数学切り抜き帳
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コンパスだけの作図 (1)
桜花学園大学教授
岩井 齊良
 幾何学で作図問題といえば,
    定規とコンパスを使って,点や直線などの図を作る
のであるが,ここでは,
    コンパスだけを使って作図する
ことを考えてみよう.

 コンパスしか使えないから,直線は引けない.描けるのは円だけである.したがって,作図できるものといえば,
     円か円弧か点
ぐらいのものである.
 ここではとくに点に着目しよう.
 コンパスの幅(半径)を固定すると,まず次のような点を作図することができる.


 さて,手始めに次の問題を考えてみよう.

問 コンパスだけを使って,次の2点の中点を作図せよ.

AB

 「コンパスだけで中点が作図できるの?」とびっくりするかも知れないが,できるのである.
 この解は次のようになる.
 まず,ABを2倍に延ばした位置にある点Cを作図する.


 Aを中心としBを通る円と,Cを中心としAを通る円を描き,交点をP,Qとする.


 最後に,Pを中心としAを通る円と,Qを中心としAを通る円を描き,Aでない方の交点をMとする.


 この点Mが求める中点である.
 ここで,MがABの中点であることの証明が必要である.
 証明 ABの長さを a とし,Aを原点,Bの座標を (a,0) とする座標系で考える.
  Aを中心としBを通る円の方程式は,
       x2y2a2        …… [1]
  C (2a,0) を中心としAを通る円の方程式は,
       (x−2a)2y2= (2a)2 …… [2]
   [1]− [2] より   4axa2
             x=
  よって,点P,Qは直線 x= 上にある.
  点Mはこの直線について点Aと対象だから,Mの座標は( ,0)である.
  よって,MはABの中点である.

 この作図法のキーワードは次の2つである(a = 1 に見立てる).

    中心が(2,0)で原点を通る円, 単位円

 はじめにこの2つの円を描くことにより問題は解決する.
 上の作図法を覚えたいという人は参考にしてもらいたい.

 コンパスだけの作図法の世界(平面)では直線や線分は実現できない.実現できないものに直線,線分と名をつけるのは誤解を招くおそれがある.そこで,直線,線分は想像上のものとしてそれぞれ仮想直線,仮想線分と呼ぶことにする.

 上で考えたことから,任意の仮想線分の中点は作図可能であることが分かった.
 そうすると,与えられた点Pから仮想直線ABへの垂線の足Qも作図可能であることがわかる.

これを作図してみよう.
   中心がAでPを通る円と
   中心がBでPを通る円
を描くことにより,仮想直線ABに関するPの対称点P' を作図する.
そうすると,仮想線分 PP' の中点Qが求める点である.