教育改革のとりくみ 目次
 
「生きる力を育み学校改善をめざす朝の読書」〜市内全小・中学校で取り組む朝の読書〜

神奈川県綾瀬市立小・中学校

I はじめに

 綾瀬市では平成13年度から,市内の全小・中学校(小学校10校,中学校5校)全学級で朝の読書を始めた。6年目を迎えた現在も継続している。そこで,その概要と成果などを述べてみたい。

 平成13年は,新教育課程の全面実施に向けて準備が進む中,学校改革が高まりを見せ始めた時期であった。このような折,綾瀬市公立小・中学校校長会はともに,「校長として指導性を発揮し,生き生きとした教育の実現と時代の要請に対応できる教育の創造を図ること。」を願いとしていた。そこで,校長のリーダーシップを発揮させながら「全校朝読書」を行うことを通して,児童生徒の生きる力の素地を養うとともに,新しい学校づくりを進めることをねらいとして,平成13年度から本実践に取り組んだ。


II 取り組みの意図

 校長の大きな願い(課題)は,児童生徒の生きる力の育成にあった。また,それが実現できる教育環境の充実である。その二つの課題の解決に迫る視点として「朝の読書」を取り上げた。時代が進展しても読書がもつ有用性は高い。21世紀を生き抜く力として,活字と生活を共にしながら自らを高めていく人間を育てたい。そのためのきっかけと習慣化の窓口として,朝の読書全校実施を考えた。それと同時に,この朝の読書という新たな取り組みを,校長がリーダーシップを発揮して行うことにより,新しい学校づくりをめざした学校経営基盤の確立が図られるものと考えた。


III 朝読書実施により考えられる効果

  1 生きる力を育む手だてとして
    (1)読書を生きる力を育む基礎基本の一つとして
     科学技術が進歩し社会がいかに変化しようと,これからの社会を生きる力として,文章を読み取ったり文章によって伝えたりすることは,重要な要素であろう。さらに,情報化が発達すればするほど,読み取りや表現能力の高度化・高速化が要求されるし,集中力や落ち着きなども必要となる。読書はそれらの要求される力を充足してくれる古くて新しい漢方薬的存在であると考えた。
    (2)学校週5日制の有効活用と学びの継続に視点から
     平成14年度から完全実施された学校週5日制を視野に入れ,自分の時間を目的意識をもって有効に活用できるためにも,また学び習慣の継続にも読書は役立つと考えた。
  2 学校経営充実のために
    (1)学校の「小回りが利かない,すぐ実践できない」弊害の改善
     激しく変化することが予想される今後,学校改善も新しい学校づくりも,この弊害を改善しない限り著しい進展は期待できない。朝の読書全校実施は,校長会の発案として行うもので,これからの学校には校長のリーダーシップが必要なことを,全教職員に意識づけるにもよい機会になるものと考えた。
    (2)学校運営組織の活性化と家庭教育力の向上
     学校経営を充実させるには,学校運営組織が有効に機能する必要がある。朝の読書の取り組みを通してラインやスタッフがより緊密に連携したり,企画会議が充実したりできるものと考えている。また,学校がこのように先進的活動の発信拠点になることによる保護者・地域からの信頼確保や,読書に親子で取り組むことによる家庭の教育力向上を含め,学校・家庭・地域が一体となって学校経営の充実が図れるものと考えている。
  3 綾瀬市全小中学校で実施する意義
     朝の読書は全国的に行われている。しかし,学級・学年あるいは学校単位で行われているケースが多い。綾瀬市で平成13年度から始めた朝の読書は,学校ぐるみでしかも小中全15校で実施したものである。「子どもの育ちは環境に左右される。」とよくいわれるが,全体の環境をよくすれば,そこから育つ児童生徒はよりよく育つはずである。また,家庭や地域の教育力も市ぐるみで向上するはずでもある。
   
子どもたちのよりよい育ちと学校経営改善への効果を願って始めた朝の読書であるが,実施以来6年が過ぎようとしている。現在も朝の10分読書は継続している。落ち着きと静寂の中で,今日も1校時目の授業が行われている。
   
小学校校長会では,実施後2カ年にわたって教師・児童・保護者にアンケート調査を行った。
次に掲載するのはその結果である。

IV アンケート調査結果の考察(小学校)

