教育改革のとりくみ

児童の個性を生かし,学力向上を図る指導法の工夫
−算数・理科の習熟度別学習を通して−

東京都荒川区立第三日暮里小学校

1.はじめに

 全校児童に自ら学び,自ら考える力を育成するとともに,基礎的基本的な内容の確実な定着を図り,個性を生かす教育の充実を図ることは,新学習指導要領の教育課程編成の一般方針に示された教育のこれからの指針を示す内容である。

 本校は,平成7年度よりTT加配の教員を中心としながら,児童一人一人に応じたTT学習を日常的に実施してきた。平成13年度からは,少人数加配の教員に加え,習熟度別学習の講師の加配も受け,よりきめ細かく,児童の実態に応じた指導が実施できる指導体制を確立することができた。

2.研究のねらい

 本来,子どもたちは,常によりよくわかろう,よりよく学ぼう,よりよく生きようとする意欲を持っている。子どもたちの伸びようとする芽を大切に育てることが教師の仕事である。そのためにも,子どもたちがどのように努力すればよいか,その道しるべを示すことが教師としての指導力である。

 本研究では,児童自らが,自分自身のつまずきや課題を自分自身で見つけたり,自分の興味・関心のある課題をさらに深めたりできるように自分の学習状況や課題を自分でつかむ能力(自己評価能力)の育成を研究の中核に据えながら研究を進めてきた。そして,算数,理科という2つの教科を通して,児童の習熟の度合いに応じた学習(習熟度別学習)を実践し,児童の個性を生かし,学力向上を図る指導の工夫を試みた。


3.本校の習熟度別学習

 本研究でとらえている習熟度別学習とは,児童の学習内容の習熟の度合いに応じた学習である。1クラス40人近い子どもたちの学習内容の習熟の度合いは,かなり幅広いものがある。最低限の目標である学習指導要領の内容まで習熟ができない児童から,はるか優れた能力を持ち学習指導要領の内容まででは飽き足らない児童も存在する。このような多様な児童の実態を画一一斉の授業で同一の到達目標を持つ授業を構成することは,落ちこぼれをつくるとともに,伸びこぼしもつくることにつながる。そのためには,基礎基本の習得をねらいとする本単元の学習も単一ではなく複線型の授業を構成し,児童の学び方や,理解の速さ等,児童の学習スタイルに応じた少人数学習集団に応じた授業形態が必要となる。また,単元末では今までの学習内容の習熟の程度を自ら振り返り,基礎的基本的な内容の習熟の足りない児童には復習・補充的な内容,十分習熟している児童には学習内容を発展させた内容に取り組ませ,児童それぞれ力をさらに伸ばそうと考えた。本研究では算数の全時間を通して児童の習熟の程度に応じた学習を実現させようと考えた。単元途中の学習スタイルに応じた小集団学習をコース選択学習と呼び,単元末の補充・発展学習を課題選択学習と名付け,いずれも児童の自己評価をもとに児童自身が自分の習熟の度合いに応じた課題を選択させるものとした。


  (1) 学習スタイルに応じたコース選択学習

 授業を進める中で,児童は様々な個性を発揮しながら学習を進める。今までの学習指導では,このような児童の様々な個性に対応することなく画一一斉に1クラス1展開の授業を行ってきた。しかしながら,教師の提示する展開に合った児童はよいが,当然合わない児童も出てくる。本研究では,学習における児童の個性を探り,その個性を生かした学習指導のあり方を探り,それぞれの個性を生かす少人数集団にわけ,複数の教師がそれぞれの少集団を指導することできめ細かな指導の実現を図ろうとした。

 各単元の学習では,解決の見通しがつかない児童が教師のきめ細かな支援でじっくり考えるコースとして「じっくりコース」を設定した。解決の見通しがつくが不安な児童には,教師のヒントや児童同士の情報交換から,解決の見通しを確実にするコースとして「ヒントコース」を設定した。さらに,解決の見通しが,最初の段階から確実につく児童には,「興味・関心」や「思考・判断」を伸ばし,発展的に取り組ませるコースとして「自力コース」を設定した。

 コース選択の場面では,ふりかえりカードを活用した。「ふりかえりカード」は毎時間末,「どんなことがわかったか」「誰の考えがよかったか」「どんなところでわからなくなったか」などを記述させ,一時間一時間の習熟の程度や,次時の課題を明確にし,適切な自己評価のもと,自分に合ったコース選択ができるようにした。
 一方,教師は,毎時間の授業を評価計画に沿って,4観点の評価基準表から,児童一人一人の学習状況を適切に評価し,個人データ表を作成した。データ表とふりかえりカードを合わせながらコース選択のアドバイスをした。コースを分けることで,児童一人一人が自分の学習スタイルに応じた学習ができきるようになった。また,教師は,児童の個性にあった,よりきめ細かな支援ができるようになった。


