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理科

宇宙教育活動16年間の取り組み紹介

和歌山県立桐蔭高等学校 藤木 郁久

1.はじめに

桐蔭高校に赴任した16年前,JSTのSSH(スーパーサイエンスハイスクール)指定校としてSSH活動が行われていた。私は課題研究「レゴマインドストームロボットRCXに関する研究」の指導担当となり,高校2年生の生徒とロボットプログラミングについての研究を行うことになった。この研究で得た知識である「黒の線の上を走るロボットのプログラミング」について,小学生にも体験してもらいたいと思い,おもしろ科学まつり(「青少年のための科学の祭典」であるが,和歌山ではこの名称で親しまれている)にて,ロボットプログラミングの体験教室のブースを高校生と共に出展した。小学生には大人気で,体験を待つための長蛇の列ができ,我々も休憩なしで小学生に指導をしたことは今でも鮮明に覚えている。数回,レゴでの出展をする中で,ロボットセンサーのエンジニアである山下 真先生(現:紀泉工房代表)から「一緒にロボット教育活動をやりましょう」と声をかけていただき,2009年より,TJ3(株式会社ダイセン電子工業)ロボットを使用したプログラミング教育をスタートさせた。山下先生の紹介で,ロボカップジュニアという世界で行われている大会にも桐蔭中学校や桐蔭高校科学部の生徒がチャレンジするようになり,2012年のロボカップジュニア全国大会にて優勝し,2013年6月にはオランダアイントホーフェンで行われた世界大会に桐蔭高校の生徒が智辯中学校の生徒と共に出場した。2010年2月より「和歌山ノード大会」を山下先生と藤木で毎年開催している。2018年と2019年には,和歌山商工会議所のご協力のもと,ロボカップジュニアの全国大会も和歌山で開催することができ,桐蔭中学校・桐蔭高等学校科学部も開催委員会構成団体に入れてもらい全国大会の実施に協力することができた。
2008年7月,和歌山大学より,「缶サット甲子園という大会を開始するので,参加してみないか」とのお誘いを受け,「ジュース1ケースが参加賞でもらえること,優勝すればアメリカの世界大会に出場できること」という2つの嬉しいことがあるため,生徒は喜んで出場することになった。第1回缶サット甲子園は,全国で8校の参加で,秋田県能代市で全国大会が開催された。本校では缶サット甲子園に毎年チャレンジしている。出場校も40校程度まで増えるようになり,第3回目より地方大会での選抜校のみが全国大会に出場できるようになった。2010年と2018年の2度,全国優勝をすることができ,2010年9月にはアメリカネバダ州ブラックロック砂漠で実施のARLISS2010(高校2年生3名+藤木),2019年6月には,イタリアボローニャで実施のESA(高校3年生5名+藤木)に出場した。
TJ3ロボット,缶サットの他に,WROというレゴブロックでのロボットプログラミング大会にも挑戦をし,2019年8月にWRO西日本大会にて優勝し,2019年11月にハンガリーで開催のWROフットボール競技(中2,中3,高1,藤木)にも出場した。
2010年の缶サット甲子園全国優勝を和歌山県の山口教育長に報告に伺った際,JAXAでの体験プログラムに高校生や藤木が参加できる可能性があることを教育長からお聞きした。その後,2010年10月にJAXA筑波宇宙センターでの「JAXA教師のためのスペース・プログラム」に和歌山県の8名の教員と一緒に藤木が参加した。同年11月には,JAXA宇宙教育センターと和歌山県教育委員会が宇宙教育活動に関する連携協定を締結し,2011年3月に和歌山県教育委員会より「JAXAスペースティーチャーズ和歌山」に藤木が任命され,和歌山県の子供たちへの宇宙教育を行う指導者を担うことになった。2012年より,主にYAC日本宇宙少年団和歌山分団(事務局:株式会社和歌山リビング新聞社)が毎月行う活動の講師として,私は年に4回ほど,TJ3ロボットのプログラミング,水ロケット,モデルロケット等の宇宙教育を行ってきた。
2022年度に和歌山県串本町に民間のロケット発射場ができることを知り,串本町の子供たちにも宇宙教育を実施したいという強い思いを抱いた。私がJAXAスペースティーチャーや知り合いの教員に声をかけ,県内の17名の小・中・高の教員で,「和歌山県宇宙教育研究会」という研究会を2020年4月に新しく作り,藤木が事務局長として研究会の活動をスタートさせた。今回は,和歌山県宇宙教育研究会の活動とその他,生徒と共に活動をしてきたことについて紹介する。

