5年
琵琶湖の水が汚れる原因を探ろう 
〜簡単にできる「家庭排水を使ったプランクトンの培養実験」〜 
滋賀県蒲生郡安土町立老蘇小学校
西川 伸一

1.はじめに

 近畿1400万人の水資源である琵琶湖は,生活排水や農業・工業廃水が流れ込み,ここ30年の間に水質が悪化してきている。(この富栄養化現象は,琵琶湖だけではなく全国各地の湖や池でもおなじ事が起きている。)

 滋賀県に住む子どもたちは,琵琶湖の水が汚れてきていることを知っている。しかし,自分の家から流している家庭排水が琵琶湖の水に溶け,その栄養分でプランクトンが増え,その結果,琵琶湖の水を汚しているということを実感としてとらえている子どもはほとんどいない。だから,子どもたちは家庭排水を減らそうともしないし,自分たちの生活スタイルを変えようともしない。

 そこで,家庭排水が琵琶湖の水を汚す原因となっていることを子どもたちに体験を通して学ばせることができるプランクトンの培養実験を工夫したので紹介する。

2.プランクトンの培養実験のやり方

 (1) 用意するもの

 300mlの三角フラスコ,琵琶湖の水(池の水でもよい。最初から緑になっているものは避ける),家庭から排水として流されるもの(例えば,しょう油,牛乳,みそ汁の汁,米のとぎ汁など)


 (2)

 実験方法

 琵琶湖の水(透明な池の水でもよい)を三角フラスコに50ml入れる。
↓   
 家庭から排水として流されるもの(しょう油など)を1滴入れる。
↓   
 1週間くらい北側の窓に(なるべく直射日光の当たらない窓際)におき観察する。(対照実験としてしょう油を入れていないものと比べる)


 (3)

 結果

 条件がよければ,3日から1週間くらいで透明だった琵琶湖の水が緑色に変化する。しょう油,牛乳,みそ汁の汁,米のとぎ汁などがいい実験結果が得られる。


 (4)

 注意すること

二酸化炭素を供給するために,一日1回三角フラスコをゆすることと水深を深くしないことが必要である。


時期的に6月,7月上旬,9月,10月がよいが,太陽が当たりすぎたり,温度が上がりすぎたりすると実験がうまくいかなくなるときがある。


家庭排水は,1滴(0.05ml)だけ入れるようにする。(家庭排水を加えすぎると腐敗菌が繁殖してしまい,良い実験結果が得られない。)

3.授業の実際

 第1次 フローティングスクールでの琵琶湖学習 (学校行事1時間,1/7)

 琵琶湖水と水道水を比べ,顕微鏡を使って琵琶湖水の汚れの正体はプランクトンあることを確かめた。

 
第2次 理科「魚の増え方」での,プランクトンの学習(1時間)

 琵琶湖のブラックバスは何を食べているのかを考えることから,食物連鎖について考えた。そして,植物性プランクトンは水に溶けている栄養分(琵琶湖の流れ込む家庭排水)で増えているのではないかと予想をした。

 
第3次 家庭排水を用いたプランクトンの培養実験 (2時間,10日間継続観察)

 本当に家庭排水でプランクトンは増えるのかを確かめるために実験を行った。子どもたちは,家庭排水を一滴入れたぐらいでは,なにも変化しないと考えていた。しかし,透明だった琵琶湖の水が日を追うごとに緑色に変わっていき,とても驚いていた。

子どもたちが培養実験の結果をまとめる時の感想

 ・「私がこれまで普通に流していた水でこんなにも琵琶湖の水がきたなくなるなんて知らなかった。これからは気を付けようと思う。」

 ・

「たった1滴と思っていたけど,10日ほど経つとこんなに緑色になっていたので,このまま家庭排水が琵琶湖に流れていくと,琵琶湖全体がアオコや赤潮になるんじゃないかと心配になりました。」

 
第4次 家庭科での「フルーツサラダ」の調理実習 (家庭科3時間)

調理実習での子どもたちの様子

 ・無駄が出ないように1人がどれだけ食べられるかを考えて,買い物をしてきた。また,作ったフルーツサラダはほとんど食べ残しをすることなく,全部食べきることができた。

 ・

調理をしている時は,グループで協力して料理を作り,燃えるゴミと燃えないゴミ,空き缶・空き瓶などを分別して捨てることができた。

 ・

フルーツサラダを食べた後のお皿は,ティッシュペーパーで汚れを拭き取った後,きれいに洗うことができた。

4.おわりに

 ・この家庭排水を使ったプランクトンの培養実験は,とても簡単で子どもたちの予想に反した結果が得られることができる。子どもたちにとってインパクトのある結果が得られる実験だからこそ,「無駄なく作る」「ゴミを分別する」「汚れを拭き取ってから洗う」など琵琶湖の水をきれいにするための行動をとることができたと考えている。

 ・

このプランクトンの培養実験は,川の上流と下流の水にプランクトンの種(プランクトンを培養して緑色になった水)を一滴加えて実験すると,上流と下流の栄養塩濃度の差を知ることもできる。

 ・

このプランクトンの培養実験は,フローティングスクール(滋賀県の全5年生が琵琶湖学習船「うみのこ」に乗り1泊2日で琵琶湖について学ぶ)での琵琶湖学習,理科でのプランクトンの学習,プランクトンの培養実験,家庭科調理実習の4つの学習を組み合わせた,総合的な学習の取り組みとして行ったものである。

5 .引用参考文献

 ・「小学校における水環境学習教材の開発」 西川伸一(1996)滋賀大学大学院修士論文


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