数学切り抜き帳
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コンピュータには任せられない
桜花学園大学教授
岩井 齊良
 難しいことがらをいろいろな工夫によって,やさしく説明することは,われわれ教師が常に心がけていることである.
 次は大学の教材であるが,つきあっていただきたい.

   1++…… とどんどん加えていくと,和はどうなるであろうか? 

 加えていく数値がどんどん小さくなるから,この和はπとかとか,あるきまった値に近づく?!と思われるかも知れない.
 ところが,驚くべきことに,
   この和は無限に大きくなる
のである.
 このことを,次の「家系図」で説明する(説明の都合上1は無視して考える).

分数の家系図
分数の家系図

 この家系では1人の親から2人の子どもが生まれる.下の子は親のちょうど半分で,上の子は下の子よりもすこし大きい.
 だから,子ども2人をあわせると親よりも大きい.
 

親子の関係,子子の関係
親子の関係,子子の関係

 このことから,

    第1世代よりも第2世代の和の方が大きく
    第2世代の和よりも第3世代の和の方が大きく
    第3世代の和よりも第4世代の和の方が大きく
    ……

 となる.つまり,
    =(第1世代)<(第2世代の和)<(第3世代の和)<……
 したがって,
   第 n 世代までの総和は よりも大きい
 こうして,
はじめの和 1++…… は無限に大きい
ことが分かる.
 この級数を 調和級数 という.
 その和が無限大であることは,上のように,理論的に証明できるのである.

 ところで,上の計算をコンピュータに任せるとどうなるであろうか.例えば,8桁の電卓で,1÷999999999 を計算すると答は 0 である.
 だから,調和級数のしっぽは 0 と見なされ,和は一定の値にとどまってしまう.

 現代社会では,コンピュータは必要不可欠のものである.しかも,年々便利になって来ている.これだけ便利になると,「難しい数学なんか要らない.やさしい数学とコンピュータさあればよい」という人もあるようである.
 ところが,上の例のように,コンピュータがまちがった答を出すこともある.コンピュータに頼りきると,とんでもないことになることがある.理論的な分野では,コンピュータは人にはかなわない.
 コンピュータを使いこなすためにも,人はもっと賢くならなければならない.現代に生きればこそ,理論や学問を学ばなければならない.