2.和歌山県宇宙教育研究会の活動紹介

(1)研究テーマ

宇宙を身近に感じさせるにはどのような指導が効果的かを研究する。

(2)研究の概要

①研究内容

ロケットの発射場が完成する串本町の子供たちや和歌山県の子供たちが,水ロケットやモデルロケットの作成や打ち上げを通して,ロケットのしくみや飛ぶ原理を理解し,大型のロケットが宇宙に飛翔する様子を実際に見た際,科学のすごさを体で感じられるよう,指導方法の研究を行う。

②研究方法

串本町や和歌山県の子供たちに,水ロケットやモデルロケットを作成及び打ち上げの体験をさせる時の効果的な指導方法について研究を行う。また,実際の大型ロケットの打ち上げの見学時に,見学の子供たちに解説できるスキルを身につけられるよう指導方法の研究を行っていきたい。

(3)具体的な取組内容

4月~9月
宇宙教育に関心のある和歌山県の小中高の教員に和歌山県宇宙教育研究会設立に向けての説明を行い,研究会への入会の勧誘を行った。計17名のメンバーで研究会を発足させた。

9月18日(金)
串本町長に表敬訪問を行い,和歌山県宇宙教育研究会の設立の概要の説明を行った。また,夕方より,和歌山県立潮岬青少年の家にて,モデルロケットの打ち上げに必要なモデルロケット打ち上げライセンス(日本モデルロケット協会発行)の取得に向けた講習会を行った。モデルロケットに関する講義を藤木が講師をつとめ,研究会のメンバーが受講した。また,アルファ3というモデルロケットの作成も行った。
なお,モデルロケット講習会のテキストは日本モデルロケット協会のHP(https://www.ja-r.net/)→ライセンスの種類→第4級ライセンス「ⅲ)「ロケットをとばそう!」第4級講習テキスト」から見ることができます。アルファ3は世界中でモデルロケットの導入教材として使用されているモデルロケットで,日本モデルロケット協会や国内の販売店で購入することができます。

9月19日(土)
午前中は,和歌山県立潮岬青少年の家にて和歌山県宇宙教育研究会の総会を開催し,活動方針を決定した。また,前日に作成したモデルロケットの打ち上げを潮岬青少年の家にて行った。2日間の講習を通して,モデルロケット打ち上げライセンス4級と3級を取得した教員も多数いた。
午後は,スペースワン株式会社 最高顧問 遠藤 守 氏に「宇宙に行くロケットの話」というタイトルでリモートによる講演会を行っていただいた。

<総会の様子>

<リモートによる講演会の様子>

10月3日(土)~4日(日)
缶サット甲子園和歌山地方大会を和歌山市加太で開催した。この活動を研究会のメンバーが見学し,高校生が行っている宇宙教育について把握した。田嶋串本町長も缶サット甲子園の開会式に出席下さり,ご挨拶をいただくことができた。

<田嶋町長の挨拶>

10月18日(土)
白崎青少年の家主催の小学生対象のイベントに,藤木が講師となりモデルロケットの作成,打ち上げ体験をさせる活動を行った。この活動を研究会のメンバーが見学し,モデルロケットの指導の概要を把握した。

12月5日(土)
串本町教育委員会からの案内に対して申し込みを行った串本の子供たち15名(午前9名+午後6名)に和歌山県立潮岬青少年の家にてモデルロケットの作製と打上の体験をしてもらった。桐蔭高校や桐蔭中学校科学部の生徒も講習の補助をした。

<モデルロケット講習会>

<打ち上げ体験>

<参加者全員での集合写真 午前>

<参加者全員での集合写真 午後>

(4)研究の成果と課題

和歌山県の宇宙教育を推進する教員として17名で研究会を発足し,活動を開始することができた。串本町の小学生15名に対して,モデルロケットの作成と打ち上げの体験をさせることもできた。この体験を通し,子供たちはロケットの飛ぶしくみを理解し宇宙への興味関心が増したことと期待する。来年度に予定される大型ロケットの打ち上げを実際に見学するときに,今回の学習が生かされるであろう。また,研究会のメンバーと,どのようにすればより効果的に指導できるかの指導方法の研究を行うことができた。さらに議論を深め,『より良い宇宙教育とは』について研究を行っていきたい。
新聞やテレビでも我々の研究会のことが大きく紹介され,和歌山県内の多くの方々に和歌山県宇宙教育研究会の活動をPRすることができた。今後はこの活動を継続的に進めていきたいと考えている。研究会へのメンバーの勧誘をどのようにするか,また,活動資金をどのように調達するかが今後の課題である。