  (2)

 自己評価を生かした単元末の課題選択学習

 小単元末,単元末において基礎的基本的な内容の習熟が不十分な児童には,「復習」を中心とした課題を用意し,教師とじっくりと取り組めるようにした。
 また,学習内容の習熟がある程度図れている児童には,学習の定着の範囲を広げる「補充」課題を用意し「表現・処理」,「知識・理解」の2観点をさらに伸ばせるようにした。学習内容が確実に理解できている児童には,発展を中心とした課題を用意し,学習内容によっては,学習指導要領を超えた内容を含む課題を工夫し,児童の「興味・関心」や「思考・判断」の能力をさらに伸ばそうと考えた。復習課題を「ぐんぐん」,補充課題を「ばりばり」,発展課題を「チャレンジ」と名付けた。

 それぞれの課題選択は,「ふりかえりテスト」によって児童自身が選択する。一方,教師は,個人データ表とふりかえりテストを基に「復習」・「補充」・「発展」の課題を作成したり,適切な課題選択ができない児童にアドバイスしたりした。「課題選択学習」を通して一人一人の習熟の程度に応じながら,児童一人一人の学力の向上を図ろうと考えた。


4.評価規準及び評価基準の設定

 本研究では,国立教育政策研究所の評価規準を学習内容の基礎基本ととらえ,その内容をさらに分析し,学校独自の評価基準を作成した。本校の評価基準では,Bを「学習指導要領の内容」とし,Cを「学習指導要領の内容の習得まであと一歩」Aを「学習指導要領の内容を超える内容を含む」ものと設定した。基本的には,どの児童にも基礎基本を身につけさせたいとの願いから,全児童がB基準以上になることを目標とし,C基準の児童のために復習課題を設定した。また,B基準の児童には,より一層の学習内容を確実にさせるために補充課題を設定し,さらに,学習内容の理解が確実にできる児童のためには,さらに知的好奇心を喚起できる発展的な課題を設定した。


5.選択学習と自己評価能力の育成

 冒頭でも述べたように本研究の特徴は,児童の自己評価能力の育成である。単元途中のコース選択学習,単元末の課題選択学習という2つの選択学習を児童の自己評価をもとに児童自身に選択させるところにある。

 自己評価能力を伸ばすために,本研究では毎時間の学習のふりかえりを大切にし,毎時間「ふりかえりカード」を記入させ,1時間1時間の習熟の程度や次時に取り組む課題を明確化し,適切なコース選択ができるようにした。また,単元末には「ふりかえりテスト」 (形成的評価)を実施し,実施後,児童自身に自己採点させて,学習内容の習熟の状況をつかませ,その結果をもとに課題選択させるようにした。また,コース選択学習,課題選択学習では1時間内でのコースや課題の移動を自由に認め,選択の誤りを児童自身で修正したり,自分の課題をクリアーしたら次の課題に挑戦したりできるようにした。

 教師は毎時間の「ふりかえりカード」に目を通し,各児童にコメントを付け加えながら,児童の学習の状況を細かくチェックしながら,児童の選択するコースや課題に無理がないか実態をつかんだ。また,必要がある場合は,選択したコースや課題の変更について指導を行った。


 評価基準に準拠しながら教師は児童を評価し,児童は自己評価によって自分のコースや課題を選択する。このように本研究では児童の自己評価と評価基準に準じた評価を車の両輪としながら評価と指導の一体化を図ろうと考えた。
 具体的な実践事例は以下のHPへアクセスされたい。


6.成果と課題(○成果 ●課題)

  ○児童の実態に応じた学習の工夫が可能となった。コース選択学習・課題選択学習を工夫することにより,児童の個性を生かし,学力向上を目指した小集団グループ別指導が可能となった。

  ○

児童の自己評価能力が高また。児童の学習のふりかえりを大切にし,学習習慣とすることにより,児童のコース選択・課題選択能力が高まり,自分のつまずきや課題を的確につかむことができるようになった。

  ○

評価と指導の一体化が図れた。評価基準に基づく教師の共同評価や,児童の自己評価をもとに,個に応じたきめ細かな指導ができるようになった。

 残された課題としては

  ●評価基準におけるA基準の問題。A基準をどの程度に設定するか,そのための発展問題をどのように工夫するかは課題である。

(参考文献)
個性を生かす授業と課題選択学習の展開 新算数教育研究会編集 東洋館出版社
基礎基本の徹底と個性を生かす課題選択 江戸川上小岩第二小著 東洋館出版社


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