授業実践記録

「基礎・基本」の定着を目指した授業〜生き生きととりくむ問題解決学習の実践
鹿児島県大口市立大口中学校
外園 賢一

1.はじめに

(1)学校の概要等

 本校は,宮崎県・熊本県に隣接する大口市にある。盆地になっているので,気温が,夏は30℃を超え,冬は0℃を下回る鹿児島県の中では寒いところで有名な地域である。平成17年度の卒業式は,3月14日に行われたが,雪の舞う中 white graduation となった。

 全体的に見ると,素直で無邪気な生徒が多い。また,学校行事に対しては,企画・運営から生徒会が中心となり,意欲的にとりくんでいる。男子の集団演技「ヤンハ」女子のマスゲーム「まつり」有志による「大中ソーラン」は,生徒たちの力だけで先輩から後輩へ受け継がれている。

 しかし,学習に対しては,受け身になっているところも見られ,特に家庭学習では時間をかけられる生徒とそうでない生徒の差が大きい。平成17年度の生徒数は,1年生107名,2年生96名,3年生105名合計308名である。


(2)数学に対する生徒の実態

学期末の生徒に対するアンケートでは「数学が好きですか?」という質問に対して「好き」と答える生徒が7割程度いる。
系統性の強い教科のため,中学校入学時から大きな差がある。
すぐに答えの出る問題,例えば,計算問題や平行線の性質を利用した角度の問題などには集中してとりくめるが,文章題や図形など思考を必要とする問題はあっさりと諦めてしまう生徒が多い。
授業の態度はとてもいいが,とりくみが積極的ではなく消極的な場面も見られることがある。

2.研究のテーマ

生き生きととりくむ問題解決学習の指導法はどうあればよいか。

 一人一人の子どもが生き生きと主体的にとりくむためには,自ら進んで学習に参加して,課題を発見し,既習の見方・考え方をもとに,自分なりの方法で学習を進めていくことが大切である。
 そのために,「生き生きととりくむ問題解決的学習」を次のようにとらえた。

 子ども一人一人が,課題を明確につかみ,自分なりの見方・考え方をもとに,学習の目的や内容,方法を自覚しながら追求していく過程を通して,発見の喜びや達成感・成就感を味わい,次の新しい課題を発見し,新たな意欲を持って挑戦していこうとする学習。

 研究テーマをもとに,授業の過程ごとに次の研究仮説を立てて,とりくんだ。

3.研究仮説

(1)導入の段階

 課題意識を引き出す課題設定の場を工夫すれば,一人一人が見通しをもって課題解決に生き生きととりくむのではないか。

(2)展開の段階

 磨き合い高め合う場を工夫すれば,子ども同士が相互の見方・考え方を確かめたり,補い合ったりして,自分の考えの内容をより深めていけるのではないか。

(3)まとめの段階

 追求意識が持続するような評価活動をすれば,子ども一人一人が,出来る喜びを感じ,次の課題への意欲を持つのではないか。


4.実践

(導入の段階)では,「課題設定や問題提示の工夫」に視点を置いてとりくんでみた。

1年生「正の数・負の数」
正の数・負の数の加減・・・・・・トランプゲーム

ダイヤの4 スペードの3  
2枚のトランプで勝ち負けを決める左の例では,ダイヤ4とスペード3で−1(−4)+(+3)=−1

 初めは,2枚ずつで,慣れてきたらトランプの枚数を増やしていく。更に,慣れたら,点数表をつけさせて,合計を計算させる。(下のような表を作り,グループで活動させた。
1回戦 2回戦 3回戦 4回戦 合 計
ナマエ          

3年生「式の計算」
多項式の因数分解・・・・・・具体物の利用

x
x2
  x
 
    x        
x2 ・・・ 大きな正方形
  x ・・・ 長方形
  ・・・ 小さな正方形
の3種類の厚紙を生徒に配布し,最初は一人で,長方形を作らせる。その後,進み具合を見ながら,グループ活動に変えていく。長方形ができたら,縦の長さ・横の長さを探し,長方形を求める式を作らせる。

 
 
 
 
x2 ・・・ 1枚
  x ・・・ 5枚
  ・・・ 6枚
 
 

 

(x+2)
     
 
 
  答 (x+2)(x+3)
    (x+3)    

 「三平方の定理」でも,パズルを利用して,意欲をもって授業に参加させようというねらいで導入に利用してみた。

 上のような活動をとりいれてみたが,その操作活動やゲームが終わってしまうとすぐに,今まで楽しそうにとりくんでいた様子がなくなり,話を聞くだけ,ノートをとるだけの反応の見えない姿に戻ってしまう生徒がいた。

