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| 我が国の数学教育,というより,教育において,不思議と避けられていることがあります.それは,個人の学力の格差ということです.例えば,我が国の大規模な調査の分析では,個人の得点分布よりも正答率が多く使われます.教育においては,学力に差があってはならないようです.高校1年までは,同じ内容を同じ進度で学習するのですから,学力に差はつかないということでしょうか.また,一般的には,我が国では,皆が,平均的である,一様であるとよく言われます.高校は入学試験で学力を揃えているわけですから,中学校より学力格差がないようですが,それでも苦労している先生は多いのではないでしょうか. 今回の調査では,受けた問題は異なっていても,ラッシュ・モデルという特別な方法を使い,すべての生徒の得点を同一の尺度に乗せました.そこで,各国の数学の得点分布を描くことが可能になりました.各国の学力格差は,その標準偏差で表されます.標準偏差が大きいほど,学力格差が大きいことになります.そのような各国の得点の標準偏差を,その大きい順に並べると表9の通りです. 我が国は,学力格差は,小学校4年では国際的にはそれほど大きくないようですが,中学校2年になると非常に大きい方に入っています.我が国の生徒は,中位あたりに集中していたのではなかったのでしょうか.実は,1964年の第1回調査でも,すでに,我が国は標準偏差の大きい方のグループに入っていたのです. 数学の学力格差は,表から分かるように,どの国にも生じるものです.いえ, 数学だけではなく,どの教科でも同じでしょう.重要なことは,学力にはある程度の格差が生じることを認め,一方で,それらの格差に応じた教育を保証することでしょう.我が国は,この両者が欠けているようです.諸外国では,達成度別コース,学年留置などの制度的な措置を取っております.それぞれの生徒が各自の能力に応じてきちんと学力をつけることを目指します.また,このようにすれば,一つの学校で多様な生徒を受け入れることができ,学校間格差を無くすことも可能です. 受験のためだけではない意味のある学習を達成するには,数学教育の中で考えるだけではなく,一方で学力格差に応じた教育を制度的に考えることが必要なのです. |