授業実践記録
発展的内容の授業の一例
3次方程式(カルダノの解法)について
宮城県宮城第一高等学校
橋富彦
 
1.はじめに

 高等学校では新課程になって3年目を迎え,いわゆる新カリキュラムの完成年度となりました。昨今,巷で叫ばれているように本校でも学力の低下が進み,一昔前までは当然のように知っていたであろう数学知識の欠落に目を疑います。また,計算力も徐々に低下し,少しでも煩雑な計算になるとすぐにあきらめようとする傾向にあります。しいては学年を追うに従って,数学離れが進んできているように思われます。受験校においては,このような状況を打破し、大学受験に対応するような学力をつけていかなければなりません。それには,日々の授業を通して,数学に興味・関心を抱かせ続けることが大切であると感じています。
 さて,ふだんの授業でひょんなことからわき道にそれたり,質問に応じているうちに難しい内容に入り込んだり,発展的な内容をちょっと紹介するつもりが深入りしてしまったりすることが多々あるのではないでしょうか。ここでは,そんな1コマを取り上げてみたいと思います。

 
2.授業展開

(1)ある日の微分の授業

 問題  次の3次方程式の異なる実数解の個数を求めよ。

       x3-3x+1=0

 y =x3-3x+1 とおき,微分して増減表をつくり,グラフをかく。

T. グラフは,x 軸と何回交わりますか。
S. 3回です。しかも異なる場所で交わっているので異なる実数解の個数は3個です。
T. そのとおり。正解です。
S. でも,その解はどんな値になるのですか。きちんと表してみたいです。
T. その値を求めてみましょうか。高次方程式を解くには何を使うのだったかな。
S. 因数分解をするために,因数定理です。でもこの場合使えませんが,どうするのですか。
T. 「複素数と方程式」の章の発展欄に3次方程式の解法の紹介が載っていましたね。
それに従ってやってみましょう。

   方程式 x3-3x+1=0・・・・・・・・・ [1]
これを解きます。まず, [1] に
   xuv ・・・・・・・・・・・・・ [2]
を代入すると
    u 3v 3+1+3(uv )(u v -1)=0
となる。よって,
    u 3v 3=-1, u v =1・・・・・・・[3]
をみたす u v をみつければ, [2] を用いて [1] の解が得られる。
[3] より
    u 3v 3=-1, u 3v 3=1
であるから,u 3v 3 は2次方程式
   t 2t +1=0
の解である。よって
   ・・・・・・・・ [4]
ゆえに,
    ・・・・・・・ [5]
したがって,解の1つは,
   ・・・・・・ [6]

S. 何か変だと思います。 [4] から [5] が導かれるところが理解できません。3乗根の中に虚数が入っていておかしい気がします。それから,残りの2つの解はどこに行ったのでしょうか。どうやって求めるのでしょうか。あと,[6] は本当に実数なのですか。
T. いろんな疑問が出ましたね。まず,[6] が [1] の解になっていることを確かめましょう。
 計算を簡単にするために, とおけば,
また, であるから,
    すなわち,
さらに,α は2次方程式 t 2t +1=0 の解だから, を満たしていることに注意すれば,[6] を用いて
   

よって,x3-3x+1=0 となって, は,最初の方程式 [1] の解になっていることがわかります。とにかく [6] は,累乗根のなかに虚数があって具体的にどんな数か分からないが,確かに解になっていることがわかりました。
ところで,一般に「3乗すると a になる数」は何だっけ。

S. じゃないですか。
T. あと,他にないですか。
S. ・・・・・・。
T. 質問を変えます。1の3乗根は何ですか。
S. x3=1 だから移項して,因数分解すると (x-1)(x 2x +1)=0 これから,

  x=1 と  あっ,さっきの α だ。

T. この虚数の1つを ω で表すと,1の3乗根は, となる。これは,以前やってあるよね。実は,上の α は ω と同じになる。もう一度聞くよ。a の3乗根は?
S. と・・・。
T. なかなか,出てこないようですね。答えは, の3つです。
S. どうしてですか。
T. 大雑把にいうと,x3a とおいて両辺を a で割って, これを と変形すれば, となって,
S. なるほど,わかりました。すると,[4] の u は,
   
  となる。
T. そうです。同様に v についても
   
S. そうか。あとは u v =1 をみたす,uv の組を見つければいいのだから,
   
となります。
T. いいですね。だから,[1]の解は,
   
となって,ちょうど3個出てきます。
次に, が実数であることは、時間がないので宿題ということにしましょう。
1つの考え方としては、 ab は実数)とおき,この式をみたす ab がみつかるといいですね。

(2)そして、次の時間

T. 前回出題した宿題はやってみましたか。
S. 両辺を3乗して i について整頓して係数を比較しましたが、うまくいきませんでした。
  具体的には,
    ・・・・・・[8] をみたす実数 ab が探せませんでした。
T. そうですか。カルダノの解法は累乗根と四則演算のみで解を表現するもので、三角関数などは使ってはいけないのです。しかし、これ以上簡単に表すことができないようなので、ル-ル違反になりますが三角関数を用いてやってみましょう。
まず、はじめの方程式 x3-3x+1=0・・・ [1] で x=2cos θ とおいてごらんなさい。
S. [1] で x に 2cos θ を代入して,8cos3θ-6cos θ+1=0 かえって,複雑になって見通しがつきません。
T. 2(4cos3θ-3cos θ)+1=0 と変形して,4cos3θ-3cos θ を簡単にできませんか。
S. 思い出しました。cos の3倍角の公式が使えます。これは,cos3θ に等しいので 2cos3θ =-1
よって, これなら,解けそうです。0 ≦ θ < 2π の範囲で
    となるから
   
したがって,
   
確かにすべて実数になりました。これでスッキリとした気分です。
S. でも,[7] の値と [9] の値がどのように対応しているのか分かりません。
T. それを説明するには準備が必要となるので,次の機会にということにしておきましょう。それでは,微分のところにもどって・・・・・・
 
3.おわりに

 このように,微分の分野の授業がいつの間にか代数方程式の話になってしまいました。
 教科書の発展学習を取り扱ったわけですが,どんどん深入りしてしまい,まるまる1時間つぶれてしまいました。今回の指導要領の改訂で数学Bの「複素数平面」がのぞかれ,ド・モアブルの定理が使えなかったのが残念です。高次方程式の解法は,いずれ群論やガロア理論へとつながっていくところでもあり,その意味からも「複素数平面」の復活を願うものです。何よりも虚数の必要性は,2次方程式ではなく3次方程式の解法にこそなくてはならないものですから。なぜなら,3次方程式では実数解を表現するのに虚数を用いらざるをえない場合があるからです。
 今回のことからいろいろなことに気づきました。たとえば,整式 a3b3c3-3abc の因数分解については, a3b3c3-3abc =0 をa についての3次方程式とみなし,カルダノの公式で解くと a=-b-c,-bω-cω2,-bω2-cω がえられ,

    a3b3c3-3abc =(abc)(abω+cω2)(abω2cω)

であることが分かります。また、a の3乗根はすぐに解けるものと思っていましたが,生徒にとっては,容易ではないことが分かりました。さらに、[8] の式を解くことからは,tan の3倍角の式にめぐり会うこともできました。
 1つの問題を考えることによって他の分野の内容がかかわってきているところに,数学の面白さを改めて感じとることができました。そして,このような経験の蓄積が今後の授業の活力になっていくと考えています。