梵天の塔
−コンピュータとティーム・ティーチングの活用を通して−
船橋市立葛飾中学校
佐藤 公康
1.生徒の実態
 今年度,葛飾中学校に転任してきたばかりでまだわからないことが多いが,明るくきちんと挨拶ができる生徒がほとんどである。
 教科に関しては,生徒の意識を調べるために,まず,意欲調査を抽出の学級で実施することにした。その結果,数学が好きであると考えている生徒が54%,また,数学がやさしいと考えている生徒が28%,数学を勉強すると答えた生徒が80%であった。このことから,数学は好きであるが難しいと考え,勉強している生徒が大半であることがわかった。実際,授業をはじめてみると,目を輝かせて真剣に取り組む姿に感銘を覚えた。授業を進めていくにしたがって,ほとんどの生徒が自分なりの解き方で答えを導き出すことができ,感心させられた。このことから,個々の生徒をさらに伸ばすには,友だちの考えのよさを認め合い,それを,次の時間に生かしていけるような指導(「学習の組織化」と言うことにする)に心がけていきたいと考えている。

2.教材観
 先に文部省が実施した新学力観についてのテストの結果では,「自分で考え,表現する力」が不足しているという点が指摘された。この「自分で考え,表現する力」を養うための有効な教材の1つとして課題学習が考えられる。
 この問題は,インドの物語「梵天の塔」を題材とした教材である。本時では,この問題を解決するにあたり,その段階に応じて積極的に問題を解決しようとする態度を育成していきたい。学力下位の生徒は,4枚ないし5枚のときに最低移動回数を,板の移動を用いた教具を通して体験できればよい。学力中位の生徒は,教具を使いながら規則を見つけだそうと表にまとめ,考えられればよい。学力上位の生徒は,表にまとめることを通して簡単に計算で求める方法まで考えさせる。このように,それぞれの段階の生徒に応じて問題の解決を要求できる。また,板の枚数と移動回数の関係の規則については,学力下位の生徒にも十分に理解できる内容であると思われる。
 この課題を扱うことに関しては,コンピュータを利用することとする。それは,生徒の興味・関心を高めるために活用する。また,コンピュータに最低移動回数が表示されることで,生徒に関数的な見通しをもたせるためにも有効である。そして,この授業では,ティーム・ティーチング(以下,T・Tと表す)を活用することにより,コンピュータの操作や個々の進度の違いに応じた支援ができる。
 この問題を通して,数学に関する興味・関心を高めると共に,思考力を養う1つの手段と考え指導していきたいと考えている。

3.指導のねらい
(1) 物語の中にある数学に関係する教材を通して,問題解決に対する興味・関心を喚起する。
(2) 教具やコンピュータを使って自ら考え,表現する態度を養う。
(3) 一見複雑に見える問題でも,関数的な見方に注目することにより,その考え方の有用性に気づく。

4.授業の実際
学習過程学習活動と教師の支援評価・留意点・資料
問題提示
  (15)
 「梵天の塔」 −今も続く山中の勤行−
 ベナレスのバラモン教の大きな寺院の庭で,1人の僧侶が大きな梵天像の前で「世界の終わり」という問題の勤行をしているというのです。それは,ダイヤの柱に64枚の金の円板がさしてあって,その黄金板を次の3つの掟に従って,一方の柱に移していく作業です。
 <移動の掟>
(1) 円板を動かすのは1度に1個
(2) 小さな円板の上に大きな円板をのせてはいけない。
(3) 円板の移動には,他に1本の補助柱を使うことができる。この掟に従って64枚の黄金板を,他の柱に移し終えたとき,この世界は滅んでしまうというのですが,「世界の終末」はまだまだというのです。そんなにかかるものなのでしょうか。今,この操作の回数について考えてみましょう。
<資料>プリント
・プリントを配って問題を読ませる。
 本時の流れを説明する。<資料> コンピュータソフト
・生徒は前に集める。
・やってはいけない例も見せる。
1:ルールの説明
 コンピュータで,2枚のときと3枚のときをやってみせる。
2:T1の説明を教具で実演する。
コンピュータを使って,3枚の場合を練習してみる。
1:机間指導で,操作やルールの確認をする。2:机間指導で,操作やルールの確認をする。
問題解決
  (32)
課題に取り組む。<評価1>
 積極的に取り組んでいるか行動で評価する(関心・意欲・態度)。
<資料>アクリル板
・補助教具としてアクリル板を使用する。
・1人がコンピュータ,もう1人がアクリル板を使う。
1:4枚,5枚の場合を最低移動回数を目標に作業をしてみることを指示する。

