授業実践記録
次期教育課程数学Aの事前実践
〜 課題学習 作図 〜
山口県立岩国高等学校
西元教善
 
1.はじめに

 次期教育課程では,数学 I ・Aで「課題学習」が新規導入される。
 移行後,円滑に授業ができるように事前に実践しようと思い,現在担当している理数科1年次生の数学Aで「作図」を題材に実践した。
 作図問題は山口県の公立高校学力検査では毎年出題されているが,入学後はコンパスを使うことさえ少ない。作図のような活動を伴った授業,グループ学習を通じて,数学から逃避した生徒の回帰が期待される。本実践がその試金石になればと思う。
 
2.実践にあたって

 本校は山口県東部の岩国市にあり,130年の歴史をもつ伝統校である。現在,各学年とも理数科1クラス,普通科7クラスの二学期制単位制高校で65分授業を行っている。平成15年から3年間は文部科学省からスーパーサイエンスハイスクールに指定され,理数科を中心に理数教育に力が入れられた。その実践対象になった理数科は本校の牽引的,特進的なクラスであり,今回の実践も理数科1年次生40名を対象に行った。
 
3.実践内容・時間配分

 内容 数学A 平面図形 円の性質方べきの定理に関わる作図

実践時間配分 [1] 事前説明・プリント配布 5分
[2] 個人探究 20分
[3] ヒントの提示 5分
[4] グループ探究 30分
[5] 感想記入 5分
 
4.実践方法

 6.に提示するプリント「ベストアングルポイントを探せ(作図問題)」を配布し,一人ひとりの生徒がそのプリント(A4判両面刷り)を読み,提出用紙(A4判)に作図を行う。昨今,日本の子どもの読解力の低下が国際的な学力テストで指摘されたこともあり,与えられた問題を読んで理解することの重要性に鑑みて,内容に関わることはほとんど説明せず,取り組ませた。ただし,解決に必要な知識は授業で習得している。それをいかに活用するかがその狙いの一つである。この実践は読解力,活用能力をみる実践でもある。
 
5.関連内容

 数学的な内容としては方べきの定理 (1) (2) である。作図で中心的になるのは,(1) の応用である「2数a,bの積の正の平方根の作図法」である。
 他には「円の内部と外部」,つまり,円Oの2点A,Bを通る直線ABに対して弧ABと反対側にある3点P,Q,Rにおいて,点Pが円の内部,点Qが円周上,点Rが円の外部にあれば,∠APB<∠AQB<∠ARBである」ことが関連している。
 
6.配布プリント

 
7.解答例


【作図手順】
[1] まず,線分ABを延長し,直線ABとする。
[2] 次に,直線AB上に点A'をOに関してAとは反対側にOA'=OAとなるようにとる。
[3] 線分A'Bの中点Cをとる。
[4] 点Cを中心,線分A'Bを直径(=線分A'Cを半径)とする円を描く。
[5] 点Oを通り,直線ABに垂直な直線を引き,交点をDとする。
[6] OD=OP0となるような点P0を直線l上にとる。
 
8.実践中のようす

 個人探究の時間は黙ってようすを見ていた。見当のつかない生徒も多かったが,20分間は生徒の試行錯誤にまかせた。
(写真は,個人探究とグループ探究のようす)



 20分後,プリントに書いてあることがこの作図とどう関わっているか,答えに直結しない程度に説明した。その後,グループで考えてよいことを指示した。個人で頑張る者,多くても5人のグループができて和気あいあいにアイデアを出し合って解決に努力していた。グループでの学習効果は,スーパーサイエンスハイスクール,理数科課題研究などを通じて実感していたので,個人である程度までレディネスを作っておき,それをグループで持ち寄って解決するスタイルをとった。これまでは事前に出席番号で機械的にグループ分けしていたが,今回は生徒の自主的なグループ作りに任せた。
 机間巡視しながら,生徒からの質問に答え,見守る姿勢をとった。良いアイデアや解決の糸口が見つかると歓声が起こった。押しつけられた勉強ではなく,やってみたい,解いてみたいという気持ちがあったからである。それは,生徒の感想の中にも生き生きと書かれている。

 
9.おわりに

 では,生徒の作図と感想をいくつか紹介する。やりかたは微妙に違うが正解である。今後の学習に向けてもよい意識作りになったと思う。
 年に数回はこのような実践を心掛けたい。生徒の言「三人寄れば文殊の知恵」にもあるように,生徒どうしの中に「学習の輪」ができれば数学力の向上に役立つと思う。このような環境づくりにも努めたい。では,感想の欄に書かれたものをいくつか紹介する。

【男子】今回の作図は,中学校のレベルをはるかに超えていて,ヒントがなければなかなか解けない問題だった。実際に使ったの出し方も教科書のコラムに取り上げられているだけで,あまり頭に入っていなかったので困惑もした。しかし,このような新課程に触れること(注:生徒には新課程では作図,課題研究があることを事前説明した)で,数学的な考え方も広がり,数学がさらに興味深いものになった。

【女子】たくさんのヒントが与えられてあったので何とか自力で解けましたが,これを全部自分で考えて解くのは100%無理です!! 作図自体はすごく面白かったので,ちょっぴりクイズ感覚で楽しむことができました。やり方が分かったときはとても嬉しかったです。

【男子】単調な計算だった今までの高校数学に比べ,ひらめきを必要とする図形は非常に新鮮である。

【男子】数学を現実に応用できる。現実は数学で表せると分かった。意外に国語力が必要であることも分かった。

【女子】一人で考えていたときは,全然方法を思いつかなかったけれど,グループを作って考えたら,割と早くアイデアが浮かんできました。これぞまさに「三人寄れば文殊の智慧」(5人で考えましたけど…)だなーと思いました。わからない問題に当たったとき,いつもは全然思わないけど,今日は楽しいなーと思いながら考えることができたと思います。

【男子】自分でやってみたあとに他の人とやり方がまったく違っていて不安になりました。久しぶりの作図の作業で,いい頭のストレッチになったと思います。他の人と話し合いながらやることで,今までのよい復習になったと思います。

【女子】最初は見当がつかなくて何をしたらいいのか全然わからなかったけど,友達に教えてもらってよくわかったし,自分がまたそれを他の友達に教えたりすることで理解が深まってよかった。

【男子】いつもとは一味違った数学を楽しめたのでよかった。とても難しかったけど,やり方が分かって,理解できたらすっきりした。やっぱり数学は奥が深いなと改めて実感できた。

【女子】一人では全く分からなかったけど,みんなでやったらよく分かって,ちょっと感動しました。これぞまさに五人寄れば文殊の智慧でした!!

 40人それぞれの感想があったが,ここに挙げた感想には数学教育上大切なことが言い表されている。アンダーラインで強調したところであるが,なぜ子どもたちが数学から逃避するのかという原因,引き戻すためにはどうすればよいのかという方法を生徒が如実に教えてくれている。
 たとえば,クイズ感覚で楽しめる,新鮮な題材の提供,グループ学習をする,楽しめる展開をする。授業はもちろんのこと教科書もそうである。
 また,生徒自身が気付いている重要なことがある。たとえば,数学は現実に応用できる,現実は数学で表せる。人に教え,教えられることで理解が深まる。(そこにグループ学習に効果が認められる)国語力も必要であることなどである。
 いつも楽しく,新鮮で,クイズ感覚で楽しめて,感動でき,しかも実力のつく授業というのは口で言うほど容易ではない。また,たびたびグループ学習すれば飽きられるし,なにより授業は進まない。効果が期待できる場面に限って活用すべきである。