教材の開発に取り組んで,実践を試みた。

2.自己評価を取り入れた学習過程

 1単位時間の学習過程を次のように細分化し,創造的に学ぶ学習過程を考えてみた。

(1)問題の再構成と自己目標の意識化
(2)解決の計画の意識化
(3)解決の計画遂行
(4)自力解決の過程とその結果の検討
(5)自己解決の意識化(友達とのかかわり,よさの気づき)
(6)自己解決活動の評価・自己の成長の自覚
(7)次なる問題の発見と目標の意識化

 特に,問題把握の段階で学習課題を明確にし,自己目標を持って,自力解決へと進む段階,比較検討の段階における実践と授業後の子どもの感想を紹介したい。

3.単元について

 4年生では「資料を落ちや重なりがないよう項目に整理して表にまとめること」について学習してきている。本単元は,その発展教材である。ここでは,さらに起こりうるすべての場合を適切な観点を決めて,分類・整理し,順序よく書きあげる能力や図,表などを用いて処理する能力の育成,そして,そのよさへの気づきをねらっている。

 また,これらの活動を通して,論理的な考え,単純化,記号化の考え,多面的な考えなどの数学的な考え方の育成も重視している。本単元を,子どもの創造的な活動を伴った,問題解決の1つの機会としてとらえ大切に扱っていきたい。指導にあたっては,結果として何通りの場合があるかを形式的な計算で求めさせるのではなく,結果に至るまでの思考の過程を大切にしていきたいと考えた。
 また,列挙した後,さらにある観点から見直し,目的に合ったものを選び出すといった数学的な態度も身につけさせたいと考えた。

●指導計画(総8時間)

第1次 場合の数の調べ方

 第1時 ならべ方(カード,リレー)
 第2時 組のつくり方(本時3/8)

第2次 いろいろな場合を考えて

※第1次では教科書の教材の配列と変えて授業を行った。

●本時のねらい

 固定された2本の平行線と垂直に交わる5本の直線によってできる長方形をすべて列挙し,その場合の数を求めることができる。

4.指導の実際

(1)問題把握の段階

 問題把握の段階は文意を理解することが第1であることはいうまでもない。しかし,真の問題把握を考えてみるとき,ここでは,「何が問題なのか」「なぜこの問題を考えるのか」と自らに問い,問題を自分の問題としてとらえ直す活動へと進めておく必要がある。

 それは,疑問の解決や新しい問題を解決していく数学的なアイディアや解決の方法等の獲得,そして,問題に即した条件間の関係をつかむなど数学的な活動を期待できる段階だからである。教材との出会いやこうした活動の中に,創造的な思考が生まれると考えている。

この中に長方形がありますか。

何個かあります。

教えてください。

アとイの間に1つあります。

イとウの間にもあります。

イとウはとんでアとエの間にもあります。

大きな長方形もありますね。このようにしてできる長方形は他にもありますか。

アとオの間にもあります。

先生,2本の線をさがせばいいんじゃあないですか。それで1個できるから。

全部で5本あるからその中の2本を選んで書き出していけば見つかります。

なるほど,5本の中から2本をさがせばできるんだね。昨日とちょっと違うね。

昨日は,並べるのをやったけど,今日は組を作るんだと思います。

縦の線の組を作っていけば長方形は見つかるんだ。

自分の目標を作って,解決を進めてみましょう。
(自力解決に入る)

【自己目標の様相】

友達の考えをよく聞こう。
友達にわかりやすく発表しよう。
自分だけの力で答えを出してみたい。
わかりやすく書き出してやってみよう。
表や図を使って全部見つけ出してみる。
長方形をつくる直線の組を全部出して,他のやり方でもしてみて確かめをする。
とにかく答えを出してみて,6本や7本でもできるか考えたい。できないかもしれないけれど・・・
きのうは式をつくったから,今日も式を見つけてみたい。

(2)解決の検討の段階

 解決の検討は個人による検討と集団による検討が考えられよう。ここでは集団による検討(自己解決の意識化,よさの気づき)について考えてみたい。
 A,B,Cの考えについて話し合いを進めた。

Aの場合,アを先頭にしてイを選んでつくった長方形とイを先頭にしてアを選んでできた長方形は同じものだからはぶかないといけないと思います。
アとイ,イとアを選ぶと同じ長方形を数えることになって,本当の数がわからなくなります。

2回数えているということですね。

では,このAの図で重なるものを線を引いてはぶいてください。(と消す)

はぶいてみると,アが先頭になったとき4通り,イの場合は3通り,ウの場合が2通り,エの場合1通りだから4+3+2+1=10,10通りになります。

BもAと同じように同じものを2回数えているので消したらいいと思います。

AもBも同じものを書き出して数えているまちがいをしています。

気がついたことだけど,Bも4+3+2+1=10の式になります。

Aの場合,式を考えて作ってみると,アイ,イアなど2本の直線を選ぶと4×5=20,この中には同じものがあるので20÷2=10,答えは10になります。

式で考えることもできるんですね。すごいね。その他,別のやり方をした人はいませんか。

わたし(M.U)は,Cの考えと似ているんだけれど,図にして考えてみました。アを中心に考えるとイ,ウ,エ,オとなって,→を入れました。その数を数えると長方形の数になります。
M.Uさんの考えもやっぱり4+3+2+1=10になります。

みんなの考えが,式で表すとつながってきましたね。同じ式になってきましたね。
※以下省略

(3)子どもの自己目標に対する感想(自己評価)

 自己目標を持ち,自己評価を行うことによって,自ら学ぼうとする意欲や学びの実感がノートの感想に見られるようになってきた。

5.おわりに

 子どもの問題を解決していくときの着想を大切にし,それを深め,関連づけて考えていく授業を試みた。「サッカーの対戦」「かんづめの組み合わせ」などのように,即,組み合わせにつながる教材に比べ,今回の問題は,長方形を作るための2本の直線の組を見つけることにまず気づかなければ,組み合わせの問題とはならない。その点で,問題把握の段階での子どもの「なぜ考えるのか」「何が問題なのか」を問い,思考し,問題を再構成する場を作り出すことができた。また,自己目標をしっかりと持たせることで,自己評価の中にも次時の(仮)目標や課題設定が見られるようになってきた。

 思考の連続と学び方の習得を考えるとき,今後の課題として,自己目標→自己評価→自己目標のサイクルを授業の中にいかに組み入れるか,過去の評価でなく,子ども自身にとって未来への評価としての自己評価をさらに考えていきたい。


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