授業実践研究
“生徒とともに発見し証明する”授業
(兵庫)灘高等学校
庄  義 和

はじめに

 生徒が授業に最も興味を示すのは,数学的発見ができそうだと感じた瞬間である.問題を発見した場合は,問題が解けたとき以上に喜びは大きいようである.私の授業の実践例を未発表のものから,スケッチ風に,いくらかあげてみたいと思う.

1.小見出し

 I君に指名してやらせると,定石通りに解を1/6n(n+1)(n+2)と出してくる.
 「君は,この問題を見た途端解がわかったね」と尋ねると,「ハッ,ハイ」と曖昧な表情で,生返事を返してくる.「じゃ解を見て何に気付く?」
 「ハイ,1/6Σk=1nk(k+1) の結果と同じです」という答えが返ってくる.「わかるか」「わかりました」「じゃ説明してごらん」I君が黒板の前に出て来て,図を描いて説明する.縦k,横1,高さ n-k+1 の直方体(k=1,2,…,n)n 個を加えた立体の体積は,Σk=1n(Σi=1ki) 等しいことを述べる.(下図参照)

図

 そういえば高1のとき,a3+b3=(a+b)(a2-ab+b2)(a,bは正または負)の立体モデルを考えてくれたのもI君だった.やっとクラスの大半が,そういうことだったのかという顔をしている.
 「先生Σk=1n(2k-1)(n-k+1)=Σk=1nk2もいえます」「さすが天才Hだ!」「皆も考えてみよう」しばらく各自に考えさせる.
 同じくHが図を描いて発表する.しばらくして,O君が,「先生の定義されたような,立体の体積を求めるのにΣ記号は一定の方向に加えることを強制していますね.2つの例のように,はじめと直角の方向に加えたり,あるいはジグザグに加えたりもっと一般化できませんか?」「ううん,いい発想だ,先生もそこまでは考えていたのだが,例えば直角方向に加えるのを (Σk=1nf(k))R と表すと, (Σk=1nf(k))R = Σk=1ng(k) でI君やH君のような説明なしに簡単に求まるものがかなりあるね.数学大好き人間の研究課題だね」前の授業で『Σk=1nk(k+1)(k+2)…(k+r)』と黒板に書いていると,「ハイ,…です」魁(さきがけ)屋さんのT君が答えを言ってくれる.「これを利用するとΣk=1nk2=1/2{Σk=1n(k-1)k+Σk=1nk(k+1)},だから皆も Σk=1nk2 を求めてごらん」「先生」「先生」T君,F君,H'君が手をあげる.「前に出て黒板に書け」「F君,H'君の解をみると,より一般化できそうだね」
F君:Σk=1nk4=Σk=1n[1/2{(k-2)(k-1)k(k+1)+(k-1)k(k+1)(k+2)}+k2]
     = … =1/5n5+1/2n4+1/2n3-1/2n
H'君:Σk=1nk5=Σk=1n{(k-2)(k-1)k(k+1)(k+2)+5(k-1)k(k+1)+k}= …
 「今日の授業は充実していたね」「ハイ,終わり」級長「起立,礼」

2.sin15°,cos15°,sin75°,cos75°

 15°,75°の三角比を求める段になって,はたと困ってしまった.O君が「先生,今までに習った知識では解けません」ときた.H''君「数Tをやる前に数Aをやるべきだったんじゃないですか」とおっしゃる.「解けないとは,解いてから言え!それに後ろ向きの発想はあかん,先生も今反省しているところだ!」Y君「要は2重根号の展開を使わなきゃいいじゃないですか」「その通りだ,前向きの発想だ」「えらい」しばらく図1を黒板に描いて,いろいろ補助線を入れたりして考えていた.そして,図2を発見した.同時に天才H君もわかったと声をあげた.私もいささか興奮していたらしい.いつものように生徒に説明させるのを忘れてしまった.「先生すばらしい解ですね」「そうだな」まんざらでもない顔をしていると,「先生,何万円ぐらいの価値がありますか」とたたみ掛けてきた.Y君にはちょっと肝を抜かれたが,そこはベテラン教師の貫禄で,「まあ安く見積もって100万ぐらいかな」一瞬クラスの全員からの尊敬の眼差し.「このIdea,cos36°,sin36°にも使えないかな.いい解には賞金を出そう」
 彼らは卒業してしまった.未解決のままである.

