4年

発想力を高めるための教材の工夫
〜2枚の三角定規を用いて〜   
長崎大学教育学部附属小学校
伊藤 裕子

1.「三角定規」は,宝物!

 2枚の三角定規の組合せでできた角の大きさを求める学習をしたときのことである。“ここにも角がつくられているね。”“あっ,ここにも見付けた!”と,子供たちが語り出した。「角」の大きさの学習で,本時は, 30°+ 45°の内角の部分を求めることでねらいを達成することができる。

 しかし,その子供たちは,様々な場所に角の大きさが存在することに気付き,その大きさを求めたいという欲求をもつことができたのである。

 ともすれば,規定概念にとらわれ,決められたことを確実に求めることで終わってしまう内容である。外角へ目を向けた子供が認められたり,逆に教師サイドで,着眼できるような取組をしたりすることによって,子供の発想力を高めることができる。その発想力が,子供にとって,意外性のあるものであったり,感動をもたらすものであったりすることで,子供たちは活用することができ,学びを暮らしへ生かしたり,学びから学びへつなげたりすることができると考える。

 そこで,「三角定規」を通した実践から,子供たちがどのようにして,発想力を高めていったのか述べていきたい。


2.見えない線(補助線)を引くことで?

4年「三角形」における正三角形づくり

 三角定規で,外角を見付けた子供たちに,「補助線を引くことで,見えないものを見える形へ」という視点をもつことで,発想力を高める学習を「三角形」で展開をした。


(1) 単元名  「三角形」


(2) 単元の目標

身の回りの中から,二等辺三角形,正三角形を見付けようとする。
構成要素(辺,角)に着目しながら,二等辺三角形や正三角形の性質を調べようとする。
二等辺三角形,正三角形をかくことができる。
二等辺三角形,正三角形の特徴が分かる。


(3) 学習計画

     
初発の数理体験活動
 
     








「ピラミッドづくり」を行い,三角形に着目した学習計画を立てる
・・・1時間

「ピラミッドづくりゲーム」をする。
4枚の三角形でピラミッドづくりをやってみよう。
バランスがよかったり,悪かったりしているよ。
 
ピラミッドのできる整った三角形の秘密について調べよう。
三角形の秘密を調べよう。
三角形をつくろう。
数理追求          
         
ピラミッドのできる三角形の秘密を調べよう     ピラミッドのできる三角形をつくろう
         
三角形の秘密を調べる
・・・1時間
定規や分度器,コンパス等で調べる。
辺の長さ,角の大きさ
「二等辺三角形」「正三角形」
を知る。

「二等辺三角形」「正三角形」を弁別する
 
・・・1時間
「二等辺三角形」「正三角形」の仲間分けをする。
特徴を根拠に仲間分けをする。
   

 

三角形のつくり方を調べる
・・・2時間
ドット図で「二等辺三角形」をかく。
コンパスを用いて「正三角形」をかく。
いろいろな方法で「二等辺三角形」「正三角形」をかく。
「ピラミッドづくり」をする
「二等辺三角形」「正三角形」を効果的につくり,ピラミッドづくりに挑戦をする。
   
   
数理獲得
               
       
  終末の数理体験活動  
数理活用    
正三角形をつくる活動を通して,新しい見方・考え方を見いだす
【学習事例2】

三角定規で「正三角形」づくりをする・・・・・・・・・ 1時間(本時)
三角定規の性質を生かし,正三角形づくりに挑戦をする。
「二等辺三角形」「正三角形」を弁別する補助線を利用して,身の回りにある正三角形や二等辺三角形を調べる
 
・・・1時間


(4) 本時の授業

 「二等辺三角形」「正三角形」の性質を知り,実際にかくことができるようになっ た後の取組として,2枚の三角定規( 90°・ 60°・ 30°)で,正三角形をつくる活動を設定する。

1 ねらい
 三角定規の性質を使い,正三角形を合わせたり重ねたりしてつくる活動を通して,角度や辺を意識し三角形について,調べることができる。

2 授業の実際(6/7時)
問題をとらえる
T: (学習材1を提示する) 学習材1
T: 三角定規の形の三角形が2枚あります。
C: 今日は三角形の組合せで二等辺三角形や正三角形をつくるのだと思います。
C: より多くの正三角形や二等辺三角形をつくった人が勝ちというゲームをするのだと思います。
T: 今日は,三角定規を使って正三角形をつくろうというゲームをします。

