数学切り抜き帳
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消費税 ― 算術のすすめ
桜花学園大学教授
岩井 齊良
 消費税の計算では,
   本体価格,消費税,税込み価格
の3つのパラメータが考察の対象となる.
 値段表に本体価格を書きこれに消費税を上乗せした料金を徴収する方式を外税(そとぜい)方式といい,値段表に税込み価格を書きその通り料金を徴収する方式を内税(うちぜい)方式という.
 2004年3月31日までは外税方式,内税方式のどちらでもよかったが,4月1日からは内税方式で価格を表示するようにと法律で決まった.
 だから,この原稿もこのことを意識しながら書いている.

[初級編:本体価格から消費税を知る方法]
 目下のところ,本屋には「本体○○円(税別)」と書いた本が数多く並んでいる.こういう本の消費税は,

   

となる.20で割ることは,10で割って,2で割ることだから,
 (本体価格)=2400 の場合  2400 → 240 → 120 (円)
より消費税は120円である.ここで,「10で割る」場面は,

     

ことである.したがって,

     

として消費税が求められる.
 本体価格が 円の場合でも,
    10で割って
     2で割って
となり,小数点以下の端数は切り捨てるので,末位の9は答(消費税)には影響しない.
つまり,消費税の計算はいつでも,

     

のように計算してよい.

例1
     

[上級編:税込価格から消費税を知る方法]
 本体価格と消費税の関係はふつう
      (本体価格)×0.05=(消費税)
で表されるが,正確にはこの式ではない.
 消費税の計算では1円未満の端数は切り捨てられるので,
      (本体価格)×0.05 の整数部分=(消費税)
つまり,
     [(本体価格)×0.05]=(消費税)
が正しい式である([ ]はガウス記号).また,
     [(本体価格)×1.05]=(税込価格)
が成り立つ.
 したがって,本体価格が分かれば消費税,税込価格は簡単に求められる.しかし,この逆は簡単ではない.
 税込価格が分かっているとき,消費税,本体価格はどのように求められるだろうか.近頃の学校教育では,こういう算術的な話題を取り上げないのでこの欄ではとくに触れてみたい.

 近似式
     (本体価格)×1.05≒(税込価格)
より,
     (本体価格)≒(税込価格)÷1.05
     (本体価格)≒(税込価格)×0.95238
だから,税込価格のうち 0.95238 が本体価格で,残り 0.04762 (=1−0.95238) の部分が消費税である.
 おおざっぱにいえば税込価格の約5%が消費税である.
 具体例に即して,税込価格から消費税を求めてみよう.

例2 税込価格が 4800 円のとき
 消費税(約5%)の近似値は 4800×0.05=240
 本体価格の近似値は   4800−240=4560
本体価格を4560円とすると,
消費税は 228円,税込価格は 4560+228=4788 (円)
 この本体価格は12円足りない.これを4560に加えて,
      4560+12=4572
 本体価格を4572円とすると,
消費税は 228円,税込価格は 4572+228=4800 (円)
これでピッタリ決まった.
 本体価格は4572円,消費税は 228円である.

 上の計算を反省してみよう.
 はじめに,消費税の近似値を (税込価格)×0.05 (240円)としたので,
 本体価格の近似値は (税込価格)×0.95 (4560円)である.
 この本体価格に対する消費税は (税込価格)×0.95×0.05=(税込価格)×0.0475 (228円) で,税込価格は (税込価格)×0.95+ (税込価格)×0.0475= (税込価格)×0.9975 (4788円) である.つまりもとの税込価格に比べて(税込価格)×0.0025 (12円) だけ不足する.
 (本体価格)=(税込価格)×0.95238 (4571円)とみると,上の粗い近似値 (税込価格)×0.95 (4560円)との差は (税込価格)×0.00238 である.(税込価格)×0.00238≒(税込価格)×0.0025 (12円) なので,最初の近似値 (税込価格)×0.95 (4560円) にこれを加えた
(税込価格)×0.95+(税込価格)×0.0025=(税込価格)×0.9525 (4560+12=4572 円)を新しい本体価格とするのである.

例3 税込価格が 5800 円のとき
 消費税の近似値は 5800×0.05=290 (円)
 本体価格の第1の近似値は 5800−290=5510
 本体価格を5510円とすると,消費税は 275円,税込価格は 5510+275=5785 (円)
 税込価格は15円不足
 本体価格の第2の近似値は 5510+15=5525 (円)
 本体価格を5525円とすると,消費税は 276円,税込価格は 5525+276=5801 (円)
 税込価格は1円過剰
 本体価格の第3の近似値は 5525−1=5524 (円)
 本体価格を5524円とすると,消費税は 276円,税込価格は 5524+276=5800 (円)
 これでピッタリ決まった.
 税込価格が5800円のとき,本体価格は5524円,消費税は 276円である.

[最上級編:公式はあるか]
 税込価格が分かっている場合,本体価格を知る公式はあるだろうか.
     [(本体価格)×1.05]=(税込価格)
であるから,近似値として,
     (本体価格)≒(税込価格)÷1.05
が考えられる.ここで (税込価格)÷1.05 が整数ならば等号が成り立つ.
 しかし,(税込価格)÷1.05 が整数でない場合は「端数(小数点以下)を切り上げたらよい」と考えられる.

例4 税込価格が x=3800 (円)の場合
    3800÷1.05=3619.0476
    3620×1.05=3801
  本体価格を3620円と予想すると,消費税は 181円,税込価格は 3801円
 本体価格を3619円と予想すると,消費税は 180円,税込価格は 3799円
 したがって,税込価格3800円にピッタリ合う本体価格は存在しない.

 さて,x÷1.05が整数となるのはどんな場合だろうか,

   

だから,これが整数となるのは整数 x が21で割り切れるときである.

(ア) x =21n のとき
  x ÷1.05=20n
 本体価格を20n (円) とすると,消費税は20n ×0.05=n ,税込価格は20n n =21n
となるので,これでピッタリである.

(イ) x =21n k  (1≦k ≦19) のとき

   
   0< <1 だから, 20n k −1< <20n k

したがって, の端数を切り上げた数値が 20n +k である.
 本体価格を 20n k (円) とすると,消費税は,
 (20n k )×0.05=n +0.05k
 0<0.05n <1 だから, [n +0.05k ]=n
 税込価格は, (20n k )+n =21n k

(ウ)  x =21n +20 のとき
 本体価格を20n +19 とすると,
消費税は (21n +19)×0.05=n +0.95, [n +0.95]=n
   税込価格は (21n +19)+n =21n +19< x
   これは不適
 本体価格を20n +20 とすると,
消費税は (21n +20)×0.05=n +1
   税込価格は (21n +20)+(n +1)=21n +21> x
   これも不適
 したがって,税込価格 x =21n +20 にピッタリ合う本体価格は存在しない.

 以上をまとめると,
 税込価格が x 円のとき, x ÷1.05 を計算し,端数が生じるときはこれを切り上げる.
 これが(唯一の)本体価格の候補である.
 検算をしてみて,うまく適合すればこれが本体価格である.適合しなければ,適合する本体価格は存在しない.