  1 教職員アンケートの結果から
    (1)教師は朝読書の必要性を認めている
   
   ほぼ全員の教職員が,読書の必要性を認めている。認識はしていても具現化できないのが学校である。生きる力の育成に向けて,学校経営の中で読書の充実に向けて,校長としてどのような手だてをとっていくかが課題である。
 90%以上が朝読書の必要性を考えている。これだけの教職員が積極的にかかわれば,私たちの研究も前進すると考えられる。14年度「必要ない」の回答は2名に減った。「その他」は8%に増えたが,消極的意見ではなく,非常に必要であるとの意見を記述したものがほとんどであった。言い換えれば97%の教職員が,朝読書の必要性を認めていることになる。  
    (2)教師は朝読書の有用性を認めている
   
     「特に変化ない」の回答は2カ年とも2%(4名)であった。これは上の設問で「必要ない」の回答率に相当する。それよりも,98%の教職員が何らかの効果が現れている,ととらえていることがわかる。特に,複数回答で選んだ項目数に着目すると,13年は276項目で1人当たり1.3項目,14年は1人当たり2.5項目と昨年の倍近くに達している。このことは,1年間の実践によりこれだけの効果を見いだしたということである。私たち校長がリーダーシップをとって実施した「朝の読書」が,教職員の目に見える形で効果を現してきたということが言える。
  2 児童アンケートの結果から
    (1)子どもは読書が好き
   
   「すき」が1年間の実践で4ポイント増加した。「きらい」は変化なしである。少しずつでも「すき」をふやしていくことが重要である。
   
     読書が好きな理由は多岐に渡っている。14年度のベスト3は「楽しいから」「知らないことがわかるから」「想像できるから」である。13年度に比べて14年度のポイントが下がっているのは,たくさんの項目を選択するようになったからと考えられる。また,1人あたりの選択項目数が13年度が1.4項目に対して14年度は2.1項目であることは,読書に対する興味関心が広がってきたことを意味するものと考えられる。12ポイントいることは,読書が子どもの想像力を伸ばすために有用なこと示す数値であると考えられる。
   

 3ポイントではあるが「ほとんど毎日読書している」が増加している。「読んでいない」がその分減っている。息の長い取り組みとなるが,読書に親しみ読書が習慣化されるよう取り組みたい。
    (2)子どもも朝読書の必要性を感じている
   
 昨年度と比較して「大切」が11ポイント増加し,「大切でない」「わからない」がともに減少している。
     朝の読書の体験を通して,読書の必要性を感じ取ってきた児童が,増えてきたことを物語っている。この11ポイントは綾瀬市の児童数約500名を意味する。
 「ある方がよい」が21ポイント(綾瀬市の約950名の児童)に激増し,「ない方がよい」「わからない」「その他」が半減していることに大きな意味がある。朝読書(読書)に興味を向けなかった児童も,積み重ねによってその良さやおもしろさを実感してきたととらえる。「わからない」が激減していることからもそのことが言える。この数字は児童ばかりでなく,保護者の理解もかなり進んでいることを意味すると考える。いずれにしても食わず嫌いでなく,多様な体験が児童には必要なことを示しているととらえることができる。
   
 「時間を長くしてほしい」ということは,朝読書や読書に対する興味関心が高まってきていることを表していることを示している。さらに,1人あたりの選択項目数も13年度は2.0項目であったが,14年度は2.7項目に増えていることは,それだけ朝読書を積極的に受け止めようとしている表れと考えられる。
  3 保護者アンケートの結果から
     平成14年3月,小学校長会では全校の学級担任の協力を得て,市内全約3,200家庭にアンケート調査を依頼した。標本数は2,201人であった。回収率では80%を超えた学校が2校あるなど全体で約70%ということに,朝読書に対しての関心あるいは学校教育に対しての保護者の期待の大きさを感じた。
   
  「保護者も子どもの読書を大切と考えている」

 「とても大切」「大切」を合わせると,ほぼ100%の保護者が読書に対して前向きな姿勢を示している。このことは学校に対する保護者の願いの表れでもあるといえよう。保護者の願いに応えることは学校の使命でもあり,校長のリーダーシップを発揮して,読書を核にしながら教職員への指導と外部へのPRを行い,学校経営の充実を図りたい。
   
