授業実践記録
数学における基礎力の定着と応用力の養成について
−教科書レベルから入試問題の間のギャップを埋めるために−
群馬県立太田高等学校
坂本 誠
 
1.はじめに

 教科書の基礎的部分の理解ができていても、実際の入試問題は必ずしも解けず、大部分の生徒が問題を解けきれないのが現状である。そのため、教科書傍用問題集等で演習をしていくことになるが、それだけでは実際の入試問題になるとなかなか最後まで解答しきれないのが実状である。この問題集と入試問題の標準レベルのすきまを埋めるためにどのように指導をしていけばよいかが大きな課題となっている。
 さらに、入試問題を中心として演習をするには時間的制約もあり基礎的部分がおろそかになってしまうという事態も生じる。いかにこれらを解決し3年間で入試標準レベルの問題が解けるようにするか。この課題について本校での実践例の一部を紹介する。

 
2.問題点は何か

(1)演習の時間数が不足している。
(2)標準的な入試問題にあまり触れている時間がない。
(3)自ら解こうとする意欲が不足している、または解けない。
(4)基礎的な部分を忘れてしまう。(特に高校で新しく入ってきた分野)
以上4項目があげられる。
 これらについての具体的な取り組みについて以下に記してみた。
 
3.各問題点についての解決のための
具体的な取り組みについて

1)演習時間をどのようにして増やしていくか。

[1]

詳細な年間計画とその実施
 本校では原則として3年間を見通した指導計画を新一年生入学時に立案し、それを元に各学年ごとの各単元についてのコマ数の割り当てと単元の試験日を細かく書き込んだ年間予定表を年度ごとにたて生徒全員に配布し、その計画に沿って1年間の授業が実施される。(この単元ごとのコマ数については長年のデータの蓄積により生徒の理解に時間がかかるものについては多めにとるようにしている。)またこれにより生徒の計画的な学習の手助けにもなっている。
[2] 教科書の予習の徹底
 指導コマ数は最小限に設定されているため、予習をせずに授業にのぞんでも授業の進度についていくことができない。そのため各長期休業中に各学期の予習を宿題として課し提出を義務付けている。これにより教科書の基礎的部分はあまり詳しく解説することなく理解の困難な部分に時間をさくことができる。
[3] 単元ごとの入試レベルのプリントの配布及び教師の手書きによる解説の配布
 各単元ごとに問題集ではあまり多く扱われない問題や入試で頻出の問題を載せたプリント2枚程度を提出期限をつけて配布し各教科担当がチェックし手書きの解説をつけて返却する。
[4] テスト形式の早朝補習の実施
 基礎力の定着を計るために単元の試験前に早朝補習を実施する。前単元の復習ではなく、現単元の試験に向けての補習である。ただし、テスト形式での自学自習形式をとるため、下位者については同時間帯に少人数制の解説形式の補習を実施。

各単元の流れ
 

以上のような授業の流れで各単元の時間の短縮をはかりつつ、演習の時間の確保と演習を両立している。

(2)標準的な入試問題に触れさせるには

[1]

長期休業中の課外の実施
 ここで頻出の入試問題や基礎的な入試問題を用いての演習を行うことにより各学期の復習と入試問題の解法及び自分の弱点の発見と補強を行う。(1、2年時)
[2] 2年時秋頃に数学TUABの総合演習の実施(1〜2ヵ月程度)
 これにより各単元の総合的な再確認と各自の単元の弱点の補強を行う。
[3] 3年時はその年の入試問題による課外の実施
[4] 弱点単元の克服のための特別プリントの配布及びチェック
単元によって非常に定着の悪い分野については、各学年担当の判断でプリントの配布を行い弱点の補強に努める。

(3)自ら問題に向かわせるために

[1]

各単元ごとに配布されるプリントの提出
 プリントを提出させ教師がチェックすることにより生徒自らが問題を解く訓練をさせる。
[2] 各単元ごとに問題集のチェック表を配布し提出日までに提出させる
 提出時に問題集の詳解を配布する。ただし詳解は教師の手書きのものとする。
[3] 授業のはじめに前時の復習の豆テストの実施
[4] 3年時2学期後半からの添削指導

(4)基礎的事項の復習について

[1]

基礎的事項の復習
 すべての単元の復習が必要なわけではなく、高校で新しく入ってきた単元、特に2次不等式、三角比、三角関数、ベクトル、図形と式、数列の定着が悪いため、この分野については基礎的な問題のプリントの配布を授業とは別に行う。(ただし、3年になってからが多い)特に数列とベクトルについては最低3回以上の問題演習が必要であると考えている。
[2] 長期休業中の基本レベルの宿題による復習
 各学期内のすべての分野の基本問題(入試の基本レベル)を宿題として出す。
[3] 基礎は現在の単元のテストで応用は前単元の応用問題とする。応用問題とは参考書の各単元の例題や練習問題をチェック表で示しそれの類題等を試験問題とする。これにより前節の復習と入試問題に近い演習を自らすることになる。
 
4.まとめ

 入試までの時間を考えたとき、教科書レベルから入試の標準レベルまでの演習をするには、生徒のやる気と努力が必要である。そのためには数学を嫌いにさせないことと共に、努力をした結果の成就感が味わえるような環境を作ってやることが必要である。また、いくら演習をしても自ら鉛筆を持ち問題を解くという作業が伴わなければ、それは教員の自己満足であり、学力の増進は望めない。いかに自ら問題を解くという習慣を早いうちに身につけさせるかが大きな課題である。また、定着の悪い分野の演習のあり方も今後考えて行かなければならない課題でもある。現在、習熟度授業も3年時から取り入れて、定着の度合いにより演習の問題の難易度も工夫しているが、なかなか定着の進展がみられないのも現実である。