授業実践記録
媒介変数表示の曲線について
−グラフの概形を捉える方法−
佐賀県立高等学校
北川宏武
 
1.はじめに

 過去の大学入試問題では、媒介変数表示で曲線を与え、グラフの概形を捉えさせる問題が頻出している。その理由としては力学現象を捉えるとき、媒介変数として時間 t をとることが多く、物理学や工学を学ぶ上で媒介変数表示、極座標表示は必需なものであると考えられる。これらの問題はグラフの概形を捉えることさえできれば、あとは曲線のある部分の長さや曲線を含むある部分の面積または体積(回転体)を求めさせる問題がほとんどなので、標準的な問題と思える。しかし、生徒達のほとんどが、“グラフの概形”に苦戦し、この種の問題を難しいと思っている。
 実際、教科書「数学C」における“媒介変数表示”では、コンピュータの活用を前提としており、プログラムを組むことで曲線のグラフの概形を描くようになっている。また、「数学 II 」「数学 III 」で関数のグラフを描くための手段として増減表を作成することを扱うが、これは陽関数 y f ( x ) に限られており、媒介変数表示の曲線に関する増減表の作り方は特に扱っていないのが現状である。
 そこで、媒介変数表示で与えられた曲線の概形を捉えさせるための授業計画を考えた。内容は以下の[1]〜[4]である。

[1] ベクトルの方程式を利用して媒介変数表示を作らせ、媒介変数表示の意味の理解を図る。
[2] グラフの周期性および対称性を確認させる方法(手順)を説明し、具体例をもって理解を深めさせる。
[3] 媒介変数表示の曲線の増減表の作成(手順)及びそれを用いたグラフの概形を具体例もって理解させる。
[4] 過去の大学入試問題の演習を通じて、媒介変数表示の曲線の増減表の作成、グラフの概形を描くことを習得させる。
 
2.授業

[1]曲線の媒介表示の作成(ベクトル方程式を用いて)
 高校数学では通常、ベクトルの成分表示を行ベクトル で扱うが、2つ以上のベクトルの和や差を計算する際、列ベクトル の方が各ベクトルの x 成分、y 成分が捉えやすく計算しやすいことを紹介し、すべて列ベクトルを用いて解説する。また、図の部分は、grapes ソフトを用いてプロジェクターで黒板に投影し、点の軌跡を動的に見させる。時間をかけず効率よく学習できるよう書き込み式にしたプリントを活用する。

例1  半径 r の円が定直線に接しながら、滑ることなく回転するとき、その円上の定点が描く曲線(サイクロイド)を媒介変数表示する。

解説
  より A(rtr)
 よって、
 
 よって、 とすると
 
 となる。

例2  座標平面上に原点 O を中心とする半径2の固定された円 C と、それに外側から接しながら回転する半径1の円 C' がある。円 C' の中心が(3,0)にあるときの円 C' 側の接点に印 P をつけ、円 C' を円 C に接しながら滑らず回転させる。
 点 P の描く曲線(外サイクロイド)を媒介変数表示してみる。

解説
 右図において、より
 を求めるべく、Qが原点にくるように平行移動すると

 よって、
 
 となる。

  例2 は練習問題として生徒自身に導かせる。内サイクロイドも考えさせてよかろう。“ベクトル”の概念の利便性を分からせるよき例だと思える。

[2]グラフの周期性および対称性

( I )周期について
 「周期は、定期的に同じことが繰り返しされる事象において、任意のある時点の状態に一度循環して戻るまでの期間、時間のことである。」だから、周期(基本周期)が分かると一循環のグラフの概形を捉えるとよい。
●三角関数の基本周期 T について

三角関数 T
y = A sin a (θ+ b ) + c
y = A cos a (θ+ b ) + c
y = A tan a (θ+ b )+ c

●合成関数の基本周期 T について
  関数 f ( t ),g ( t ) の基本周期をそれぞれ T1T2 とする。
 合成関数 af ( t )+bg ( t ),f (t) g ( t ) の基本周期 T
   Tmin {T12T12T1mT2n,(mn は自然数)}
 である。
(例)y =3 sin x -sin 3 x の基本周期は 2π
  ∵ y =sin x の基本周期は 2π、y = sin3 x の基本周期は なので
 基本周期 T は となる。

y =3 sin x -sin 3 x のグラフ

●媒介変数表示による曲線の周期
  曲線 C
 xf ( t ) の基本周期をTx yg ( t ) の基本周期をTy とすると
 曲線 C の基本周期 T
   Tmin {TxyTxyTxmTyn,(mn は自然数)}
 となる。
(例) 例2 の曲線
   の基本周期は、2π
 ∵ x =cosθ の基本周期は 2π、y = sin2θ の基本周期は π
  よって、基本周期 TT=2π・1=π・2=2π となる。

曲線 のグラフ

( II )グラフの対称性について
●点の対称について
 xy 平面上の任意の点 P ( xy ) について x 軸に関して対称な点を Q y 軸に関して対称な点を R 、原点に関して対称な点を S とすると、
  Q ( x, - y ),R ( - xy ),S ( - x, - y )
である。また、直線 y x に関して対称な点を T とすると、
  T ( yx )
である。