1:机間指導でルールが飲み込めない生徒を指導する。

2:アクリル板,フロッピーを配付する。

2:机間指導でルールが飲み込めない生徒を指導する。

12枚のときの移動回数を求めてみる。
 円板の枚数が6〜10枚までのときの移動回数を,コンピュータの画面を通して予想しながら調べ,12枚のときの移動回数を予想する。<資料>プリント
・予想と実際の移動回数が書き込めるプリントを配る。
1:5枚までできた生徒にプリントを配付する。2:5枚までできた生徒にプリントを配付する。
 ○予想される生徒の反応
<評価2>
 自分なりの方法で考えているかノートで評価する(考え方)。
・T1 ,T2 で連絡をとり,生徒の考え方を確認し合う。
1:机間巡視で考え方のアドバイスと指導をする。2:机間巡視で考え方のアドバイスと指導をする。
12枚のときの移動回数を発表する。<評価3>
 関数的な見方をすることができるかノートで評価する(考え方)。
  
簡単に計算で求める方法を考える。
枚数回数枚数 回数
12=2117128=27 127
24=2238256=28 254
38=2379512=29 511
416=2415101024=2101023
532=2531112048=2112047
664=2663124094=2124094
 枚数をnとすると,回数は2をn回かけて1をひく。
・移動回数だけでなく,考え方についても聞いてみる。
・「2−1」の式については無理に出さない。
・考え方に早く気がついた生徒には,梵天の塔の問題を考えさせる。
まとめ
  (3)
 実際には実験することが困難であっても,関数的な見方をすれば解答を得ることができる。
 264 →約1844京
*1秒で1回動かすとすると,約5800億年かかる。
・実際には実験が困難な課題であっても,関数的な見方をすることにより解決できることを強調する。

5.生徒の反応・感想
 生徒が,コンピュータのソフトに関心を示し,興味深く,熱心に机に向かう姿が印象に残った。また,補助教具を利用した生徒も,実験をすることで問題の意味を確実に理解することができ,問題の解決に積極的に取り組んでいた。
 <Aくん>
 昔の人は,こんなに難しい問題をなぜ考えたのか疑問に思いました。この授業を通して,数学を利用することのよさや面白さがわかりました。これからの数学の授業を楽しみにしています。
 <Bさん>
 2人の先生が,コンピュータや道具を使って問題を丁寧に教えてくれて,よく理解できました。私は,数学は難しいと考えていましたが,複雑な問題ほど,うまく考えれば簡単にできるのではないかと思いました。

6.成果と課題
(1) 「梵天の塔」は,ねらいを達成するためには有効な教材であることがわかった。
(2) コンピュータだけでなく,補助教具の発想が手助けとなり,生徒一人ひとりが積極的に取り組むことができた。
(3) T・Tの動き方は難しいが,教師の分担を明確にすることによって,個々の生徒のよさを生かすことができた。
(4) 個に応じた指導方法の1つとして「学習の組織化」は重要である。
(5) T・Tを活用した有効的な指導方法を,さらに工夫する必要がある。
(6) 生徒が興味をもてる教材やコンピュータソフトを開発する必要がある。
(7) 問題解決学習を中心とした「学習の組織化」をさらに進めていく必要がある。

前へ 次へ

閉じる