図1
図1

図2

図2

sin75°=cos15°=√6+√2/4
sin15°=cos75°=√6-√2/4

3. 球の体積

 「球の体積はどうして求めるか」「原点中心の半円の回転体の体積」と答えるのがいる.「君は積分を学ぶまで球の体積の求め方について考えたことはないの?」「中学生でも全員理解できる方法だ」と言うと急に体を乗り出してきた.彼らは算数は得意中の得意だ.「求め方は知らんでも,底面の半径r,高さ2rの円柱,同じ半径で,高さが半分の円錐2つの体積ぐらい求まるだろう」今日の授業はやや挑発的に進めることとする.「それがどうかしたんですか」例によってY君だ.「それはこっちの聞きたいことだ」黒板に球と円柱を描く.N君が手をあげて「ハイ,球の体積に円錐2つの体積を加えると円柱の体積になります」「つまり球の体積は円柱の体積から2つの円錐の体積をひいたものに等しいわけだな」ニヤリと笑ってわざと蒟蒻(こんにゃく)問答をしておく.彼のノートには図3が描いてある.「ちょっと貸してね」と彼のノートを皆に振りかざして見せる.板書する.
 「先生,球は赤道近くが体積が大きくて,両極は限りなく0に近いのに,円柱の残りの部分の体積は,彼の図は逆じゃないですか」とK君.「君の発言の前半は意味不詳,全然不正確だが本質をついてはいる」「先生の言っていることは,自己矛盾だ」とやじる奴がいる.「いい発想だ,じゃあ,こうしてみよう」円柱の中に2つの円錐を書き込んでいく.(図4
 W君のノートは,図4に球も内接させている.彼のノートを指さして「このIdeaをもらったわけだ」球と円柱と2つの円錐の一方に断面を色チョークで書き込む.「カヴァリエリの定理を知っているだろう.そいつを拡張したようなものだ」「ハイ」F君が手を上げる.「説明は君にまかせる.…」
 π=・ルートr2-x22dx=π・r2dx-π・x2dx

図3
図3

図4
図4

円柱

4. 球の表面積

 「球の表面積は?」「4πr2です」軽蔑したような眼差し.「底面が半径rの円で高さ2rの円柱の側面積は?」アッという感じで,急に雰囲気が真面目になる.「先生,球の表面積は円柱の側面積に等しいんですか」例の魁屋さんである.「また脱線ですか」茶々が入る.「“Mathematics is derailments itself.”だ!」「冠詞は?」「関心はない」「まずう」「半球と半球に外接する円錐の交わりの円の上,下母線にそって1/2ずつのところで,円錐を切ると円錐台ができるやろ」「半球の半径r,円錐の中心線と母線のなす角をθとすると,さきの円錐台の側面積は2πr cosθや」「どうしてですか.Pappus Guldinの定理を使うんですか」「どっちでもええ,半径r,母線の長さlの円錐の側面積Sは?」「ハイ,S=πrlです」「自分で導けるやろ」「今日の庄先生珍しく低気圧やなあ」「さっきの交わりの円の中心に直線状の光源をおいて,この半球に外接する円柱のスクリーンに,円錐台の側面を写し出してみい.テープで作った輪のような像ができるやろ」「…」「側面積は?」「交わりの円の半径は r cosθ だから半径は1/cosθ倍,円錐台の高さはcosθ.したがってテープの幅も?」「わかった」「2πr cosθ×1/cosθ=2πr」「先程は円錐台の母線の長さをlとしたけれど,θは0から π/2まで動くからそのうちの適当ないくつかのθに対して外接する円錐台をつくり,そのとき隣り合う上下の円錐台の下底と上底を共有するようにせなあかんけど,加えていくとりんごの皮をナイフでぐるぐるむいたような立体ができるやろ.円錐台の高さの合計はrだから,この立体の側面積は2πr×r=2πr2や」ハハンわかったというような顔をしているのが数名,わかったような,わからんようなのが数名.あとは全く覚つかない!!「それでやなあ」「むくりんごの皮巾をどんどん細くしていくと,極限は半球の表面積だ」おれはわかるぞとせっせとノートしているM君,大多数はそれでもわかろうと必死で努力している.図を描く.

半円

 ところで有り難いことに,皮巾は太くても細くても円錐台の高さの和がrでありさえすれば表面積は円柱の側面積2πr2に等しいんだから,半球の表面積は2πr2だ.極端な場合はθ=π/6 のときの円錐下半分の側面積に等しい.これは円錐の側面積の3/4だから相似比2/√3 で縮小した円錐:半球と底面を共有し,底面と母線のなす角が60°の円錐の側面積に,したがって,底面の円2枚の面積にも等しい.
 「あっ,さっきのはS=Σn=1∞Sn=lim n→∞2πr2=2πr2だ.それに球は半球の倍だ」「あたり前のことだ」「今日の授業はちょっと荒れていましたね」「先生,何が言いたいんですか」「今日の授業は最悪じゃ,普段どんなによくわかる授業をしていたかよくわかったろう」全員妙に納得…?!「それでは終わり」「起立,礼」心地よい疲れが残った.

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