見通しを立て調べる
T: では,ルールの説明をします。

学習材2
三角定規の2枚を合わせたり,重ねたりして正三角形をつくる。
できた三角形が正三角形かどうか確認をする。
確認の時は,分度器や定規などを使っても良い。
つくった三角形をノートに写す。
たくさんつくった人が勝ち。
T: 質問はないですか。
C: 切ってもいいですか。
T: 切ってつくるのではなく,今回は,合わせたり重ねたりしてできる正三角形を見つけて下さい。

三角定規の小型版(黄色と緑のクリアファイルで作成)を使ってまとめたい人は,使って下さい。
C: (子供たちが考えた正三角形)
 
 

結果を検討する
T: (児童の考えアとイとウとエとオを描いたホワイトボードを黒板に貼る)
C: オは,重なっている部分に正三角形がつくられている。
C: ウは一辺の辺の長さの半分に黄色の短い辺をもってくると正三角形がつくられます。
T: (カとキを提示する。)
(予め教師の方で準備する予定だったのだが,本時で子供が導き出したので,子供の考えを使った。)
C: おおっ。その考え,思い付かなかった。
C: なるほど。線を引くと正三角形ができるね。
C: その考え,あり?
C: 条件には,線を引いてもいいとか書いていないよ。
C: でも,線を引いてはだめともかいていない。
C: 線を引くことで,形がつくれることがあるんだね。
T: カやキのように線を引くことで,見えない形が見えてくることもあるということですね。
ちなみに,今日のチャンピオンは,8個見付けた○○さんでした。
(8個は,本時で正三角形を見付けた数である。)

振り返る
T: では,学習して高まったことをノートに書きましょう。
C: 三角定規の角を利用して,正三角形をつくることができた。
C: 線を引くことによって,見えない正三角形をつくることができた。
C: 三角定規には,たくさんの秘密がかくされている。正三角形をつくる以外で,今度は,二等辺三角形をつくってみよう。
C: 正三角形づくりを通して,見る目が広がったようだ。


(5) 成果

 三角定規の 60°・ 30°の角を利用して,正三角形づくりに取り組んだ。本時は,正三角形の 60°という角をどのように導き出すのかが鍵である。そのために,配付した三角形を合わせたり,重ねたりする作業をすることで, 60°をつくることの意識を高めた。事例ア・イ・ウ・エは,合わせたり重ねたりすることで,目に見える形で正三角形をつくることができる。ウの考えからは,黄色と緑の三角形の一番短い辺を重ねてずらすことで正三角形がつくられるのだが,子供が追究する過程で,一番長い辺の長さは,短い辺の長さの2倍であることを見付けた。この考えは,1:2:√3の辺の長さの考えへつながる。

 事例オは,二つの三角形を重ねることで,正三角形をつくる活動である。透明のクリアファイルを使用しているため,正三角形がつくられたことで,子供たちはある程度の満足をした。そこで,事例カの考えを提示すると,子供たちは,「おおっ。」という歓声をあげた。「補助線を引く」ことで,見えないところに見える形ができたのである。子供にとっては,まさかそこに正三角形が存在するとは,思ってもいなかった驚きである。

 このように,「補助線を引く」ことで,見えないものを見える形にするという視点での発想力を高めるためには,三角定規を使った正三角形づくりを展開することが効果的である。

 また,4年「面積」の学習では,左のような複合図形の面積を求める。この事例では,

 子供たちは,「補助線を引く」ことで,下記の方法で面積を求めた。

1 長方形に分割して求めた。
2 下の図のように補助線を引いて,長方形をつくって,求めた。

 これは,「正三角形づくり」によって,「見えないものを見えるようにする」視点での発想力が高まったからである。「補助を引く」ことで,整った長方形がつくられ,面積が求めやすくなる。

 一本の補助線で全く新しい形が見えるようになる。更にこれを違う形で応用する。このように発想力の高まりは,新たな発想を生むのである。


3.終わりに

 日頃,何気なく手にしている三角定規から,子供の発想力を高めるヒントがまだまだ見つけられそうである。私たちの発想が豊かになればなる程,子供の算数に対する興味は増す。今後も「学びから学びへ」「学びから暮らしへ」と学習をつなげる追究を継続したい。


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