3年
小数の意味をよりよく身に付ける数の意味指導
〜3年「小数」:小数トランプゲームとカードの工夫を通して〜
福岡県糸島地区算数教育研究会
1.小数の意味とは

 「端の大きさを表す数」といった小数の概念だけでなく,小数に関しての,数量や順番を唱える「数詞」,ある数を他の数の組み合わせとみる「構成」,数の大きさを比べる「大小」,ある条件に従って順番に並べる「順序」,たしざん・ひき算の「計算」といった,数を見ていく観点までを含んだもののことである。

2.本実践の主張点

 (1) 数の意味理解の学習にトランプゲームを用いること

 トランプゲームは,子どもたちに馴染みの深いものであり,ゲームの種類が豊富であるため,学習意欲を喚起するのに適している。また,トランプゲームは数字を使ったゲームであるために,ルールに数の意味の観点を使ったものが多く,数の意味を理解していなければゲームができないというように,ゲームを進めていく上で必然的に子ども自ら目的意識を生み出すことができるため,数の意味理解の学習には有効な活動である。


 (2)

 整数の意味理解の学習と同様に単元を構成すること

 整数の意味理解の学習の単元構成は,一般的には次の通りであると考える。

「数詞・仕組み」→「構成」→「大小」→「順序」→「計算」

 小数の意味理解の学習においても,この5つの観点を意識しながら単元を構成すれば,整数と同じ十進構造であることを理解し,整数の中に小数を位置づけて考えていく上で有効であると考える。

3.単元計画(8時間)

配時意味の観点トランプゲーム及びカードの工夫子どもの目的意識
1数詞・
仕組み
カードの工夫:整数値と小数値を混ぜる
 トランプゲームができるように,整数と新しい数について調べよう
2,3構成
(本時)
ゲームの内容:神経衰弱
カードの工夫:
<カード1>
単位小数とそのいくつ分で表示
<カード2>
0.1のいくつ分で表示
 カードの秘密を調べて,神経衰弱ができるようになろう
4,5大小 ゲームの内容:バトル(戦争)
カードの工夫:
<カード1>
数値をマス図で表示
<カード2>
数値を数直線で表示
 カードの秘密を調べて,バトルゲームができるようになろう
6順序
ゲームの内容:七並べ
カードの工夫:「大小」で用いたカード2を使用
 数字のきまりを見つけて,七並べができるようになろう
7計算
(加法)
ゲームの内容:バトル(戦争)
カードの工夫:「構成」で用いたカード1を使用
 勝ったカードの合計を出しながら,ゲームをしよう
8計算
(減法)
ゲームの内容:バトル(戦争)
カードの工夫:「構成」で用いたカード1を使用
 どっちがどれだけ勝ったか考えながら,ゲームをしよう

4.指導の実際

第1時:数詞・仕組みを理解する学習

 整数値と小数値を混ぜたカードを配り,「そのカードでトランプゲームができますか」と問うと,「できる数字とできそうにない数字がある」という子どもの声から,「トランプゲームができるように,0.2,0.7などの新しい数について調べよう」という目的意識が生み出された。この後,整数の十進構造から0.1〜0.9までを順に並べていった後,次にくる数字について交流し合うことで,0.9の次は0.10ではなく1.0であること,また1.0=1であることの理解及び整数の中への小数の位置づけを図った。

第2・3時:構成を理解する学習(本時)

<新たな目的意識の生み出し場面>


1が5個,0.1が1個塗っているから5.1?
 数字カードとカード1を配り,「そのカードで神経衰弱ができますか」と発問した。子どもたちは,数字カードの数値からカード1の数値を予想はするものの,仕組みがよくわからないため,「カード1の秘密を調べよう」という目的意識をもつことができた。
<神経衰弱に熱中する場面>  カードの秘密について全体で交流した後,神経衰弱をした。全体交流で完全には秘密をつかみきれていなかった子どもも,ゲームを通してつかむことができた。

<目的意識の生み出し場面>


 ○はもとになる数で,□はもとになる数が何個ということかな?
新たにカード2を配り,「そのカードで神経衰弱ができますか」と発問した。子どもたちの反応は次の2つに分かれた。

