授業実践記録
座標系の変換
〜問題を高い位置から見下ろす視野を養う〜
(広島)崇徳高等学校
日南休紀彦
 
1.はじめに

 大学入試問題の出題の意図を探れば,大学レベルの高度な知識を高校レベルに落として出題していることがある.特に,難関校はその傾向が強い.だからこそ高校生から見れば難問に見える.
 逆に言えば,高校の知識を追求してゆけば,大学の知識に辿り着くはずである.
 その辿り着くまでの険しきプロセスを噛み砕いて伝授してゆきたい.
 これが,『問題を上から見下ろす』といった感覚に繋がり,夢への切符を手にすることを心より願う.

 
2.実践例

■はじめに
 ◇授業形態 プレゼンテ−ション形式
 ◇題  材 大学受験問題
 ◇対  象 高校3年生受験対策
 ◇目  標 『物事を高い位置から見る』という感覚を養う.
 難問であっても,易問であってもその解法のスタンスは変わらない.難しいから解けないのではなく,基本姿勢を疎かにしているところに原因がある.

★数学の基本姿勢
 まず,図を書くことによりイメ−ジをつかむ.そこから発想(アイデア)といったものが生まれてくる.それに基づいた計算とのバランスがとれたとき,1つの解答が導かれるのではないだろうか.

★数学の三大源流 
 [1]「大きい」⇒「小さく」
 [2]「高 い」⇒「低 く」
 [3]「複 雑」⇒「簡単(コンパクト)」 

 平面図形については,イメ−ジがつかみやすいが,しかし,空間図形になると,その理解度は極端に落ちる.もっとも,現行の教育課程では空間を扱う部分も少なくその内容も薄い.
 グラフの概形をつかむ際,具体的な点(値)について調べる.この離散的な地道な作業がグラフを描く基本的な手法である.何事も地道な姿勢が大切なのである!!特に,空間においては,ある軸に対して垂直にスライスしてゆき概形を捉えてゆくのが定石である.
 この様に,離散的なデ−タ−を繋ぎ合わせてゆくと,上図のように円錐となっていく様子が分かる.当然であるが,試行の回数が多い程より正確な図となる.【Calking ver4.0 で作成】
 また,円錐の方程式がこのような式で表されることも大きな驚きである.

【参考】

 左図は,Mathematica ver4.0 で作成.
 下記のような式で表される.
 先の Calking ver4.0 よりも精度が高い. 

 Conics<Circular Cone>
 x2=(1-t)Cos[s];y2=(1-t)Sin[s];z2=t;
 ParametricPlot3D[{x2,y2,z2},{t,0,1},{s,0,2Pi}]

 図形 D の概形が分かったところで,次は断面積(切り口)が実際にどのような形をしているのかが問題である.
 原始的ではあるが,実際に模型を作る,あるいはコンピュ−タを利用して探るのもよい.
 しかしながら,それだけでは問題は解けない.大切なのは,発想に基づいた知識・それを構築してゆく道具である.
 ここでは,生徒の発問(意見)を聴いてみたい….

solution [1]
 空間内に新たな座標系を生成し,新座標系上での物事の考察をする.空間上の漠然としたものが,新座標系上で明確なものとなる.また,座標の設定の仕方・仕組みを理解させることにより,自由な観点からの考察が可能となる.
                                     solution [2]
 正射影とは…?
 その意味とそこに隠されている真実を明らかにする.実は普段何気なく解いていた連立方程式にその意味が隠されている.
 最終的には,元の図形と正射影した図形との面積の関係を結び付けてゆく.

 空間において,図形Dを平面πで切ったとき,その切り口(断面)上に新しい座標系を導入する.
 座標系を導入することで,直接,切り口の方程式を作り出し,その式を取り扱うことができるため,ごくごく自然な考え方ができる.

 座標系を設定する上で,
  [1] メモリは1(単位ベクトル)
  [2] 軸は直交
 この2点に注意する.【正規直交基底】
 一般に,扱っている座標系は,このような設定になっているので,自然に物事を考えてゆくことができる.

 xyz空間と s-t 平面を結び付ける役割を果たしているのが,OA(ベクトル)である.
 つまり,2つの座標系のパイプ役となっている.
 (★★)の(s,t)式を,ある方程式(x,y,z)に代入することにより,s-t 平面に変換(正射影)される.

 (★★)を,図形 D の方程式に代入し整理したものが,左記の式である.
 左記の式は,s の2次方程式である.つまり,s-t 平面上において,切り口(断面)は放物線を描いていることが実際に分かる.
 座標系を正確に設定しているからこそ,今までと同様に物事を考えることができる.
 したがって,断面積を求めるには,s-t平面上で直接積分すればよいことになる.

 【β関数の積分公式】は,大変重宝する公式である.
 個々ではさほどメリットはないが,とにかく有り難い公式である.
 正射影とは何か…?
 そこに隠されている本当の意味とは…?
 実はそれを理解をする鍵は,連立方程式を解く際に行う,文字消去に秘密は隠されている!!
 簡単な例をもとに説明をおこなう.
 普段平然と解いている連立方程式を,ここまで意識して解いている人は少ないと思う.
 本質を知れば,物事も見方が大きく変わってくる.
 正射影した面積は左図の斜線部分となる.
 ここは,積分すれば簡単に求まる.
 では,正射影された面積と元の面積(断面積)との間にはどのような関係があるのだろうか…?
 正射影と面積の関係を,実験できる程度の身近な例をもとに理解させる.

■さいごに
 あまり十分な時間がなかったため,満足ゆくものができなかったように思います.ただ,自らの考え・アイデアなどを発表する意味では,本当によい機会を与えて頂いたと,心から感謝致しております.
 これから変わりゆく時代にあった理想的な授業を求めて,今後とも取り組んでゆきたいと思います.
 拙い実践例ではございますが,ご指導・ご鞭撻を頂ければ幸いに存じます.
 今後とも何卒宜しくお願い申し上げます.
 心より厚くお礼を申し上げます.

Eメール:pai314@zg8.so-net.ne.jp