授業実践記録
環境と数学
〜話術と算術〜
北海道札幌藻岩高等学校
大久保昌史
 
1.はじめに

 札幌藻岩高等学校では、平成18年度より環境教育への取り組みを始めました。具体的には、清掃ボランティア活動、ビオトープボランティア活動や校舎内の節電への取り組み、そして、環境学校祭での環境宣言の読み上げ、北海道大学とのSPP(サイエンス・パートナーシップ・プロジェクト)環境学習、北海道高校生環境サミット参加など、着実に取り組みへの成果を上げることができました。
 平成19年度に、北海道の学校としては初めてであるHES(北海道マネジメントシステムスタンダード)の認証を取得することができました。
 そこで、平成20年度は、HESの発展的・継続的な活動とともに、総合学習や各教科に活かす方法として考え出されたのが「環境学習ノート」作成でした。
 この「環境学習ノート」を活用することにより、「論理的思考力や表現力を育み、思いやりのある豊かな心を養い」、一人ひとりが環境に配慮しながら、毎日の勉強や特別活動、そして部活動で充実した生活を送ることを本校は期待しております。
 
2.「環境」と「数学」

 「環境」と「数学」を結びつけるテーマとして下記の項目を考えました。

[1] 自然環境と計算
[2] 生活環境と図形
[3] 犯罪環境と数学
[4] 家庭環境と数学

 「環境」という言葉を起点として、いろいろな方向性から数学に関連する題材をさがすことを心がけました。

 
3.犯罪環境と数学〜話術と算術

 悲しいことながら、世の中には人を欺いてまでも私利私欲を肥やそうとする人がいるのです。そんな人たちに騙されないためにも、そしてそんな悲しい世の中にしないためにも、次の話を読んで、どこに騙されるトリックがあるのかを探して下さい。

 3人の大学生が旅行をしておりました。今夜泊まる宿を探しています。
 あいにくどこの宿も満室でしたが、ようやく空き部屋のある宿を見つけることができました。
 しかし、たった一つしか空いていなく、3人で1部屋に泊まってもらうしかありませんでした。大学生たちは喜んでお願いしました。その部屋は3人で1部屋15000円で泊まれるそうです。
 料金は前払いということで、3人は1人5000円ずつ出し合ってその部屋に泊まることにしました。会計が終わり、3人は部屋に案内され旅の疲れを癒すことにしました。
 この宿の支配人はとても心優しい人で「1つの部屋に3人も泊まってもらうのは気の毒だ。あの部屋はちょっと汚れているし、10000円で泊まってもらおう。」と、召使いに5000円を大学生たちに返してもらうように頼みました。
 5000円を受け取った召使いは思いました。
 「5000円を返してもらっても、3人で分けられないじゃん。だったら、俺が2000円もらっておけば、残りは3000円になる。だったら、1人1000円もらえて困ることもないな。」と、勝手に2000円を自分のポケットに入れて、大学生に3000円を返したのです。

 …さて、話はここまでですが、ここで手元にあるお金の合計について考えてみましょう。
 大学生たちは1人5000円ずつ、合計15000円を宿主に支払った。支配人は5000円を召使いに持って行ってもらった。召使いは2000円を自分のポケットに、残りの3000円を大学生たちに返した。大学生たちは1000円ずつ戻ってきたことになるので、結局1人4000円で宿泊したことになる。

 ということは、4000円×3=12000円。

 また、召使いのポケットにある2000円を足して14000円…。
 あれ?はじめ15000円を払ったはずなのに、話の終わりには14000円になっている…?
 1000円はどこに行った?だれかが盗んだのか?

 この話は、授業時間15分程度の時間が確保できるときに、ちょっとした小話として実施出来るかと思います。
 実際は、この文章を見せるよりか、教員が黒板に数字を書きながら説明していった方が、ひとつひとつ理解させながらなので面白く表現できるはずです。

<解説>

 収入・支出表を書き、整理すれば一目瞭然ですが、話を聞くだけだと騙されてしまうかもしれません。「お金を渡す人」には「マイナスのお金」、「お金をもらう人」には「プラスのお金」で表現した数値で表を作ります。

合計
大学生たち -15000 +3000 -12000
支配人 +15000 -5000 +10000
召使い +5000 -3000 +2000
合計 0 0 0 0

 話だけでは分かりづらいのですが、大学生たちの「-12000円」と召使いの「+2000円」に関して、「符号を無視して合計していた」というところがポイントだったわけです。

 
4.おわりに

 自分が期限付き教員だったころ、ある学校にて次のような会話を生徒と交わしました。

自分 「30%引きの商品と3割引きの商品とでは、どっちが安いと思う?」
生徒 「30%引きだろ?」
自分 「どうして??」
生徒 「だって、30と3ならば、30のほうが多く引いているから」
自分 「・・・(絶句)」

 高校を卒業した後、その生徒が騙されることなく、生きていくためにも必要な「算数力・数学力」を伝える・身につけさせることが重要であると強く感じた瞬間でした。
 「数学(学問)は社会に出たら全く役に立たない」などと愚かな考えを堂々と発言する人をたまに見かけます。その愚かな発言を真に受け騙されてしまう純粋すぎる子供たちもたまに見かけます。
 そんな愚かな発言そのものが自然淘汰されるべく、数学(学問)を教える教員が情熱を持って生徒たちに接することが必要であると考えます。また、教育現場においてだけではなく、学ぶことの楽しさや素晴らしさを感じることのできる環境を維持することが昔から望まれていることなのではないでしょうか。このレポートを作成できたことをきっかけに、今後もさらなる情熱をもって授業に臨みたいと感じました。