   この回答は,保護者が我が子に託す願いと受け止められる。集約すると1知識 2考える力 3読み書き能力 4洞察力 5落ち着きの順であるが,その他の記述の中には,「読書は楽しい」「心豊かになる」「思いやりが育つ」「想像力豊か」「書物から学べる・教えられる」「視野が広がる」「感受性が豊かになる」など,人として育つための基礎基本が表現されている。このことからも学校は,保護者の信頼に応えるためにも,次代を生き抜くことができる子どもの育成を実現することが重要な課題である。
   
   保護者の読書に寄せる期待が大きいことはわかったが,実際に親子で読書の時間を定期的に確保している家庭は少ない。しかし,その他の記述の中には「毎晩読んでいる」「親が熱心に読んでいると子どもも一緒に読む」「子どもの前で読むように心がけている」「家族みんなで集まる形で読む」など,積極的に関わりを持っている家庭もある。また,「これからは子どもと一緒に読むことに意味があるので,できるだけ実践しようと思います」との意見もかなりあった。親子読書は,今問題視されている家庭の教育力の向上や,親子の会話の充実,親子の意思疎通などに効果がある。PTAなどに働きかけて,この親子読書が充実することにより,学校教育の一層の充実が図られると考えている。
   
   朝読書を前向きに捉えている保護者は,96%に及んだ。読書に寄せる願いと,それを具現化するための学校への願いの高さを感じさせる。このことの実現は,学校の信頼を高めることにも,学校と保護者とのつながりを深めることにも役立っていくと考える。その他の記述の中には,「朝読も必要だが,読み聞かせもしてほしい」「活字離れが多い中,続けてほしい」「毎朝続けてほしい」などの意見も寄せられている。
     問12の「朝読書についての自由記述」には818人の保護者から回答を得ることができた。標本数2,201人の37.2%に及んだ。このうち,朝読書を評価していただき「よい機会・効果がある・続けて・増やして」などの記述が44%,効果が出ている「読書好きになった・読書量が増えた」などが29%,意見として「市立図書館の充実・本の紹介をしてほしい・読み聞かせも大いに・子どもへの願い」などが26%で,朝読書に対する批判は1%であった。この自由記述の内容は,研究への勇気と大きな示唆を与えてくれた。


V 実践の成果(中学校として)

  1 小中学校全15校での実践の意義
     中学生も自然体で,朝の読書を行っている。入学したての1年生が言われなくても,朝の時間に本を開き読書している。中学校の教師は,「小中学校が一貫して全校で取り組むと,こういう具合に表れるんですね。」「1時間目の授業にすんなりと入れます。」と語っている。中学生も,「集中力が付きました。考え方が変わってきました。読書することはよいことです。」などと話している。
     生徒の一層の育ちを願って,校長のリーダーシップを発揮させて取り組んだ朝の読書だが,生徒に対する効果だけでなく,学校ぐるみで学校をよりよいものにしようと,一丸となって取り組んだ実績は現在,校内研究の活性化や新たな学校運営組織と教員の新たな職による学校改善に生かされていると言ってよい。
  2 校内研究の活性化
     朝の読書全校実施翌年の平成14年度,K中学校が市教育委員会の生涯学習研究推進校に指定された。現行の学習指導要領が全面実施された年である。教科の学習内容が3割削減されたことに学力低下を心配する声があがった時期である。
     そこでK中学校では,学習指導要領の「生きる力」を生涯学習の基盤となる力と捉え,評価のあり方や学習指導法の工夫改善の研究を通して,生徒一人ひとりに確かな学力を身につけさせることをめざし,これからの社会を主体的,創造的に生きることができる生徒を育てることをねらいに,「主体的,創造的に生きる生徒の育成」(確かな学力を身につける評価と学習指導の工夫)をテーマに,2年間の研究に着手した。
     研究の方針は次の図に示すような,学習指導要領の分析から総括的評価に至るまでの,評価活動の手順についての共通理解を図り,教科ごとに研究主題を設定し,評価観から見た学習指導法の工夫改善である。端的に言えば,各教科で年間指導計画・評価計画(シラバス)を作成し,評価方法や指導法の研究と実践を行うものである。
     K中学校の推進指定は平成15年度をもって終了したが,平成16・17年度推進指定校になったA中学校は,この研究を引き継ぎさらに充実させた。また,平成18・19年度推進指定校のR中学校は,さらにその成果と課題を引き継ぎ,一層充実した評価のあり方や指導法の工夫改善に向け,校内研究に学校一丸となって取り組んでいる。
     推進指定が終了したK及びA中学校では,現在も評価と学習指導法の工夫のさらなる改善に向け,研究に取り組んでいる。K中学校では現在,シラバスの見直しを行う一方家庭配布により,生徒の学習意欲や見通しと目的意識等を高めようとしている。また,教科部を母体として研究していた体制を,平成16年度の研究を経て,研究母体を教科部から4つのチームに変更した。教科主体から,教科の枠を外してテーマごとのチーム編成にしたのである。中学校では教科色が強いが,指導法等の一層の工夫改善のために,あえて教科の枠を越えた研究体制を作った。
   