3.缶サット甲子園への挑戦

2008年より毎年,チャレンジをしている。高校生4名+指導者1名が1チームのメンバーであり,サポートメンバーとしては何名でも参加できることになっている。2015年より和歌山地方大会は藤木が実行委員長として大会の運営を行っている。和歌山を中心とした近畿の多くの企業様から協賛でご協力いただきながら,大会が実施できている。

<缶サット甲子園和歌山地方大会のポスター>

(1)缶サット甲子園とは

缶サット甲子園とは,高校生が自作した缶サット(空き缶サイズの模擬人工衛星)を打上げ,上空での放出・降下・着地の過程を通じて,技術力・想像力を競う大会です。従来の競技会のように「定められた技能」を競うのではなく,高校生が斬新でオリジナリティーのある缶サットを作り,「coolさ」を競います。2020年で13回目を迎え,2008年開始以来参加数はのべ322チーム(2019年度大会終了現在)にのぼります(http://www.space-koshien.com/cansat/index.html)。
缶サット本体の大きさと重さのみが規定で定められており,缶サットで行いたいミッションを高校生が考え,そのミッション達成に向け,果敢に挑戦していけるのがこの大会の醍醐味です。ミッションの内容や達成度が評価されるので,ミッション設定がとても重要です。

<参加者全員での集合写真>

<ロケット打ち上げ準備中>

(2)2018年の桐蔭高校のミッションの紹介

全国優勝をした桐蔭高校の生徒が作成したミッション概要資料を紹介します。全文は以下<全国大会用のミッション概要資料(全文)>をクリックするとご覧いただけます。

<全国大会用のミッション概要資料(全文)>

<全国大会用のミッション概要資料>

(3)ESAに出場した桐蔭高校のミッションの紹介

ESAに出場した桐蔭高校の生徒が作成したミッション概要資料を紹介します。全文は以下<ESA用のミッション概要資料(全文)>をクリックするとご覧いただけます。

<ESA用のミッション概要資料(全文)>

<ESA用のミッション概要資料>

(4)2019年ESA(イタリア)の様子

<缶サット本体とパラシュート>

<機体審査中>

<ロケットをバックに集合写真>

(5)2010年ARLISS(アメリカ)の様子

<発射場へ移動中>

<高度3kmまで飛翔する大型ロケットの前にて>

(6)カルピスソーダのCMへの出演

2010年の缶サット甲子園での優勝がきっかけとなり,カルピスソーダのCMに桐蔭高校の科学部の生徒が出演することになった。CMの中でロケットを打ち上げるシーンがあり,このロケットを打ち上げるためにはモデルロケットのライセンスが必要となってくる。そのために,先ず,藤木が指導者ライセンスを取得し,藤木の指導のもとで,高校生にモデルロケットのライセンスを取得させ,和歌山市の加太にて水玉模様のカルピスソーダのロケット(全長1m)を高度250m程度まで打上にことに成功した。
指導者ライセンスの取得により,缶サットで使用するロケットの打ち上げや小学生にモデルロケットを作成させ,打上体験をさせることができるようになった。

<撮影シーン>

4.APRSAF水ロケット大会への挑戦

スペースティーとして宇宙教育をすすめる中で,JAXA宇宙教育センターで水ロケット大会が実施されていることを知り,2011年より毎年チャレンジをしている。2011年,2012年,2017年に3度,日本代表に選考され,中学生2名と共に,シンガポール,マレーシア,インドのアジア大会に出場した。

(1)APRSAF水ロケット大会とは

中2~高1の生徒2名+指導者1名が1チームとなり,参加することができる。1次審査と2次審査があり,1次審査は書類選考で,「水ロケット製作における工夫,また,製作と打ち上げを通して学んだこと」等のテーマでA4用紙に1人1ページの課題が課せられる。この課題は手書きのみとなっている。1次審査で選考された場合,2次審査に挑戦できる。2次審査では英語によるプレゼンテーションや面接と事前に作成して持参する水ロケットによる50mの定点競技の実技審査で日本代表チームが決定される。最近は初参加チームと経験者枠チームを分けて選考されている。

