授業実践研究
折り紙から始める三角関数
埼玉県立春日部工業高等学校
加 藤 信 幸

 昨年のこと,本校一のハンサムボーイ建築科の三野輪先生が興奮しながら「先生の担当クラスで試験監督をしていたら開始のチャイムが鳴るなり,一斉に生徒達が私の方を向くんですよ.ビックリしちゃいましてね」と言ってきた.本校では,工業高校ということもあって1学期の数学は,三角比を学習させている.
 何故このようなことになったのだろうか?私は,「1年の三角比といっても,工業高校の生徒は,最低でも360度までの代表角の三角比が扱えなければいけない」と考え,レベル的には数学U(単位円での三角比)の内容を最初から導入して,天下り的に数学T(直角三角形の三角比)の内容を扱っている.
 三野輪先生の話は続く.「こちらを見てるかと思ったら,みんなの視線が私の上の方なんですよ.何かと思ったら・・・・時計(アナログの大きいの)があったんですよ」と.「先生,何でですか?」と尋ねられ,「そうか!」と私は気づいた.三角比の指導の途中で,時計を使っていたな・・・・と.そして,「時計を使ってサイン・コサインを指導したんだよ」と言って,簡単に説明すると,さすが工業高校の教諭!すぐに「なるほど!さすが先生!!」と感心してくれた.
 近ごろ,分数の修得がままならなかった生徒が増えてきている(これは,先日の朝日新聞にも取り上げられていた).新聞で取り上げられる以前から,このような状況に気づき憂いを感じている数学教諭は多数であることは,論を待たない.私もその1人である.
 現代数学において,サイン・コサインの要は,角度を値に変換することであって,分数を扱うことが主ではないと考える.副次的に分数を扱うとしても,主となるのは角度を値に直す取扱いであろう.
 右脳世代といわれる現在の高校生に,『変換のイメージ』で教えられないかと模索してきた.
 以下の『折り紙から始めるサイン・コサイン』という導入方法は,私のオリジナルである.生徒達にも判りやすいと好評なので,読者諸兄の授業にも簡単に使えることと考え,啓林館に発表の機会をお願いした.

折り紙で三角比

図1

(1)OとSを合わせて折る
(2)OとCを合わせて折る

 折り紙は2か所を合せて折り目をつける作業の繰り返しで,生徒にはなじみの作業でもある.したがって,導入に折り紙を使うと生徒の反応がとてもよい.
 まず,生徒全員に円を印刷した紙を渡す.「円を2等分できますね」と作業を指示する.「半円ができました.次にもう一度折って,円を4等分できますね」と指示する.ここからがポイント.次のように指示をする.
 「後2回折って,円周を12等分して下さい!!」 数分考えさせてみると,運が良ければクラスに1人くらいは正解を答える.(図1)
 つまりこの問題は,「円周を4回の折りで12等分せよ」ということである.もともとは,「円を5回の折りで12等分せよ」と出題していたが,正答がほとんどでなかったので,現在のようにしている.なお,折るときには目分量での3等分は禁止としてある.
 正解の折り方と何故かということを説明すると「そうか」という声が多数.この用紙を用いて,三角比の導入をしていく.図2のように作図をさせる.

図2

 軸など上の図の太線のように生徒に記入させる.
「横手Cというのが秋田県にあってね…だから横でシー」「そして,縦deエースなんてね…」とだじゃれを連発する.すると,つまらないネタでも楽しくなる!?
 後は,P0〜P11の各座標を,生徒に聞いていき,角度が値に変換できることを理解させる.

 伝統的に,座標はxy系であるが,私の経験から三角関数では角度にxを使うことも多く,今までの教科書での単位円からの導入で混乱してしまうことが多い.そこで,『横軸はc,縦軸はs』と記入させる.作図の円は単位円ということにして,円周上の12個の点の座標を読み取る学習をしていく.ここで注意をしなければいけないのは,現在の中学校の学習では,座標の読み取りが身についていない生徒が少なからずいるという事実である.そこで「c座標を読み取るには,c軸に垂線をおろして,目盛りを読み取ること,s座標を読み取るには,s軸に垂線をおろして,目盛りを読み取ることが原則」と強調する.
 12個の点を角度で呼ぶことにし,

  30゜のs座標はいくつか?
  90゜のs座標はいくつか?
  60゜のc座標はいくつか?
  120゜のc座標はいくつか?

などと質問すると,生徒達は簡単に答える.
 その後,無理数とならないような点の座標を質問し,問題とともにノートに書かせていく.記入が大変だというような顔を生徒がするようになったところをとらえて,上の4つは,式で

  sin30゜=
  sin90゜=
  cos60゜=
  cos120゜=

と書くといいと説明すると「面倒が減った」という顔をする. cos30゜の値についても説明しておき,2時間目からゲームをすると予告しておく.
 ゲームとはカード(表には式,裏には値を記入してある)を生徒に提示し,即座(最初は1枚につき3秒程度)に答えるというもので,二枚スタートで,タイムオーバーで一枚増し,ミスをしたら二枚増しというルールで実施している.列の順にトライしてもらうが,カードに注目していない生徒には,何度でも当てるということでゲームスタートすると,全員がよく集中して取り組む.ひと通り終わったら,「今回は,単位円の図を掲示してゲームをしたけれども,今度は,これなしでやってみよう」と呼びかける.生徒が困った顔をしたところで「君達の目の前には,合法的なカンニングの道具があるではないか!」と言った.
 「それは,黒板の上にあるアナログ時計だ」と指示.時計を使いながら次の時間もゲームを実施.
 そして,無理数となる角度と値について説明し,ゲームを実施.こうして,少しずつパターンを増やしていく.いわゆる代表角のサイン・コサインの値をすぐに答えられるようにしておくことによって,2年次の三角関数のグラフの下地ができる.
 実は私は「マック使い」.ハイパーカードという標準添付のソフトは,BASICの正当な後継者といってもよいソフトであるのだが,これで,三角比の値を答える問題を自動作成できるようにしてある.これで作成したプリントで時間制限付きでテストをしてみたところ,ほとんど全員が全問正解となっている.これによって,中学時代「数学が苦手」だと思い込んでいた生徒達も自信を持てるようになってきている.

埼玉県立春日部工業高等学校
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