  研究チームのテーマ及びメンバー
 
Aチーム
   
メンバー 数学 理科 社会 数学 理科 (5名)
テーマ 「授業に生きるシラバスの研究」
内 容 等
授業の中でのシラバスの生かし方
シラバスの見直し
子どもとの関わりの中での目標の明確化
自己評価など
 
Bチーム
   
メンバー 国語 英語 数学 理科 体育 社会 (6名)
テーマ 「授業での学習意欲を高めるための動機付けの工夫」
内容等 動機付けの工夫を指導案の中に明示(指導計画の中に明示)など
 
Cチーム
   
メンバー 音楽 体育 保健 英語 美術 養護 (6名)
テーマ 「学習者の実態をとらえる」
内容等 生徒の実態を記録できるような用紙を作成し,その内容の研究など
 
Dチーム
   
メンバー 家庭 技術 英語 国語 特学 数学 (6名)
テーマ 「リフレクションを意識した授業改善」
内容等
リフレクションの情報収集
リフレクションシートによる振り返り
授業改善等
     
     年2回の公開授業週間を含め全教員が研究授業を行い,外部参観者も含めて授業公開とともに研究会を実施している。教科の枠を外したことにより,より多角的に授業をとらえたり評価を行えたりできるので,指導法の工夫改善に効果がある。

 校長は,学校経営ビジョンを示すとともに,研究全体のリーダーシップをとっている。
  3 新たな学校運営組織と教員の新たな職の充実に向けて
     神奈川県教育委員会は,平成18年度から従来の校務分掌組織に替えて,カテゴリーごとのグループ制による新たな学校運営組織の導入を実施した。それと同時に従来の教務主任を廃止し,総括教諭(新たに3給職)の職位制度を(教頭と教諭との間に)新設した。
     綾瀬市立中学校は,平成17年度に校長会がリーダーシップをとり,次年度からの本格実施に向け,これらの制度が有効に機能できるために,自主的に学校運営組織研究会を立ち上げるなどして積極的な姿勢で臨んだ。メンバーは校長・教頭,旧教務主任が各5名と中学出身の指導主事数名であった。7月から3月まで毎月の休日を使い研究協議や研修を行った。
     このように校長のリーダーシップによる取り組みにより,新たな組織や制度が綾瀬市では有効に機能し始めている。平成18年度に2名であった総括教諭は,平成19年度には4名となる。本年度も学校運営組織研究会は継続して活動しているが,メンバーは校長・教頭が各5名,総括教諭が10名,中学出身指導主事が数名と人数は拡大した。現在までに各学校の現状を振り返り課題を見つけるとともに,次年度から総括教諭4名への対応と一層の充実に向けて,研究活動を続けている。

VI 今後へ向けて

 今後の教育界における改革は激しさを増すであろう。

 しかし,どのような改革があろうと,私たち教師は子どもへの熱い思いを抱き続け,その実現に向かって実践をすることが大切である。とかく改革の波に流されそうになるが,まずは踏みとどまり,状況をしっかり把握しながら先を見据え,適切な判断の下に行動することが必要であろう。厳しい状況下,励む教師を支え,先頭になって率いるのは校長である。したがって校長は,揺るぎない信念と教育理念をもって絶えず研鑽し,これからの時代を迎えねばならない。

 次に資料(1・2)として示すのは,平成18年度の2校の学校運営組織表である。基本は学校運営組織研究会で作成したが,各学校の実情により細部は学校ごととなっている。

資料1


資料2



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