(2)APRSAFの大会の様子

<シンガポール>

<マレーシア>

<インドでのウェルカムパーティーでのパフォーマンス>

<現地で作製した水ロケット>

<日本代表チーム全員での集合写真>

5.ロボカップジュニアへの挑戦

ロボット教育を一緒に行っている山下先生の紹介で,2010年より毎年,ロボカップジュニアサッカー競技に出場をしている。和歌山ノード大会は山下先生と藤木で大会を運営している。和歌山ノード大会での上位チームが関西ブロック大会に出場でき,関西ブロック大会での上位チームが全国大会に出場できる。毎年,桐蔭中学校や桐蔭高校科学部の生徒のチームが全国大会に出場できるようになってきている。

(1)ロボカップジュニアサッカー競技とは

サッカー競技は2台のロボットを自作し,そのロボットに攻撃や守備のプログラムを入れ,ロボットの状況判断のみでサッカーを行う自律型ロボットによる大会です。試合開始時に選手がスタートボタンを1度押すのみで,その後はロボット2台同士が自動でサッカーの試合をします。機械工作やプログラミングなど多くの知識や技術が必要となります。

(2)ロボカップジュニア全国大会の様子

<ライトウエイト>

<ビギナーズ>

(3)解説ブースの設置

ロボカップジュニアの見学にきた子供たちにロボカップジュニアサッカーのルールや簡単なプログラミングについて解説を行った。

<来場者への解説中>

<2018年の全国大会>

<2019年の全国大会>

(4)ロボット教室の実施

レゴブロックでのロボットプログラミングを開始した後,2009年より毎年,小4~中3対象のロボット教室を「おもしろ科学まつり」のイベントの中で行ってきた。2011年と2013年には和歌山市の助成金をいただきながら,1年間,ロボット教室を行った。また,2018年のロボカプジュニア全国大会に見学に来ていた子供たちを対象に,1年間で8回のロボット教室を実施し,翌年の全国大会に出場できる子供たちを育てることも出来た。2018年と2019年の2年間にわたり,この活動を続けた。全国大会に出場経験のある桐蔭中学校の生徒がロボット講習会の内容を考え,テキストを作成し,講習会では講師を務めた。子供たちや保護者にとても好評であった。ロボット教室に参加した子供が2年連続で桐蔭中学校科学部に入部したことも嬉しい事実である。

6.WROへの挑戦

2019年11月にハンガリーで開催のWROフットボール部門の世界大会に出場した。レゴブロックのみでロボットを作製する大会であるが,ルールはロボカップジュニアサッカー競技とよく似ている。

<会場前での集合写真>

<開会式>

<試合中>

<オーストラリアチームとの集合写真>

7.小・中学生への指導

(1)YACの子供たちへの指導

2011年より,YAC日本宇宙少年団和歌山分団の小学生約20名にJAXAスペースティーチャーズ和歌山のメンバーが講師役となり,月に1度,活動を行ってきた。私は水ロケットの作製,水ロケット大会の運営補助,TJ3ロボットのプログラミング教室,モデルロケットの作製と打ち上げ等の指導を桐蔭中学校科学部の生徒にも手伝ってもらいながら行っている。

(2)福島小学校40周年を祝う会にて講演

私の子供が通う地元の小学校から講演依頼があり,「福島から世界へ 缶サット世界大会に出場して」というタイトルで小学生や保護者,地元の人に対して缶サット甲子園や科学部の取り組みなどの紹介をさせてもらった。また,小学校のグラウンドにて,40thの人文字のドローン撮影も行った。

<記念式典の様子>

<40thの人文字>

8.おわりに

桐蔭中学校・桐蔭高等学校科学部の生徒と共にさまざま大会にチャレンジするなかで,生徒も私もいろいろな知識・技術が身についてきた。これまで,和歌山や大阪の工業高校の先生やプログラマーの方に何度も指導をしてもらったり,大会の協賛等で多くの企業さんにご協力してもらったり,企業からの助成金のおかげで,さまざまなことに挑戦することができた。
本校のHPでも科学部の活動を紹介しています(https://www.toin-h.wakayama-c.ed.jp→学校生活→部活動→部活動→科学)。科学部の活動が評価され,推薦入試で京都大学や名古屋大学医学部,大阪大学等に生徒が合格できるようになった。また,科学部の指導が評価され,2021年1月に文部科学大臣優秀教職員表彰を受賞することができた。
今後も,生徒が真剣に取り組むことのできる活動をサポートしながら,宇宙教育を邁進していきたい。