2年

探究活動の中で積極的に技能を「活用」しようとする姿を引き出す    
〜「長さの計算」の学習において〜    
青森県青森市立Y小学校
K教諭

1.はじめに

 「活用」は,「探究」の中で引き出されるべき姿である。なぜなら,「活用」とは,

あること(もの)を,別なことに転用し,活かして用いる

ことであり,「活かして用いよう」とする子どもたちの積極性がなければ,いくら日常生活に結びつけていたとしても,その「活用」はあまり意味のないものとなってしまうと考えるからである。

 そこで,子どもたちが,得た技能を積極的に活かして用いるような学習がどうあればよいか,2年生の「長さの計算」をもとに考えてみた。


2.長さの計算を活用する姿を引き出す問題

 長さの計算を扱う際,「Aの長さとBの長さをたしてみよう」と単に問いかけるだけでは,子どもの積極的な「活用」の姿を引き出すことはできない。

 そこで,ここでは次のような問題を設定してみた。

 ヨット(左下)が家(右下)に戻ります。

 真ん中にあるのは川,向こう岸には,「灯台」「山」「郵便局」「森」「お城」があって,そのどこかに寄ってから帰ります。

 どこに寄って帰るのが,一番近道になるでしょう?



3.授業の実際

 上の画像をプロジェクタで映し,次のように問いかける。

 「今からこのヨットがお家に戻ります。でもその前に,上の場所のどこかに寄っていかなければなりません。」

といって,このヨット(実際は点)を動かしてみせる。すると,画像が動き出す。

 授業には,スクールプレゼンターEX(内田洋行)というパソコンソフトで作成した教材を提示した。パソコンを使える方なら誰でも簡単に教材を自作できるソフトである。ここでは,ヨットの代わりに丸い点を動かし,その後に軌跡の線を残すようにしてみた。

 できた軌跡を見て子どもたちは,「あっ,滑り台ができた。」と喜んでいる。

 最初の点は,左端の灯台に寄ってから家にたどり着いた。

 続けて,もうひとつ別な点を動かしてみる。

 今度は,山に寄ってから家に到着した。

 この2つの点の軌跡を見せて,次のように問うのである。

 「灯台に寄ったのと,山に寄ったのとでは,どちらが近いかな?」

 この問いかけに対し子どもたちは,

 「えーっ,どっちかわからない。」

と一様に迷い出す。しかしそのうちに,灯台コースよりも山コースの方が近いと考える子が増えてくる。理由を尋ねたところ,次のような反応が返ってきた。

 「(山の方は)斜めに行って,また斜めに行くから,近い感じがする。」

 「灯台の方は,最初にまっすぐ行っているから遠そうだよ。」

 そういった中で,一人の女の子が次のように発言した。

「灯台の(ある)場所よりも山の(ある場所の)方が家に近いから(山コースの方が)近いと思う。」

 この意見には,周りの子も,「なるほど!」と頷いている。

 すると目の前の男の子が,突然,

 「定規で長さを測って比べればいいよ。」

と大きな声で言い出した。その声を受けて,全員にプロジェクタの画像と同じプリントを配布し,30センチのものさしを使って測らせる活動に移った。ただ,ものさしにまだ慣れていない子どもたちである。クラスの半分は灯台コース,もう半分は山コース,と分担して測ることにした。

 結果は,

灯台コース 5pと11p
 
山コース 5p5oと9p

となったのだが,このままでははっきり比べることができない。この段階で,長さを計算する必要性が子どもたちの中にわきあがってくる。そこで計算の仕方を教えることにする。ここでは,既習のたし算の筆算に習い,長さの場合でも,単位をそろえて計算する筆算の仕方が使えることを教えた。

灯台コース
    5p
  11p
  16p
 
山コース
    5p 5o
  9p  
    14p 5o

 これらの計算から,山コースの方が距離が短いことを明らかにした子どもたち。しかし,探究はそこで終わるわけではない。子どもたちが気になるのは,他にもっと短いコースがあるのかどうかということだ。

 「たぶん,郵便局のコースが一番短いんじゃないかな?」

 直感的にそう口にする子もいる。子どもたちの中に,「はたして一番距離が近いのはどこなのだろうか?」という疑問がわきあがる。そしてそれを明らかにするために,たった今習った長さの計算を活用しようとし始めるのである。

 実際に調べてみると,やはり一番短いのは郵便局コースとなった。(当然,森コースは山コースと,お城コースは灯台コースと同じ距離になる)

郵便局コース
    6p 8o
  6p 8o
    13p 6o

 その理由は,下のように考えると明らかである。

中点Oを通った場合が直線距離となり,最短である。

 もちろん2年生にこのことを伝えても理解はできないだろう。ここでは,真ん中の地点を経由したら一番距離が短かった,ということだけを押さえて終わるだけでよい。



4.終わりに

 授業終了後,家庭学習などを通して,「真ん中を経由するよりも短いコースが本当にないのかどうか」子どもたちに調べさせてみるとよい。授業で提示した5つの経由点だけでなく,自分で別な点を決めて,その距離を測ってみる。いくつかのケースを試すことによって,その距離が真ん中に近づくにつれ短くなっていき,そこを過ぎるとまた長くなっていくことに子どもたちは気づくに違いない。

 そういった活動を通して,長さを測る技能や計算の技能が高まっていく。本来,技能はそういった探究活動の中で活用してこそ磨かれていくものだと思うのである。


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