●陽関数 y f ( x ) ,陰関数 F ( xy )=0 の対称性について
 グラフは点の集まりなので、上記の“点の対称”をもとに考える。

f ( - x )= f ( x ) を満たすとき、y 軸に関して対称。
(関数 f ( x ) は偶関数)
f ( - x )= - f ( x ) を満たすとき、原点Oに関して対称。
(関数 f ( x ) は奇関数)
F ( - xy )= F ( xy ) を満たすとき、y 軸に関して対称。
F (x, - y )= F ( xy ) を満たすとき、x 軸に関して対称。
F (- x, - y )= F ( xy ) を満たすとき、原点 O に関して対称。

●曲線 の対称性の調べ方について

( i ) x 軸に関して対称であることを示すには、
媒介変数 t の変域内に f (○)=f ( t ) を満たす○を見つけ、
その○が g (○)=- g ( t ) を満たすことを示す。
( ii ) y 軸に関して対称であることを示すには、
媒介変数 t の変域内にg (△) = g ( t ) を満たす△を見つけ、
その△が f (△)=- f ( t ) を満たすことを示す。
( iii ) 原点 O に関して対称であることを示すには、
( i ) かつ ( ii ) を示す。
( iv ) 直線 yx に関して対称であることを示すには、
媒介変数 t の変域内に g (◇)=f ( t ) を満たす◇を見つけ、
その◇が f (◇)=g ( t ) を満たすことを示す。

(例)
曲線 (リマソン曲線)の対称性を調べる。
〈1〉基本周期は 2π なので、0≦θ≦2π で考えると十分である。
〈2〉x (○) = x (θ) を満たす○を見つける。


x (θ) = (1- cosθ) cosθ のグラフは上記のようになり、○=2π - θ となるが、このグラフを直感的に捉えるのは難しい。そこで、x (θ)=(1- cosθ)cosθ を構成している 1- cosθ,cosθ について考える。

 x =1- cosθ,x =cosθ のグラフは下図のようになる。


 よって、グラフより ○=2π- θ が分かる。

〈3〉y (○)=- y (θ) を示す。
y (2π- θ)={1- cos(2π- θ)}sin(2π- θ)
      =(1- cosθ){- sinθ}=- (1- cosθ)sinθ=y (θ)
ゆえに、x 軸に関して対称であることが分かった。

[3]増減表及びグラフの概形

 関数 yf ( x ) のグラフの概形は x の値を増加させ、それに伴う y' の符号および y の値を調べることで捉えることができた。
 曲線 においては媒介変数 t により点 (xy ) が定まるから媒介変数 t の値を増加させ、それに伴うf ' ( t ),g' ( t ), の符号および点 (xy ) を調べるとよい。

ちなみに、 の導関数は合成関数および逆関数の微分法(「数学 III 」)によって
   
とできる。
(例)再び 例2 の曲線
  の増減表、グラフの概形
 この曲線は、基本周期は 2π で原点に関して対称である。(調べ方は先に述べた。)よって、第1象限にある部分のみを考えるとよいので、x ≧0,y ≧0 より θ の範囲を 0≦θ≦ で考える。

= - 3sinθ+3sin3θ= - 3sinθ+3(3sinθ- 4sin3θ)
=6sinθ- 12sin3θ=6sinθ(1 - 2sin2θ)
=6sinθ(1 + sinθ)(1 - sinθ)

0≦θ≦ において =0 とすると θ=0,

=3cosθ - 3cos3θ=3cosθ - 3(- 3cosθ+4cos3θ)
=12cosθ- 12cos3θ=12cosθ(1 - cos2θ)
=12cosθ(1 + cosθ)(1 - cosθ)

0≦θ≦ において =0 とすると θ=0,
よって、増減表は以下のようになる。

θ 0 …… ……
0 + 0
0 + + 0
+ 0
( xy ) (2,0) (0,4)

(注)最下段の矢印について
   >0 のとき
    x の値が左から右へ増加する場合は
    x の値が右から左へ増加する場合は
   <0 のとき
    x の値が左から右へ増加する場合は
    x の値が右から左へ増加する場合は
ゆえに、 であることと原点に関して対称であることを踏まえてグラフの概形を描くと下図のようになる。

 
3.おわりに

 “媒介変数表示の曲線のグラフの概形”の授業を板書だけで行うのは、図を描くだけでも時間がかかるし、媒介変数を変化させたときの点の軌跡を伝えるのも難しいので効果的でない。だから、授業には grapes や function view のソフトを用いてグラフを投影し、点の動的変化を見せながら視覚的に理解させる。また、できるだけ短時間で分かりやすくするために生徒にはポイントを書き込み式にしたプリントで作業等を行わせ、解説および答え合わせは power point を用いて行う。
 私は、平成17年度の3年生に対し上記のやり方で授業を実践してみました。生徒達はベクトルの活用、陽関数以外の曲線の表示形式としての媒介変数表示の意味を知り、大変興味をもったようでした。過去の大学入試問題に登場する曲線の媒介変数表示を与え、レポート提出を求めるとほとんどの生徒が喜んで取り組んできました。