わくわくせいかつ上/いきいきせいかつ下のご紹介
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 小学校学習指導要領,幼稚園教育要領,保育所保育指針,幼保連携型認定こども園教育・保育要領などの改定において,それぞれの総則に,接続の重要性や「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」を育てることが明記されました。特に,幼児期の終わりまでに育ってほしい姿は,幼児期や児童期初期の遊びや学びを明確にし,生活科の生活化を図るためにもとても重要です。 今はまさに,生活科が幼児期と児童期をつなげる重要な役割として求められています。 啓林館の教科書の上巻「すたあとぶっく」は,幼児期の写真から始まります。その中の1枚の写真が語っている“わたげをうえています”をもとに述べてみたいと思います。 ある年の春のことでした。幼稚園の5歳児の花壇に少し傾いた立て札が立っていました。興味を覚えて覗いてみると,文字が書かれていました。読んでみると,「わたげ…」までは読めたのですが,次に書かれているいくつかの文字がわかりませんでした。担任の先生に尋ね,書いた幼児と話すことができました。 「これ,何て書いてあるのかな?」と尋ねると,「わたげをうえています。お願いだからふまないでください」と教えてくれました。なるほど,「わたげをうえています」と書いてあったのです。写真でもわかるように「お」「え」「て」は字形が違っていますし,「ま」は,鏡文字になっています。しかも,「お願いだからふまないでください」の文字はどこにも見当たりません。そこで,もう一度尋ねてみました。すると,今度も真剣な表情で,「わたげをうえています。お願いだからふまないでください」と教えてくれました。「お願いだからふまないでください」は,書かれてはいないのですが,幼児の中では,「わたげをうえています」の中に,その意味がちゃんと含まれているのです。彼が伝えたかったのは,「お願いだからふまないでください」ということだったのでしょう。 春になり,どこからか飛んできたわたげを拾い,種であることを知った幼児は,幼稚園の花壇に植えました(自然との関わり・生命尊重)。そして綿毛が誰にも踏まれず,無事に育つように願いを込めて立て札を作りました(自立心,社会生活との関わり,道徳性・規範意識の芽生え)。木材をT字型に組み,2本の釘を打ち付け,そこに自分の気持ちを文字にして表現しました(思考力の芽生え,文字等への関心・感覚,言葉による伝え合い)。何気ないエピソードですが,植物や自然に寄せる優しい思い,文字を自分の思いを伝える効果的な伝達手段であると認識し自ら行動を起こした自発性や創作意欲などは,まさに「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」に当てはまります。いかがでしょうか?この1枚の写真にはこのようなメッセージが込められているのです。 啓林館の教科書に掲載されている写真1枚1枚に,このようなメッセージが込められています。柔軟で弾力的で豊かな学習や活動を創るためにも,幼児期の教育を取り入れ,主体的・対話的で深い学びを生活科で創る必要があります。啓林館の教科書では,その期待に十分に応えられるよう,幼児教育の発想をふんだんに取り入れて作成しました。新しい教育の一助となることを願ってやみません。生活科と幼児期の終わりまでに育ってほしい姿編集委員:木下 光二 (鳴門教育大学大学院教授)24

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