 (1)数字カードをもとに,カード2の数値を予測
 (2)カード1をもとに,カード2の数値を予測

 それぞれの予測をもとに,「カード2の秘密を見つけよう」という目的意識のもと,秘密について全体で交流した。この交流で,子どもたちの思考が深まったのは0.1が51個といったようにいくつ分の数字が2桁になっているカードに出会った時である。

 「0.1が10個で1」というカードを使って説明した子どもの発言で,2桁の数字の小数値も理解することができた。この後,数字カードとカード1を使った神経衰弱とカード1とカード2を使った神経衰弱の計2回戦を行った。

<ゲームのやりやすさから2種類のカードを選択する場面>

 ゲームのやりやすさからカード1か2を選択することで,1が○個と0.1が○個という見方と,0.1が○個という見方のどちらで小数値を判断しているのかという思考のふり返りと,その選択の理由を考えることによるカードの秘密のふり返りを行った。

 7割の子どもがカード1を選択し,3割がカード2を選択した。カード1の選択理由として,「位とそこにある数がすぐわかる」といった,1及び0.1のそれぞれの位に着目できること,カード2の選択理由として,「もとになる数の何個分がすぐわかる」といった,単位小数に着目できることが多く見られた。

第4・5時:大小を理解する学習
 流れは,第2時と同様

 <活動の工夫点>バトルゲームを行う際,カードを同時に出して大きさを判断するだけでなく,数直線シートにお互いの小数値の位置を書き込むことで曖昧な大小判断を確かなものにしていくことと,数直線上における小数値の位置の理解をねらった。

第6時:順序を理解する学習

 「大小」で用いたカード2を使って,七並べを行った。子どもたちは既にカード2の秘密をつかんでいるため,本学習はこれまでの学習の理解度を確かめるものとなった。

第7時:加法を考える学習

 「構成」で用いたカード1を使って,バトルゲームを行った。
 <ゲームの工夫>お互いカード1を1枚同時に出して大きさを競うだけでなく,ゲーム終了後に勝ち取ったカードの小数値の合計を出し,その得点の多い方が勝ちというルールを追加し,カードの枚数では負けても合計点では勝つという逆転の可能性を秘めたゲームにした。2枚のカードを縦に並べて合計を考えている様子から,位を意識していることがわかった。

第8時:減法を考える学習
 流れは,第7時と同様

 <ゲームの工夫>お互いカードを1枚同時に出して大きさを競うだけでなく,どれだけ大きいか差を考え,その差の合計点数の多い方が勝ちというルールに変更して,バトルゲームを行った。数直線シートに記入したお互いの小数の位置の違いから差を計算する姿が見られた。

5.成果と課題

<成果>
単元を通してトランプゲームを用いたことは,「今日はどんなカードを使うの?どんなゲームをするの?」という声からもわかるように,子どもたちの学習意欲を喚起するだけでなく,学習意欲を持続していく上で有効であった。


「ゲームができるようになる=小数の意味の観点を理解できた」ことであり,「ゲームができるようになりたい」という子どもの自然発生的な目的意識が意味の観点の理解を促すことにつながった。


毎時間,カードの数値に小数だけでなく整数も取り扱ったことで,整数をもとに小数を考え,整数と小数を関連させて学習を進めることができた。

<課題>

2人ペアでゲームを進めていく上で,1人がカードの秘密を完全につかめていなくてももう1人の方がつかめていれば,その子のペースでゲームが進んでしまい,秘密をつかめていない子どもは曖昧な理解のままになっていることが見られた。ペアの組ませ方を工夫するなど,学習形態の改善が必要である。


ゲームが学習の中心となっているため,ペアによってゲームの進行速度に差が生じる。同じカードで数多くゲームをこなすことも大切であるが,「違うカードを使ったり,他のゲームがしたい」といったような子どもたちそれぞれの自然な意識を大切にした,個に応じた学習を構築していく必要がある。

6.終わりに

 本実践は,小数→分数と学習していく場合の単元構成である。
 分数についても,同様の単元構成が組めるか,小数と分数の共通点・相違点等など教材研究を深めながら考えていきたい。



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