数学切り抜き帳
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コンパスだけの作図 (3)
桜花学園大学教授
岩井 齊良
 前号に引き続きコンパスだけの作図を取り上げる.
 限られた手段でどこまでのことが可能か極めてみたい.
 今回は四則演算の可能性という観点で調べていく.手数はどんなに長くなろうと気にしないことにする.

 はじめに考えたいのは線分の足し算である.つまり,長さがaの仮想線分と長さがbの仮想線分に対し, a+b の長さをもつ仮想線分を作図することである.

 一般に2つの線分は違った位置にあるので,これらを加えるためには,(仮想)線分の移動から考えなければならない.

●線分の平行移動
 線分の平行移動は簡単に実現できる.「平行四辺形をつくる」という方針で実行すればよい.

●線分の移動(一般)と a+b
 はじめに,次の図を利用して 2a, の長さを入手する.

 さらに,次の図を利用して の長さを入手する.

 同様の作図で次の2点を確保する.

 次の図から,a の長さが作図できる.

 等式 によりこの三角形は直角三角形である.
 したがって,a の長さは b の延長上にある.
 これで長さ a+b の線分が得られる.

 ただし,この作図法では条件 >b が必要である.
 この条件が満たされないときは,b を同じ方向の短い線分に取り替えることにより a を b の延長上に作図すればよい.
 また, a を b と同じ向きにとれば,長さ a−b の線分が得られる.


 a,b,c の長さをもつ3本の仮想線分に対し の長さをもつ仮想線分を作図したい.
 次の連立方程式を参考に作図法を考えてもらいたい.

   

 2つの等式から y を消去すると,
    x=
 つまり,2円の交点はこの直線上にある.
 ただし,2円が交わるためには,
     c<a<b  または, b<a<c
という条件が必要である(理由).
 この条件が成り立たないときは,
       <a<nb
となるように整数nをとり,b,c をそれぞれ,nb, に置き換えればよい.


  の作図は簡単である.
    
を参考にすればよい.

●まとめ
 これまでに調べたことから,コンパスだけの作図では,
   仮想線分に関する演算 a±b, が作図可能
であることがわかった.
 このことから,
   定規とコンパスで作図できる点はすべてコンパスだけで作図可能である
ことがいえる.これが最後にまとめたい結論である.
 一般に,定規とコンパスを使う作図法は,

   ア 直線を引く
   イ 点を作図する(点を確定する)

という2種類の作業に分けられる.このうち,点の作図は,

   直線と直線,直線と円,円と円

の交点を求めるという3つの作業に分けられるが,座標平面上でいえば,それぞれの作業は,
 直線の方程式と直線の方程式,直線の方程式と円の方程式,円の方程式と円の方程式
からなる連立方程式を解くという作業と同値である.これらの解は,

     四則演算と平方根√

を用いて表される.
 したがって,定規とコンパスによる作図というのは,代数的にいえば,四則演算と平方根√を実現するという作業にほかならない.この結果,

   a コンパスだけでいろいろな点を作図する
   b 定規とコンパスでいろいろな点を作図する
   c 線分に関する演算 a±b, を作図する

という3つの作業は同値になる.
 「コンパスだけの作図」では,「定規とコンパスによる作図」に比べて,直線は引けないが,「点を作図する」ことについては同値なのである.

●コンパスの使用法
 コンパスによる作図では,

     はじめにいくつかの点が与えられている

として,

   コンパスを使うときは,すでにある点を中心として,すでにある2点間の距離を
   半径とする円を描く

という方法で,作図できるものを増やしていく.
 このように定式化するのが自然であろう.
 このコンパスの使用用法を制限して,

   コンパスを使うときは,すでにある点を中心として,すでにある点を通る円を描く

としたらどうなるだろうか.
 これは,コンパスをある2点に当て,それをいったん平面から持ち上げて他のところで使うということは許さないという使用法である.
 じつは,このように制限しても,制限前とくらべて作図できるものはなにも変わらない.
 じっさい,ある仮想線分を2倍することと,中点を作図することはこの制限下でも可能である.
 また,3点 P,Q,R が与えられたとき,点Pを中心とし,半径 QR=r の円を描くには,

    PR の中点 M を作図する
    QM を2倍に延ばした点 S を作図する(PS=r)
    点 P を中心とし,点 S を通る円を描く

ことによって目的が達せられる.

●最後に
 ここまでのところ,手数はいくらかかろうと気にせず,ただ理論的に作図ができるかできないかだけを論じてきたが,コンピュータ時代の現代にあっては,このような考え方も重要である.
 コンピュータは究極のところ,

   記録できるのは0か1かの2つだけ
   方法は電気を通すか通さないかの2つだけ

という単純な原理からできている.
 素材は単純であるが,これを,

   集積化(たくさんのものを有機的に集める)
   ソフト化(たくさんの命令を結合して新しい1つの命令とする)

という方法によって,多量の情報を管理・処理しやすくしている.
 そういう文化・文明の時代にわれわれは生きているのである.