 数学の授業に,小学校のような具体的な操作活動を取り入れることで,数学が苦手な生徒・数学が嫌いな生徒も「数学の授業を楽しく受けることができた。」という生徒が何人か出てきた。その中で,更に自分自身で深く考えたり,解決の方法を自らの力で探ったりする喜びを知らせるためのとりくみをしたい。

 (展開の段階)では,子ども同士が相互の見方・考え方を出し合って,内容を深めるという点に力をおいてとりくんでみた。

2年生「図形の調べ方」「図形の合同」

 2年生の図形の分野は,現在の3年生でも,また,過去の卒業生の例でも苦手な生徒が多い。そこで,今年度は証明を書くことよりも言葉で説明させることを重視しながら授業を進めた。

 【 進め方 】
 1つの問題を班ごとに考えさせ,お互いの班の発表(説明)をさせる。
 そして,自分たちの班に足りなかったところや,逆に,不必要なところなどを考えさせ,クラスの意見がまとまったところでノートにまとめる。

 毎時間これを繰り返したいが,進み方が遅くなり,ときどきしかできない。しかし,班で話し合ったり,班同士で検討を繰り返す中で,発表者が心強くなったり,いろいろな説明のしかたを発見したりして楽しく授業に参加できていると思う。

 ただ,これから証明を記述することができるようになるためには,もっと工夫をしなければならない。

1年生「方程式」

 方程式の利用
 1年生は,「正の数・負の数」「文字の式」「平面図形」「空間図形」と覚えることが中心になる内容が多いので,上記2年生と同じようなとりくみを「方程式」で進めた。

3年生「図形と相似」

 相似条件と証明
 3年生は,2年生と同様に図形領域で,生徒一人一人が自分の考えを深めていけるようなとりくみをした。
 しかし,2年生の反省と同じで,その授業のときの楽しさが,練習問題等をする時間まで持続させることは容易ではなかった。練習問題に入った途端に,「わからない」「できない」と言って投げ出す生徒も数は少ないが出てきてしまった。

 (まとめの段階)では,学ぶ喜びが持続するような評価をとり入れようとしたが,報告するような実践はできなかった。
 評価については,相対評価から絶対評価になり,それぞれの到達段階で評価ができるようになった。そこで,一人一人の進捗状況をしっかりと把握し,個に応じた評価とその後の指導をしなければならない。

 評価が,生徒にかける1つの声が,その生徒の意欲を喚起したり,興味をそそらせたりすることを念頭において,授業に臨まなければならない。

5.まとめ

 ここでは,「生き生きと」問題解決にとりくませながら生徒一人一人の考えを深めさせようとしてきたが,毎時間この活動をとり入れると学習内容を終えることができない。生徒のことばで言うと「教科書が終わらない。」状態になってしまう。

 導入の段階でのとりくみは,それぞれの章につき1時間しかないが,それぞれの章につながるような操作的活動を含む材料を集めるのが難しい。また,私たち教師の教材研究の時間が,いろいろな事務整理や学級の仕事で優先順位の後の方に追いやられていくような気がしている。

 展開の段階のとりくみは,実践してみると盛り上がるが,年間指導計画にある105時間の制限の中では非常に苦しい状態である。

 「選択」の授業などで興味関心の高い集団や,逆に数学の苦手・嫌いな集団で実際にやってみると学習後の意欲が高まるかもしれない。これは,今後試してみたいと考えている。

 まとめの段階のとりくみは,個を励ますような評価ができず,できる(できた)・できないに目が向いてしまう傾向が私自身にある。そこで,その考え方を切り換えて,一人一人の意欲をかき立てるような評価活動をしていきたい。

 評価については,まだ実践していないのと同じなので,今後,情報を収集して結果だけではなく,考える過程を大切にする評価の研修を深めたい。

6.おわりに

 意欲的に問題を解決できる生徒を育てるために,数学の楽しさ・おもしろさを感じさせて,問題解決の基になる考え方を身につけさせることを目指して,研究を進めてきた。

 友達に自分の考えを伝えるためには,自分で思考したことを筋道立てて説明することが必要であること,また,そのことは自分の考えをまとめることにもつながること,そして,数学的な考え方の深まりまでつながることを生徒に伝えてきた。

 今後は,更に,生徒の問題解決の追求意識が持続するような評価活動の研究にとりくんでいきたい。
前へ 次へ

閉じる